110

 会社に行く気になれず、ずる休みを考えるなんて、社会人として失格だな。


 ◇


 翌朝、寒気がし目覚める。体の関節が痛み、喉も違和感がある。


 体温計を取り出し、熱を計ると三十八度を超していた。


 ヤバい……

 昨日雨に濡れ、本当に風邪を引いてしまったようだ。


 上司に連絡をし、病欠を告げた。食堂のおばちゃんには玄関の外に昨日の土鍋を置いておくと告げ、再び布団に潜り込む。


 常備薬は持ってないし、もう少し休んだら病院に行こう。三十分くらいうつらうつらしていると、玄関をノックする音がした。


 玄関を開けると食堂のおばちゃんだった。


 私の額に手をあて、「これは大変だ」と呟き、氷枕を用意してくれた。


「お粥置いとくね。今日は卵入ってるから。食べたら当番医に行きなさい」


 そうか……。

 今日は休日だ……。


「色々ありがとうございました」


「日向さんも心配してたよ。お大事に」


 日向も……。

 忘れてた。


 昨日……日向と……。


 いただいたお粥を少し食べ、眠りにつく。


 再び目覚めたら時刻は午前十時を回っていた。


 悪寒は収まったが体は湯たんぽのように熱く、さっきより熱は上がったようだ。


 ネットで当番医を検索し、病院に行く支度を整えタクシーを呼んだ。みんなはもう出社していて、寮は静かだった。


 病院で扁桃腺炎だと診断され、数日は高熱が続くだろうと言われた。注射を打ち薬を処方され、病院から実家に電話を掛けた。


「お母さん、三十九度あるの」


『まあ、三十九度?柚葉、一人じゃ心細いでしょう。扁桃腺炎ならすぐに熱は下がらないわ。暫く実家に戻りなさい』


「ありがとう。いいの?みんなに風邪移らないかな」


『そんなこと気にしなくていいのよ。タクシーでそのまま戻っておいで。着替えなら実家にあるから』


「ありがとう。そうさせてもらおうかな」


 寮のおばちゃんに世話を掛けるのも申し訳なくて、熱が下がるまで連続休暇を取り、暫く実家で休養することに決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る