陽side

 他校の不良達に電車内で絡まれ、思わず歯向かった。売られた喧嘩だ。俺は悪くない。


 いつもの俺なら、すぐに殴りかかるところだが、喫煙の停学が解けたばかり。こんなことで退学にされたら割が合わねぇ。


 怒りを堪え、グッと拳を握り我慢する。


 次の駅で引き摺り降ろされた俺は、奴らに容赦なく殴られた。


 我慢も限界だ。

 退学なんてくそくらえ。


 こいつらにナメられるくらいなら、退学になった方がマシだ。


 反撃寸前、駅員に制止され奴らは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


 あの制服は観月電大附属高校みづきでんだいふぞくこうこう。奴らの顔はこの目に全て焼き付けた。


 俺の邪魔をした奴は誰なんだよ。


 駅の構内には大勢の人が行き交う。顔を腫らし唇から血を流す俺を、好奇な目で見ている。


「なに見てんだよ」


 通行人を睨み付けると、みんな汚物のように俺をサッと避けた。人の波が途切れ、プラットホームの柱に隠れるように立っていた一人の女と目が合う。


 野暮ったい服装の女。膝下まであるスカート。白いブラウスに紺色のカーディガン。大きな黒い鞄に、ローヒールのパンプス。


 その風貌から、OLに違いない。


「ムカつく」


 その女と目が合った時、直感したんだ。こいつが駅員にチクったに違いないと。


 大人なんてみんなクズだ。他人のことは見て見ぬ振り。


 誰かがヤられていても、自ら助けたりしない。報復を恐れ傍観者になるだけ。


 傍観者のくせに、正義感振りかざし駅員や警察にチクる。


 学校に知れたら、俺が停学や退学に追い込まれることを、考えたりはしない。


 ただ自己正義感を満たすために、助けた気になっている。


 あの女がいい例だ。


 怯えた眼差しで、俺を遠くから見ているだけ。


 学校のセンコーと同じ、この世で一番ムカつくタイプ。

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