【13】逃がした大魚に寄り添う兎

柚葉side

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「おはようございます」


「あら、雨宮さん。お帰りなさい。もう体調はいいの?」


「はい。色々ありがとうございました」


「雨宮さんが風邪で実家に戻るなんて、初めてだから心配したのよ」


「ご心配をお掛けし、すみませんでした。おばちゃんの朝ご飯食べたかった」


「嬉しいこと言ってくれるね。和食でいい?」


「はい」


 日向はもういつもの席で朝食をとっている。


「吉倉さんおはよう。今朝は何にする?」


「おはようございます。おばさん、今朝はオムレツとホットコーヒーだけお願いします」


 吉倉は私に会釈すると、日向に視線を向けた。


「日向さんおはようございます。昨日はありがとう。同席していいですか?」


 日向は吉倉に視線を向け、「おはようございます」と挨拶をした。


 和食セットを受け取る。

 吉倉はオムレツと珈琲の乗ったトレイを受け取り、日向の席に向かった。


 私は少し離れた席に向かう。


「ごめん、吉倉さん。その席は先客がいるんだ」


「先客?」


「相席する人は決まってる。その人と一緒でもよければ、どうぞ」


 吉倉の顔色がサッと変わった。


「先客がいるなら遠慮するわ」


 吉倉は食事中の女子の元に向かい同席した。


 先客って誰?

 他の女子社員にも手を出してるの?


 イケメンだからって、次々女子社員に手を出すなんて、寮の規律を乱すなら寮から出て行ってもらいますからね。


 不快な気持ちのままトレイをテーブルに置く。


 私のトレイにスッと手が伸び、大きな手が掴んだ。


「雨宮さんの席はこっちでしょう。いつもここで食事してたんですよね」

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