最前線の立体兵甲《ギア》
笹霧 陽介
◇◇1
人間とは、得てして
だが欲に忠実な生き物は、弱肉強食の世界において生き残ることが出来る。
これが生物の、地球の常識。
だった。
三十年前までは・・・・・・
『こちらアルファワン、現時刻を持って未確認生命体、ノーネームを敵と判断。攻撃に入る!』
『管制塔からアルファワン、了解した。全力で叩きのめせ!』
アメリカ国旗を付けた二機の戦闘機が「ノーネーム」と呼ばれる"生物"へと飛んでいく。
黒くて、戦闘機の何倍もの大きさがあるその物体は"生きている"のだ。
手足の概念があるそれは、まるでいつしか見た絵本に出てくる、世界を破壊し尽くす巨神だった。
『地球の強さを思い知れぇぇぇ!』
『やったか!』
『・・・・・・くそが! あいつピンピンしてやがる!』
『おいおい、やばくねぇか? 嘘だろこんなところで・・・・・・!』
巨大な体を自由に動かせるようで、旧式のミサイルしか積んでいなかった偵察用戦闘機では、まるで歯が立たなかった。
二機の戦闘機は、顔の周りを飛び回る鬱陶しいハエのごとく簡単に落とされた。
太平洋に現れたそれは、なにかに吸い寄せられるように、南北アメリカ大陸へと進んで行く。
水と油が分かれるように、その黒い生物は、水の上を走っていた。
各国の首脳は、テレビ電話による会談で、その生物から国土を、さらには地球を守るために共同戦線をつくり戦うことを表明した。
それはここ、日本でも。
「我々がノーネームと呼んでいるその生物は、現状の兵器では対応しきれないほどの強さを持っている! いつ日本に襲来してもおかしくはないのだ! 平和を守るためにも、我々日本国民は戦わなければならない! 進め! すでに止まることは許されないのだ!」
自衛隊は、日本国自衛軍へと名前を変えた。
しかし、その生物は消えた。
文字通り欠片も残さず、多くの人が見ている目の前で消えた。
ノーネーム対抗共同戦線は維持され、いつ現れるか分からない生物に、怯えていた。
何カ国もの協力の末に完成された、戦線の最高戦力。
唯一の対抗手段と言っても過言ではない。
兵器の名は"立体兵甲"と呼ばれた。
"ギア"とも呼ばれるその人類の最終兵器は、有人というところが惜しいものの、その性能は確かなものだった。
第一のノーネームと同等の大きさのギアは、近距離戦闘にも、遠距離戦闘にも対応できる優れもので、人々の希望となった。
第一のノーネームが現れてから四年後、第二のノーネームが出現した。
場所は太平洋。
前回と全く同じ場所に現れた。
人型という点は第一のノーネームと同じだったものの、第二のノーネームは細くて、前回の二倍の高さがあった。
だが、人類は屈しない。
ギアという対抗手段を使い、その年、人類は勝利した。
三体のギアを使っての勝利。
あまり戦況が良かったとも言えず、帰ってきた頃には今にも火をあげそうなくらいに壊れていた。
最初のノーネームが現れてから三十年。
一定の頻度で現れているかのように思われたノーネームは、ここ数年でそのペースを上げてきた。
今までが実験段階だったかのように、一度に三体のノーネームが攻めてくることもあった。
何度も、何度も、研究と改良を重ねてきたギアにより、何とか防いではいるものの、少しずつ戦況は傾いているようにも思えた。
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