サヨナラの宇宙

ヤケノ

第1話 卒業

今日は卒業式で、彼は卒業生だ。


小学校生活最後の日。涙を流す別れの日。


それは悲しいサヨナラなんかじゃなくて、すべての始まる日だった。




外はようやく暖かな春の季節の足音が遠くから聞こえてきた。

田舎の小学校の体育館はほとんど暖房が効いていなくて肌寒い。在校生の小さい子たちは卒業する先輩との別れよりも、早く卒業式が終わらないかと、この冷たい空気の中で考えている。


どうせ近くの中学校に行くだけで、別れなんて大げさなことをしなくてもいいのに。

去年はそう思って卒業式の準備を手伝っていたのに、いざ自分の番が回って来たら涙がすっと流れた。

小学校の六年生なのだから、年下の子たちの前で泣くわけにはいかないと変なプライドがあって、顔をゆがませて涙をこらえている。


担任の女先生に名前を呼ばれた。

普段はジャージなのにこの日は、はかま姿できっちりとお化粧をしている。いつもならみんなでちゃかすところだけれど、この日は特別で、みんなそんな先生の格好を笑ったりせず、卒業式が始まる前から別れの悲しさがあふれて来た。


田舎の学校は人数が少ない。クラスも学年ごとに一つしかない。

だから、校長先生もしっかりと顔と名前だけじゃなく、個人個人の特徴をしっかりと把握している。

昼休みに一緒に遊んだこともあった。


だから、卒業証書授与の時に一人一人にかける言葉の温かさがものすごい。

絶対に泣かないと言い張っていた気の強い男の子も堪え切れなかった。もちろん、その言葉をかけている校長先生だって涙目だ。


星野鉄也はあまり目立ちたがらない子供だった。そんな彼も卒業証書を受け取る時は場内の注目を集める。壇上では、照れたり、嫌がったりすることなくただ涙をこらえるために口をぎゅっとつぐんで受け取り、深く礼をした。


旅立ちの日を祝う歌と、その小学校の校歌を歌い終えると卒業式も終わり。

卒業証書の入った筒のふたをポンポンと開け閉めしながら、あとは忘れ物をしないように最後の下校をするだけだと星野鉄也は思っていた。


化粧の上に涙のあとのある担任教師が、体育館の前にあるバスの方へと卒業生たちを誘導する。



「あれ?」



バスに乗ってドナドナされる。

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