Brothers

Kim 小野部 結糸

第1話 The first episode

【父 会長刺傷事件発生】


パク家の息子たちはそれぞれの場所でそれぞれの仕事をこなしていた。


ソジュンはフリーの映像クリエイターとして、クライアントから依頼されたイメージを形にすべくパソコンに向かっていた。

クライアント側にとっては、どう伝えたらよいかと頭を悩ますような表現も、視覚能力と認識能力のあるソジュンには手に取るように理解できる。

腕のいいクリエイターとして仕事の依頼が絶えない。

いつかは父の後を継がなければいけないか、とは思いつつ、今の仕事に満足している。


ジウンは自分がオーナーのバーで開店の準備をしていた。

共感能力がきわめて高いため、「私を理解してもらえる」と容姿も手伝ってか、カウンターにはいつも女性客が座っているバーだ。

また、ちょっとした料理の仕込みもする。メニューにはないが、軽食を出すことがあるからだ。今食べたいものや好みを感じ取れるので、裏メニューとしてこちらは男性客に評判だ。

アキラも通院の帰り、ユンソン兄さんと一緒に寄ったことがあった。

かなり気に入ったようで、リスのように頬張って食べていた。デザートまで美味しそうに平らげていった。


ソウは所属事務所でダンスレッスンに汗を流していた。

アイドルグループのメンバーで、結構有名になってきた。

聴覚能力に優れているため、リズムを取る事はもちろんの事、グループ全員の息遣いや心音まで聞き取れる。

息を合わせて踊る事は天職を見つけた感じだ。

兄弟の中では末っ子であり、父は大好きだが、父の企業の経営に関しては眼中にない。



「いい天気だ……いい入寮式になっただろうな。」ふと、窓の外を兄弟達がそれぞれの場所で眺めた。


突然すさまじい程の感覚が襲った。


ソジュンは、血が噴き出し、白いシャツが真っ赤に染まっていくビジョンを。

ジウンは、焼き付くような痛みに耐えられず、わき腹を押さえてしゃがみこんだ。

ソウは、すぐ横で発せられているような悲鳴と怒鳴り声で自分の耳を手で塞いだ。


「父になにかあった!」兄弟たちは直感で感じていた。


テレビで速報が流れた。

国内でも有数の財閥企業。会長の刺傷事件発生が報じられた。


連絡が入り、ソジュンが病院に駆けつけると、服を血で真っ赤にした秘書室長イ・ユンソンが手術室の前で唇を噛みしめ、怒りと悲しみで震えながら立っていた。


「ソジュン、俺が傍についていながら、こんなことになって…すまない。」

「ユンソン兄さん……兄さんが悪いんじゃない。」


かなり長時間の手術となった。幸い、命は取り留めたものの昏睡状態だ。


母は取り乱し、隣の病室で鎮静剤を打ってもらい寝ている。

寝顔からも涙が流れ落ちている。


ユンソンは警察の調書に協力すべく、病院を離れた。その後は会社で会長不在の緊急体制を取るべく指揮している。


俺とジウンが交代で病室に付くことにした。


人徳だというのは分かっているんだが、面会謝絶だっていうのに、どうしてこうも見舞客が多いんだ。



【お見舞い アキラ交通事故回想】


通院を兼ねてお見舞いに向かう車の中、まだ、事故の傷が癒えていない少年っぽさの残る青年が鎮痛剤の影響もあってか、うつらうつらしていた。

痛みから解放されていく中で心地よい眠気が誘っている。

公園に差し掛かった時、自転車の乗り方を子供に教えている親子が目に入った。


ボクもあんな時があったっけな。

そういえばパパが言ってたっけ。

「始めから出来る人にとっては、なんで出来ないのかがわからないんだよ。

出来ない人が出来るようになった方が素晴らしいと思うんだ。

だって、どうしたら出来るようになるか教えることができるだろ。パパも最初は乗れなかったんだ。

コツを教えてあげるから、練習してだんだん上手になっていってごらん。」



パパ、今日はおじいさんのお見舞いに行くよ。

パパとママが亡くなって、おじいさんもこんな目に合うなんて。

僕が不幸の種なのかな?

そんなことないよね。天国から見守ってね。

パパに会いたいよ。ママに会いたいよ。


僕が両親を失った事故。あっという間の出来事だった。


僕はママのショッピングのついでにパパと新しいパソコンを買いに行った。

ちょっと値段は張るがハイスペック搭載の希望通りの品をゲットし、ハンドルを握るパパとウキウキしながら今度開発してみようと思っている、新しいアプリのアイデアを話していた。


「え?」パパが前方を見据えて言った。


一台のトラックが対向車線をはみ出して猛スピードで向かって来るのがみえた。


「パパ!」

「きゃー!!」


後部座席にいるママの悲鳴のすぐ後、すさまじい衝突音と衝撃が僕を襲った。


どの位経っただろう。それ程時間はたっていない気がする。

頭から血がポタポタと流れ落ちる感覚がある。

片足がダッシュボードに挟まっているのが見える。動かない。感覚がない。

「パ、パ……。ママ……。」

横を見ると、白いはずのエアーバックがどす黒いほどの赤に染まっていた。

ガソリンの臭いがする。


「パパ。」必死に声を出した。

うっすらとパパの目が開いた。


「アキラ、外に出て……(このままでは危ない。)」

「(無理だよ、足が、)足が……」


そのままパパの目はグチャグチャに割れたフロントガラス越しに外を見た。


「アキラ」…… 僕の名前を呼ぶパパの声を聞いた直後、僕の体は車から抜け出し、パパが最後に見たであろう風景の中にいた。


薄れていく意識の中、爆発音が聞こえた。

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