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外は雷雨。ピカッと空が光るたびに、稲光に打たれたような衝撃が走る。
トクントクンと鼓動が速まる。
「お客さん素敵な彼氏ですね」
素敵な彼氏?
そんなんじゃない。
タクシーの後部座席。
足元に視線を落とす。
靴をなくし、居場所をなくした左足。雨の滴がポタリと落ちた。
――寮に戻った私は、寮の入口で日向を待った。部屋に戻ればいいのに、何故か戻れず軒下で佇む。
「あら、雨宮さんどうしたの?」
食堂のおばちゃんと出くわし、白いタオルを貸してくれた。部屋に戻ればタオルなんていくらでもあるのに。
「片足だけ靴を無くしたの?まるでシンデレラだね」
「えっ……」
「夕食用意してあるから、着替えたら食堂においで」
「はい」
……シンデレラ?
そんなロマンチックじゃないよ。
いい大人が歩道で転んだんだから。
おばちゃんに借りたタオルで濡れた体を包み込む。いつ戻るかわからない相手をここで待つなんて、やっぱりどうかしてる。
右足のパンプスも脱ぎ、女子寮に入り部屋に戻った。
濡れた体を湯船で温め、洋服を着替える。一時間後雷雨は止み、バルコニーで声がした。
「雨宮さん。雨宮さん」
バルコニーに出ると日向が身を乗り出しこちらを見ていた。
「ちょっとそちらに伺いますね」
「伺うって?女子寮に入るってこと?ダメだよ、女子寮は男子禁制……」
「わかってます。みんな食堂に行ったみたいだし。預かっていたパンプスを持って行くだけですから」
「それなら明日で……」
明日で構わないと言おうとしたのに、日向の姿はバルコニーから消えた。
まさか……!?
本気なの……!?
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