「あの…。今高校生が入店しましたが、居酒屋でのバイトは学校で禁止されているはずです」


「バイト?高校生?」


「はい。茶髪で不良の……」


「不良……」


 大将と女将は顔を見合せた。大将はブスッと口を歪ませ、女将はケラケラと笑った。


「うちの悪ガキですか?」


「うちの……悪ガキ!?」


「うちの問題児。あなた、学校の先生ですか?それとも補導員?まさか、婦人警察官ですか?顔を怪我してたようだし、また何かやらかしたんですかね?……まったく困ったもんだ。警察沙汰だけは勘弁してもらえませんか」


 彼はこの店の息子!?


 とんだ早とちりだ。


「申し訳ありません。私は学校の教師でも補導員でもありません。家庭教師を依頼されたお宅を探していて、偶然高校生が居酒屋に入るところを見かけ、差し出がましいことを……。ごめんなさい」


「いえ、いいんですよ。あの風貌ですから、勘違いして当然だよ。ところで家庭教師って、もしかして日向ひなたかい?」


「はい、日向さんの家をご存知ですか?」


「ご存知もなんも、うちが日向ですよ。よかった。今度は女の先生なんですね。あきらはすぐに男の先生と喧嘩しちまうから、女の先生の方がいいと思ったんだ。なぁ母ちゃん」


 大将の言葉に、思わず固まる。


 彼が……私の新しい生徒!?


 ――日向陽ひなたあきら!?




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