68

 高校生だった日向と逢ったのは、家に訪問した2回と、小暮の働いていたコンビニ。


 わずか3回。日向が私を覚えていないのなら好都合だ。


 こちらに非はない。寧ろ、私にセクハラをしたのは日向の方なのだから。


 小暮との過去を日向は察している。

 小暮に怯えたように、日向に怯える必要はない。


 目の前で起こった状況を頭の中で整理し、肩の力を抜いて、残りのサンドイッチを口に押し込む。


 日向の家庭に何かが起き、怪我をした母親が亡くなり、彼は東京を離れ大阪に引っ越し大学に進学した。でもこれ以上詮索することはもう止めよう。


 私もあの時のことは、二度と思い出したくない苦い過去。彼が忘れているのに、無理に思い出させる必要はない。


 ◇


 ――午後一時、新宿のカフェで美空と逢う。


「あー、お腹空いた。柚葉もお昼まだだよね?」


「ごめん、簡単にすませた。気にしないで、何か食べて」


「やだ。先に食べちゃったの?信じらんない。店員さん、私ミックスサンドと珈琲。柚葉は?」


「私は抹茶オレ下さい」


 美空のオーダーに思わず笑みが漏れる。サンドイッチと珈琲で良かったなら、私が買ってきてあげたのに。


 性格は全然違うけど、食の好みだけは気が合う。


「やだ、何笑ってんの?」


「別に」


「そうだ。今日、陽乃からLINE入ってたでしょ。陽乃が休日に暇してるなんて、珍しいよね」


「そうだね。毎週婚活パーティーか、誰かとデートだもの。何処で待ち合わせしたの?」


「午後七時に新宿のマリオリッチに来て欲しいって。マリオリッチって何するとこ?カラオケかな?それともバー?」


「マリオリッチ?キングパーフェクトホテルにあるバイキングレストランだよ。ホテルの広間を貸し切ってパーティーも出来るんだよ。ていうか、美空知らずに約束したの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る