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 女将さんの用意してくれた焼き鳥は、居酒屋『日和』で食べた味とは異なるけれど、優しい味がした。


 食事を終え、木崎はタクシーで寮まで送ってくれた。


「また逢っていただけますか?」


「……はい」


 木崎に対しての恋愛感情はまだ芽生えてはいない。『好きか嫌いか』と尋ねられたら、『人間的には好きです』と答えるだろう。


 お見合いのように、ゆっくりと互いの理解を深めていければ、それでいい。


 タクシーを降り、寮の入り口に向かう。女子寮のドアの前に日向が立っていた。


「雨宮さんお帰りなさい」


「……ただいま。私を待ち伏せしていたのなら、こんなことはやめて下さい」


「違いますよ。俺をストーカーみたいに言わないで下さい。帰宅したら偶然タクシーを見掛け、立ち止まった。それだけです。あの男性と付き合ってるんですね。幸せになって下さい」


「日向さん……」


 日向に付きまとわれている。日向から、まだ好意を寄せられている。


 勝手にそう思っていた私は、日向に突き放され、急に恥ずかしくなった。


「日向さん、お帰りなさい。雨宮さんと一緒だったの?」


 帰宅した吉倉に声を掛けられ、日向は私より先に否定した。


「違いますよ。雨宮さんには素敵な恋人がいますから。偶然一緒になっただけです。吉倉さんも今帰宅ですか?」


「うん、同期の女子会。こんど男子も一緒に飲もう。女子の幹事は私がするから、男子の幹事は日向さんがしてね」


「いいですよ」


「本当?嬉しい!いつやる?今度二人で打ち合わせしよう」


「わかりました」


 盛り上がっている二人に背を向け、女子寮のドアを開ける。


 楽しそうな吉倉の声を聞きながら、何故か寂しかった。

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