瞳の中の英雄

@binzokomegane

前編

かばんを送る催しも終わり、静けさが戻ってきた筈のゆうえんち。

しかしその一角からは、今もなお煙が立ち込め、それなりの数のフレンズたちが集まっている。


「順番はちゃんと守れよ。料理は逃げないからな」


「どうぞ。食べ過ぎないように気をつけてくださいね」


「はーい!お皿を持って、列に並んでくださいねー!」


そこには、火の様子を見つつ調理をするヒグマ、フレンズが持ってきた皿へ料理を盛るキンシコウ、料理を取りに方フレンズたちを列に並ばせるリカオン、セルリアンハンター三人の姿があった。

もはや一か月以上前となる再生セルリアンとの戦い以降、セルリアンの発生件数は激減し、手すきになることの多くなったハンターたちは、暇な日は経験を生かし他のフレンズ達に料理を提供するようになっていたのだ。


「おっと……タネが尽きたか。済まない、今回はここまでだ!また昼からもう一度配るからな」


「そんなぁ。せっかく遠くから来たのに……がっくり」


「貴女がなかなか起きないからでしょっ!ここまで来たら昼まで待つわよ、私だって食べたいし」


「えぇ〜!ボク早く帰ってげぇむしたい〜」


「我慢なさい!そもそも貴女が言い出したんだから」


肩を落としつつも、料理を楽しみにしていたフレンズ達が思い思いに散っていく。

衣食住に困ることもなく時間も有り余っているフレンズ達にとって、料理は娯楽の一つでしかない。

すぐ食べられないことに文句を言うようなフレンズは殆どいないのだ。


「お疲れ様です、ヒグマさん、リカオンさん。今回も盛況でしたね」


「はい、キンシコウさんもお疲れ様ですっ。だいぶ私も慣れてきて、列が上手に捌けるようになってきましたよ」


「ありがとうな、二人共。私の我儘に付き合ってくれて」


すっかりこの作業にも手馴れてきた様子の同僚たちに対し、ヒグマは礼を述べた。

かばんを送り出す催しで得た経験を生かし、フレンズ達への料理の提供を行いたいと相談をしたのは彼女だった。

そんな意外な提案を、キンシコウもリカオンも、快く二つ返事で引き受けてくれたのだ。


「我儘なんて!他ならぬヒグマさんの頼みなんですから、喜んでお受けしますって!セルリアンに比べれば全然安全ですしね」


「えぇ。それに、私も料理を皆さんに配って喜んで貰えるの、凄くいいな、って思ってますから。楽しいんです」


「そうか……良かった」


笑顔で語る二人に、ヒグマはほっと息を吐く。

無理に付き合わせてしまっているのではないかと、不安で仕方なかったのだ。

第一印象では無骨で冷たいフレンズと見られることも多いヒグマだが、その心根はとても繊細で傷付きやすい。

ハンター仲間であり、かけがえのない友人でもある二人に対しても、一度のみならず何度も、自分の望みを手伝ってくれていることに感謝の言葉を述べなくては気が済まないほどに、他者のことを慮らずに居られないフレンズなのだ。


「しっかし、最近はすっかりハンターっていうより料理人って感じですよねぇ。私達」


「博士によれば、かばんさんが、セルリアンが生まれる原因になる、サンドスター・ロウ?というものを、封印してくださったそうですからね。本当に凄い方でした」


「あぁ。ハンターである私達以上に、このパークに大きな平和をもたらしてくれたんだ。どんなに絶望的な状況でも、策を練り上げる知恵、敵から目を逸らさない勇気。尊敬している」


既にヒグマたちのいるキョウシュウチホーを去り、ゴコクチホーへと旅立っていった不思議なフレンズのことを懐かしむ。

力も弱く、貧弱で、一見リカオン以上におどおどとして控えめな態度なのに、その実ヒグマすら上回る強い芯を持ち、全力で自分に出来ることと向き合える、とても素晴らしい人物だった。

実際、彼女の協力なくして再生セルリアンを撃破することは不可能だっただけに、ヒグマたちからの信頼は強く、その評価は決して高すぎるなどということはない、本心からのものであった。


「私もです。頭もいいし、判断も的確だし、料理もできちゃうし。憧れちゃいますよ。出来ないことなんてないって感じします」


「私達も、負けていませんよ。料理だって、かばんさんの味より、ヒグマさんの味の方が好きって方も多いんですから」


「いや、まだまだだよ……私は」


キンシコウに持ち上げられ、困ったような笑みで謙遜してみせる。

ヒグマの味付けは、甘さが強く辛みが控えめで、多くのフレンズから食べやすいと好評だ。

コノハちゃん博士やミミちゃん助手などは、『刺激が足りない』と毎度文句を垂れてはいるが、それでもふてぶてしくちょくちょく食べに足を運んでいる。

……因みに何故甘口かといえば、ヒグマ自身が超がつくほどの甘党なうえ、かばんの味付けでは味見にも苦労するほどに辛いものが苦手な為だ。

ヒグマは自分だけの秘密にしているつもりだが、もちろんキンシコウとリカオンにはバレていた。


(思えば……随分知り合いが増えたな)


ふとヒグマは、料理を始めてから自分の近くが賑やかになったことを実感した。

今までは、上手い接し方がわからず、相手を傷つけてしまうのが嫌で自ら距離を置いていた。

いつセルリアンに食べられてしまうかもわからない自分は、他者との触れ合いを避けるべきだと戒めてきた。

その考えが、料理を通しフレンズたちの喜ぶ顔を向けられたことで、逆に自ら触れ合いを求めるほどに変化してしまったのだと、今になって自覚ができたのだ。


「なぁ……二人とも」


「なんですかヒグマさん?改まって」


「どうかしましたか?」


「いや、なんというか、さ。このまま、私達みんなで……料理人として暮らしてくのも、悪くないかな……なんて、さ」


「え、ヒグマさん……」


「……料理人として、ですか」


「……いや、なんでもない。気にしないでくれ。道具を洗ってくるよ」


あっけに取られた二人に、誤魔化すように言って、調理道具を抱えて川の方へと歩き出した。


(なんであんな事を言ったんだ、私は)


つい、口に出してしまった言葉、その意味するところを、考えないようにするかの様に。


「ヒグマさん……どうしたんでしょう」


「……リカオンさん」


その後姿を見送り、リカオンは不安げに話しかける。

対するキンシコウは、悟ったかの様に、神妙な表情をリカオンへ向けた。


「もしかしたら……ヒグマさんは、もう、戦いたくないのかもしれません」


「え……」


言葉を失うリカオン。

あのヒグマが……例えリカオンやキンシコウが倒れても、独りで戦おうとするだろうヒグマが、ハンターをやめたい、と。

それはリカオンにとっては考えもしなかった、予想の外にも程がある推測だった。


「えっ、でも、なんで……ヒグマさんが?そんな……」


「戸惑う気持ちは、よくわかります……」


事実、キンシコウもまた、戸惑っていた。

しかし考えてみれば、あの頑なにフレンズを寄せ付けたがらなかったヒグマが、料理をしてみんなに提供したい、そう自分から申し出ていたのだ。

なんらかの大きな心境の変化があったことに、確かにキンシコウは気づいていた。


「きっと……ヒグマさんは、憧れてるんです。もう重い物を背負わなくていい、何かを守るために辛い思いをしなくていい、そんな穏やかな生活に」


「穏やかな……そっか。そうですよね」


取り乱していたリカオンだが、キンシコウの言葉に納得する。

戦うのは怖いし、辛いのは嫌だ。それはヒグマだって同じ。自分と同じフレンズとして見れば、キンシコウの推察するヒグマの想いは、なんの事はない、当たり前の感情だ。

ましてや、今までずっとそれらを引き受けてきたヒグマならば、尚更。


「キンシコウさん。私は、ヒグマさんがハンターを辞めて料理人をやるというなら、そうするべきだと思うんです。だって、ヒグマさんは、今まで十分頑張ってきた……もう休んだっていいと思うんですよ。好きに生きたって」


「えぇ、そうですね。それで、三人で、一緒に……」


「……いえ、ごめんなさい。それは、出来ないです」


「え……?」


リカオンの、決意に満ちた声に、今度はキンシコウが驚く番だった。


「私は、一人でハンターを続けます。だって、必要とされているんですから……ハンターになる前の私より、戦うのが苦手なフレンズなんていっぱいいる。きっとこれからそういう子が出たら、優しいヒグマさんは、絶対に傷ついて、後悔してしまう。それじゃ、駄目じゃないですか」


「リカオンさん……」


キンシコウは、心から感嘆していた。

あの、戦うのが辛いと日頃から口走り、それでもなんとか必死にヒグマの後を追っていたリカオンは、いつの間にかこんなにも大切な人を思いやり、矢面に立てるまでに成長していた。

……ハンターとして長らくヒグマを支えてきた自分でさえ、共に穏やかな生活を送る道を思い描くに留まっていたのに。

今のリカオンは、その更に先にあるものを見据えているのだ。

そして、だからこそ。

彼女は敢えて、厳しい言葉を投げかける。


「リカオンさん……率直に言います。貴女はまだヒグマさんに及ばない。一人では未だに自分より大きなセルリアンを倒すのも難しいのに、それでもやると言うんですか」


「……はい。私が、『セルリアンハンター』を継ぎます」


鋭い視線を向けるキンシコウから目をそらすことなく、リカオンははっきりと答えて見せた。

今まで、何処か感じさせていた頼りなさなど影すらもない、真っ直ぐ、強い光を秘めた瞳。


(……あぁ)


その中に、キンシコウは見いだしていた。

ヒグマの姿を。

リカオンの英雄の姿を。


「……わかりました。でも、一人でやるのは認められません」


「認めてもらえなくても、やります……!」


「焦らないで。私も、一緒に戦います」


「キンシコウさんも?でも……」


リカオンは知っていた。

キンシコウとヒグマ、二人は同じハンターであるリカオンすら立ち入れない程の深い絆で繋がっている。

ヒグマがほかの誰にも見せない弱い姿を、唯一安心して見せられる相手なのだ。

そしてキンシコウもまた、そんな不器用なヒグマの支えになりたい、側に居たいと願い、寄り添っている。

ヒグマがハンターを辞めると言うのならば、キンシコウもそれに続くべきであろう。

そんなリカオンの考えを、キンシコウは微笑みと共に改めさせる。


「リカオンさん。貴女だって、ヒグマさんと同じ。私の大切な仲間、友達なんですから。一人で背負わせるなんて、できませんよ。支えさせてください」


「……いいんですか」


「えぇ。それが、私の望みですから」


「キンシコウさん……っ!ありがとうございます、本当は心細かったですよぅ!」


「ふふっ。それでこそリカオンさんですね」


先ほどまでの凛々しさは何処へやら、すっかり元の調子に戻ったリカオンにキンシコウは破顔する。

いつも通りの和やかな雰囲気が二人の間に流れたが、それは長くは続かなかった。


「ハンター!いるっ!?ハンターッ!」


「この声……ギンキツネさん!何かあったんですか?」


「えぇ、セルリアンに襲われて、私は何とか逃げてきたけど、キタキツネが!」


「わかりました、直ぐ救援に向かいます!リカオンさんは早く現場へ、私はヒグマさんを!」


「……いや、私たちだけで、やりましょう」


「リカオンさんっ……そうですね。そうしないと」


ヒグマの元へ向かおうとしたキンシコウだが、リカオンの言葉に思い直す。

ヒグマの平穏の為には、彼女の力なしで危機を乗り越えなくてはならない。

二人でやらねばならないのだ。


「考えがあります……私が先行しておきますから、キンシコウさんは『アレ』を持ってきてください」


「『アレ』……ですか。確かに、セルリアンには有効な筈。わかりました、準備しますから、リカオンさんは先に」


「はい!行きましょうギンギツネさん、案内をっ!」


「えぇ、こっちよ!早く!」


頷き合い、リカオンはギンギツネと共に現場へ、キンシコウはその場で準備を始めた。

ヒグマに頼らずとも、自分たちの力だけで危機を退ける為に。

パークの、ヒグマの平穏を、守れるのだと示す為に。


◆◆◆


近くの川で、ヒグマは中々落ちない鍋の汚れと格闘していた。


「まだ、落ちないか」


具を掻き回すのが甘かったか、底の方に汚れがこびりついている。

おまけに鍋底の凹凸の隙間にはまり込んでいるようで、中々擦っても効果が出ない。


「……クソッ、なんで私はあんなことを」


その鍋底の汚れのように、ヒグマの頭の中では、先ほど二人の前でこぼしてしまった言葉が反響して拭い去れないでいた。


「クソッ、クソッ……」


「何を荒んでいるのです、こんなところで」


「おわっ!?……は、博士か」


背後から掛けられた声に、らしくもなく一瞬不意を突かれた。

立っていたのは、普段は図書館に篭っている島の長こと、アフリカオオコノハズクのコノハ博士だった。

見られたくない姿を見られたバツの悪さを誤魔化すように、ヒグマは質問を返す。


「そ、それはこっちのセリフだ。博士こそ、なんでこんな所に?助手はいないのか?」


「勿論料理をせがみに……フィールドワークに来たに決まっているのです。助手は少々要件があり、遅れているのです。匂いを辿ってきたら、お前がぶつぶつ言ってるのが見えたのですよ」


「……放っておいてくれ、今日は昼まで店じまいだよ」


「駄目なのです。長として早急なる対応を要求するのです」


「……ハァ」


ヒグマはため息をついた。

このコノハ博士というフレンズは、助手を含め、島の長という立場あってか非常に図々しい。

確かに彼女らはフレンズの中ではとても賢く、何度か助言を受けた恩もある為、一応は敬っているが、正直ヒグマは長と言われてもパッと来ておらず、どちらかというとその図々しさに耐えかねて言うことを聞いている。

今回も引く気はないのだろう、その大きな二つの目でじっとこちらを見つめてくる。


「……悪いけど、本当に今は勘弁してくれ。そういう気分じゃないんだよ」


「仕方ないですね。なら、料理を作ってもいい気分になれるよう、手伝ってやるのです。さぁ、さっさと吐いて楽になるのですよ」


「手伝うなんて言って、気になるから聞きたいだけだろ」


「そうですが、それだけではないのです。悩めるフレンズを導くのも、長の使命なので」


「……わかった。話すよ」


表情の読みづらい博士だが、その瞳には確かな真摯さがあった。

ここまで食い下がられては、と、ヒグマも観念し、その内心を吐露することにした。


「……ハンター、さ。続けられる自信が、無いんだ」


「自信が無い、ですか」


「あぁ。なんか最近、急に……怖く、なって。笑っちゃうだろ」


ヒグマは、手元の鍋に目線を落とし、自重気味に笑った。

今まで、両の手で数え切れないほどの修羅場は優にくぐって来た筈の彼女から、今更そんな弱気な言葉がでているのだ。

鍋の中の水面は揺らぎ、写り込んだその顔が酷く歪んでいる。

博士は、少しも笑いはしなかった。


「可笑しいかどうかは、理由を聞いてから決めるのですよ。我々はかしこいので、うわべだけで判断しないのです」


「理由、か。そうだなぁ……なんか、最近、楽しいんだ、凄く」


「料理が、ですか?」


「それが、きっかけかなぁ。私が料理作るのさ、キンシコウやリカオン、嬉しそうに手伝ってくれるんだよ。料理を食べたフレンズ、みんな喜んでくれるしさ」


「えぇ。我々も、こう見えて感謝しているのですよ。有り難く思うことです」


「あぁ、ありがとう。いつも来てくれて、嬉しいよ。……でもさ、そうやって、楽しくなればなるほどさ、どんどん戦いをやりたくなくなってくんだ。だって、痛いし、苦しいし、助けた子にだって怖がられたりするし、楽しい事なんてろくにないんだよ」


「もともとお前が望んで始めたことですよ。楽しくないのも分かっていた筈では?」


「そうだよ、分かってる。分かってる、つもりだったんだけどな」


天を仰ぎ、ヒグマは溜息をつく。

それは、自分へ向けられた諦観のようであった。


「今まではさ……楽しいことなんてなかったんだ。ずっと怖くて怖くて、仕方なくて、それに追われてた。何も失いたくない、無くなるのが怖い、って。でも、料理をやって、みんなに喜んでもらえて、それが凄く楽しかった。そうしたら、なんだか違ってきちゃったんだよ。それまでは、何を失うのも嫌だった……いや、なんていうか、今もそれはそう。でも、もっと、他の何かのために、あの、楽しい時間を失うかもしれない、っていうのが、嫌なんだ。きっと」


「……なるほど」


迷うように……言葉を選びながら、ヒグマは心情を紡ぐ。

コノハ博士は眼を閉じて頷き、少しの後に切り出した。


「きっと、お前は今、『幸せ』なのですよ。心が安らいでいるのです」


「『幸せ』……そうなのか」


「えぇ。そして、『幸せ』というのは、どんなフレンズにとっても、大切なものの中でも、とびきりに大切なものなのです。お前にとって、今手に入れている『幸せ』が、他の大切なものを手放してでも守りたいものになっている、ということなのです」


「……そうか、私は、そこまで」


博士の解説をうけたヒグマの脳裏に、キンシコウ、リカオン、そして料理を通して触れ合ったフレンズたちの笑顔が浮かぶ。

確かにその中で、ヒグマの心は安らいでいた。

セルリアンと向き合う中では決して得られない、安寧があった。


「博士、ありがとう。やっと、自分の気持ちを理解できた気がする」


「礼なら料理で頂くのです。それに、まだお前の悩みを解決したわけではないので」


今までより清々しい表情を見せるヒグマに、コノハ博士は厳しい声で返した。


「それで、改めてお前はどうしたいのです?ハンター、やめるのですか。やめないのですか」


「……正直、やめたいのかもしれない。でも、それも、怖いんだよ。きっと、あの二人は喜ばない」


ヒグマが目を落とした水面に、、あの時のリカオン、キンシコウの表情が浮かび上がったような気がした。

思っても見ないことを言われた、呆気にとられたという顔だ。

それが、失望の色に変わるのを……きっと自分は恐れている。

普段の覇気のかけらもないその背中へ、博士はしかし叱咤するでもなく、更に問うた。


「怖い、という気持ちは、わからないでもないのです。しかし、ちゃんと二人に聞いて、そう言われたのですか?お前の信頼する仲間は、そんなにも簡単にお前を見限るのですか?推測だけでは話にならないし、少しも状況は変わらないのですよ」


「‪そうだ……そうだな。私は怖がって、ちゃんと話し合う事からも逃げてた。勇気を出して、相談、してみることにするよ。このまま悩んでるままが、一番よくないから」


「うむ。そうすると良いのです。待ってやるから、ちゃんと話してすっきりしたら、真っ先に我々のぶんの料理を用意するのですよ」


「あぁ、ありがとう、博士。なるべく早く用意できるようにするよ」


幾分か気も晴れたのか、大分前向きな態度で、ヒグマは洗った料理道具を抱えて歩いていく。


「全く。世話が焼けるフレンズばかりなのです。長も楽じゃないのです」


その背中を見送る博士の表情は、言葉とは裏腹に、少し嬉しげだった。

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