107

 外は雷雨。ピカッと空が光るたびに、稲光に打たれたような衝撃が走る。


 トクントクンと鼓動が速まる。


「お客さん素敵な彼氏ですね」


 素敵な彼氏?

 そんなんじゃない。


 タクシーの後部座席。

 足元に視線を落とす。

 靴をなくし、居場所をなくした左足。雨の滴がポタリと落ちた。


 ――寮に戻った私は、寮の入口で日向を待った。部屋に戻ればいいのに、何故か戻れず軒下で佇む。


「あら、雨宮さんどうしたの?」


 食堂のおばちゃんと出くわし、白いタオルを貸してくれた。部屋に戻ればタオルなんていくらでもあるのに。


「片足だけ靴を無くしたの?まるでシンデレラだね」


「えっ……」


「夕食用意してあるから、着替えたら食堂においで」


「はい」


 ……シンデレラ?

 そんなロマンチックじゃないよ。

 いい大人が歩道で転んだんだから。


 おばちゃんに借りたタオルで濡れた体を包み込む。いつ戻るかわからない相手をここで待つなんて、やっぱりどうかしてる。


 右足のパンプスも脱ぎ、女子寮に入り部屋に戻った。


 濡れた体を湯船で温め、洋服を着替える。一時間後雷雨は止み、バルコニーで声がした。


「雨宮さん。雨宮さん」


 バルコニーに出ると日向が身を乗り出しこちらを見ていた。


「ちょっとそちらに伺いますね」


「伺うって?女子寮に入るってこと?ダメだよ、女子寮は男子禁制……」


「わかってます。みんな食堂に行ったみたいだし。預かっていたパンプスを持って行くだけですから」


「それなら明日で……」


 明日で構わないと言おうとしたのに、日向の姿はバルコニーから消えた。


 まさか……!?

 本気なの……!?

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