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「そうなんだ。食堂は男女共有なんですね。食堂で毎朝雨宮さんに逢えるんだ」


 つり革を握り電車に揺られながら、『毎朝雨宮さんに逢えるんだ』と言った日向の言葉に、心も揺れた。


「毎朝って、同じ総務部だし職場で一緒だよ」


「そうですよね。でも寮だとプライベートな気がして。休日も食堂で一緒になるなら、雨宮さんの素顔とか見れるのかな」


「やだ、素顔だなんて……。からかわないで」


 いつも休日の朝は素顔だ。

 素っぴんで普段着のまま朝食をとる。仕事から解放され、気分がリセットできるから。


 男性社員がいても意識したことは一度もない。男性社員も私を女性として意識なんてしない。食堂は空っぽの胃袋を満たす場所。


 それなのに、日向の言葉に過剰反応する私は、虹原と山川の熱い視線に、相当悪酔いしたようだ。



 ―花菜菱デパート独身寮―


 独身寮は三階建て、男子寮と女子寮のドアは中央に位置し仲良く並んでいる。


「じゃあ、明日ね」


「雨宮さんおやすみなさい」


「おやすみなさい」


 何か……

 変な感じ。


 この違和感はなんだろう。


 女子寮のドアを開け、廊下の突き当たりにある階段を上がる。

 私の部屋は二階、中央には男子寮と女子寮を仕切る壁があり、私の部屋はその壁に隣接した部屋。壁は薄く時折男子寮の物音がする。


 鍵を差し込みドアを開け室内に入る。

 六畳の洋間とユニットバス、トイレ。食堂が一階にあるため自炊する者はいないが、ミニキッチンと小さな冷蔵庫付き。簡単な調理なら自室ですることも可能。


 一階には食堂と男女別の大浴場、ランドリールームもあり、誰でも利用出来る。

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