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「先生、隠れてないで入って下さいよ」


 ていうか、入りたくないよ。


 凶暴な獅子ライオンの檻に入るくらいの恐怖感と危機感で、足が震えている。


 それなのに女将は、私の背中を押し室内に押し込んだ。


「お前は……電車の!?俺をつけて来たのか!チッ、ストーカーかよ!」


 彼が暴言を吐いたと同時に、バシッと大きな音が響く。女将が彼の頭を平手で叩いたのだ。


「バカタレ!先生になんて口をきくんだよ!先生すみませんねぇ。本当に口の利き方をしらないんだから」


 女将は不良息子に動じることなく、まるで猛獣使いみたいに厳しく接する。


「いてぇな!」


 女将は彼の言葉を無視し、私に愛想笑いをした。


「じゃあ先生。仕事があるんで、バカ息子を宜しくお願いしますね。ビシビシしごいて下さいね。私どもは体罰を与えたからといって、一切苦情は申しません。優しくすると舐められますからねぇ、ビシバシやって下さい」


「……はい。今日は面接と今後の方針を話し合うだけなので。あの……ご両親は進学希望ですよね」


「はい。三流でいいから、大学に入れてやって下さい。それじゃ、あとは宜しく」


 進学希望だなんて……。

 絶対に、ムリ……。


 女将はさっさと部屋を出ると、バタバタと足音を鳴らし階段を駆け降りる。


 部屋にポツンと残された私は、不機嫌な彼と二人きりになり険悪な空気に身も凍る思いだ。


 凶暴な獅子ライオンに食い殺される前に、一刻も早くこの檻から脱出したい。

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