第8話:サーバーと謎の数々

 秋葉原の貸しビルで発見されたサーバー、そのデータ量が異常なのはネット上でも話題だったが――難点として電力消費も常軌を逸している箇所があった。

 その電力消費は電気代換算で月10万円を超えるとも言われているのだが、計算した事はないので詳細は不明。。

 ゲームセンター等では、これよりも上と言う事もあるかもしれないが……。

 しかし、それ程の電力消費のするサーバーを誰にも気づかれずに隠し通せたのには、太陽光システム以外にも電力を発生させるシステムがあったからだ。

「なるほど。これが、ARガジェットの動力源の正体か」

 バウンティハンターとして動く人物の一人、彼女は黒のARガジェットアーマーを装着し、その重装備は無敵艦隊を連想させる。

 しかし、彼女には別のコードネームが存在していた――その名はビスマルク。

「あれだけの電力消費で太陽光、風力の自家発電だけで補えるとは思えない」

 ビスマルクの懸念していたのは、ARガジェットの動力源が非常に危険なものである事だった。

 それは、魔力とも言われているが――今の近代日本で魔力と言って信じられるケースがあるだろうか?

【魔法を動力源とか、大手Webサイトの小説じゃあるまいし】

【SFでも米粒程度の大きさで異常な量のエネルギーを発生できる物もあるが……】

【それこそフィクションの世界だ。この地球でクリーンなエネルギーが存在するとでも?】

 さまざまな議論がつぶやきサイト上で起こるのだが、目の前にある事例を見た後では否定出来る人物は皆無と思われた。

「賢者の石でも存在するかと言われれば、それこそあり得ない。全てはアカシックレコードの技術とARゲームで解決できる」

 ビスマルクは賢者の石等のオカルトを信じるような気配はなく、アカシックレコードの技術とARゲームの技術を融合させたものとして考えていた。



 5月も下旬になり……6月も近づいたある日の事。その事件は発生した。

 5月26日、別のタダ乗り便乗勢力がミュージックオブスパーダに姿を見せ始め、こちらも理論値を次々と叩きだす案件がつぶやかれた。

【あの時と同じだ】

【どうせ、バウンティハンターが片づけるだろう】

【しかし、超有名アイドルの宣伝目的だった勢力とは何かが違う】

【政治的なデモなのだろうか?】

【それこそ、なおさらあり得ない。奏歌市で政治的な案件を持ち込むのはタブーとされている】

【バウンティハンター以上に恐ろしい敵を回すのであれば、地雷を踏むような事はしないだろう】

【それほど恐ろしいのか?】

【ネット上では『ご都合主義』とも言われているが、真相は不明だ】

 しかし、今回の勢力は外部ツールを使っている気配はない。

 ブラックリストに入っている物を読み込ませると、即座にエラーを吐く仕組みになっている。

 これは一連のチート行為が広まった事に対応する為の物であるのだが、ブラックリスト外のチートガジェットが出回れば……どうなるかは想像に難くない。

「理論値をたくさん出せれば、いずれは大金が入ってくる環境になるだろう」

「このダークガジェットさえあれば、それが実現出来る! この圧倒的な力があれば……」

「この発言って、もしかしてかませ犬フラグか?」

 チートガジェットを使っていたプレイヤーはつぶやく。この手の発言がフラグなのは、過去にも同例が存在する。

《乱入フィールドが展開されました》

 ダークガジェットを使用していたプレイヤーに、あるメッセージが表示される。彼らがプレイしていたゲームはFPS系のサバイバルゲーム。

 それに加え、乱入システムも実装されているのが逆に仇となった。 

「お前達か。外部ツールを使用したガジェットを売りさばいている転売業者は」

 目の前に姿を見せた乱入者、それは元祖バウンティハンターだった。彼らにとっては想定外の乱入者だ。

「だったら、どうする気だ! バウンティハンター」

「丁度いい! 彼を倒せば、外部ツールを更に拡散させる事が出来る。チートを取り締まる存在は消滅するだろう!」

「外部ツールを売りさばき、今度こそ我々の推しアイドルを信仰対象として――」

 ある人物の不用意の一言、それはバウンティハンターを本気にさせるだけの発言になったのは間違いない。

「お前達――」

 次の瞬間、バウンティハンターの重装甲アーマーは消滅した。ARガジェットで言う所のガジェット交換という具合だろう。

 声もボイスチェンジャーで変換されていたらしく、この声は先ほどの男性とは異なるトーンの声だ。

 そして、バウンティハンターの装備したのはワンオフ型の青色のガジェット、あの時に長門未来が使用した物と類似する物はあるが……。

 バイザーのメットが装備される瞬間、バウンティハンターの素顔が見えた。どう考えても女性である。

「その発言を軽はずみに拡散させようとした事、後悔させてあげるわ!」

 彼女の名は加賀ミヅキ、アカシックレコードにも似た名前が存在する人物だった。

 そして、次の瞬間には外部ツールを転売していた業者は警察ではなく、とある運営に突きだされていたのだ。

 その運営とは……ミュージックオブスパーダの運営なのだが、加賀がFPSの運営ではなくスパーダの方へ突き出したかは定かではない。



 5月27日、朝のニュースで転売業者を陰で操っていた大物政治家が逮捕されたというニュースが報道されていた。

『今回逮捕された政治家は、人気アイドルグループの会場誘致に関係した人物で、チケットの大量転売を手引きしたと思われ、所属していた政党そのものが転売――』

 そのテレビを見て驚いたのは、私服姿のビスマルクである。

 彼女はゲーセンで一連のニュース報道をチェックしていたのだが、驚きの声を上げる事はなかった。

 耳にはヘッドフォンをしており、ニュースの音声が周囲に漏れる事はない。

 しかし、ゲーセンでは爆音が響く事もあるので、聞き取れない状態を防ぐ為の物と言う可能性もあった。

「違う。転売業者が逮捕されたのは、ARガジェットの専門だった。どうして、超有名アイドルグループへ差し替える必要性が――」

 ビスマルクが思ったのは、昨日の速報記事で見たARガジェット業者の逮捕である。

 これに関係したのは加賀ミヅキなのだが……彼女の名前は乗っていなかった。

「このゲームは一体?」

 ニュース記事を色々と探っていく内に、あるARゲームの広告バナーに指が触れてしまい、そのページへと移動する。

 そこに載っていたタイトル、それはミュージックオブスパーダ。ビスマルクは初めて聞くタイトルに驚いた。

「音楽ゲームと狩りゲーを融合させたゲームか。レースやサバイバル、FPS、TPS、対戦格闘とやりこんでいたが……」

 どのジャンルも自分に全く合わない訳ではないのだが、どうしても何かの違和感が残る。超有名アイドルのタイアップ等ではないのだが、どうしても払しょくできない何かがあった。

 それは、プレイに慣れるまでにどれほどの資金を投入するかと言う部分だった。先行投資は避けられないのだが、中には初回プレイは無料と言うゲームも存在すれば、基本無料でアイテム課金の様な物もある。

 アイテム課金に関しては、コンプガチャ等を初めとした問題が超有名アイドルファンによって指摘され、そこから一気にソーシャルゲームが衰退した事もあった。

 こうした一件もあり、超有名アイドル勢とソーシャルゲーム勢で抗争とも言えるかもしれない状態が続いていた。

 しかし、こうした抗争も「表向き」であって、真の目的は違うと言うのがネット上の予測だ。

 アカシックレコードの技術、それを政府が掌握しようと考えているのだ……と。

【アカシックレコードの技術があれば、地球を容易に消滅させる事も出来る。一歩間違えれば、銀河系の歴史さえも終わらせる事が出来るだろう】

 こうした発言がアカシックレコードの解読技術を向上させ、現在のARゲームが生まれたというのも皮肉な話である。

 最終的には軍事技術転用に関してはガイドラインで禁止はされていたのだが、これらの技術を実際に兵器化するには素材と言えるものが足りない。

【それでも、兵器転用を考えようとして世界を破滅へ加速させようと言う人種もいる。こうした暴走は過去に何度もあった。それこそ、流血のシナリオへ発展する程の】

 アカシックレコード、それは3次元だけではなく4次元の世界の情勢さえも吸収し、莫大に増えつつある巨大なネット大百科……と言えるかどうかは定かではない。

 こうした仮説も別勢力に否定され、その繰り返しとなるから――と言うのが有力だろうか?

 何故、このような繰り返しが続くかどうかはネット炎上勢が莫大な利益を得る為に……と言われている。

【超有名アイドルコンテンツ以外を認めないという流れ……それこそ賢者の石と言わざるを得ない。一部の政治家は禁忌とも言える技術に触れた結果、少数司会なかった敵を無限に増やしていき、破滅する】

 アカシックレコードが何を伝えようとしているのかは不明だが、政治家が手を出す事はないだろうというのはビスマルクも確信していた。

「悪徳政治家も一掃され、次に懸念すべきはフジョシや夢小説勢、超有名アイドルを神として信仰する集団か」

 ビスマルクの考えている事、それは――。

「ARゲームのトータルバランスを破壊したRMT勢の正体、おそらくはアイドルグループの追っかけで間違いない」

 ビスマルクがチート勢やRMT勢を駆逐しようとした理由、それはアイドルの追っかけである。彼女達が兼業としてグッズ転売やRMTに手を出し、それが結果的にアイドルFX投資等を推進させる結果を生み出した。

「どちらにしても、そこまで考えて行動するような連中ではないか」

 ビスマルクはサングラスをかけ、待機席から離れる。彼女が並んでいたのは音楽ゲームの待機列だったのだ。



 同日の午後、大和杏は別のARゲームに関して様子を見ていた。

 それは、パルクールを題材にしたもので、使用しているシステムもARゲームのそれよりも数段発展した物である。

「アカシックレコードの可能性は、ここでも新たな世界を生み出している」

 大和はレースの様子を見て、ミュージックオブスパーダとは別の何かをパルクールから感じ取っていた。

 音楽ゲームに狩りゲーの要素を足したのがミュージックオブスパーダならば、パワードスーツでパルクールを行うのが……と言う風に。

「どちらも共通しているのは奏歌市がスポンサーを務め、政治的要素を全廃している点だろう」

「コンテンツ業界は本来であれば悪意ある先導を行うべきではない。そして、一部勢力の唯一神信仰に利用されてもいけない」

『――連中が、ネットを炎上させる、自分達が目立ちたいだけでデモを起こしたとしても、それは一過性の物で終わり、本当の意味で歴史に語られる事はない』

『アカシックレコードが本当の意味で求めているのは、超有名アイドル商法が経済さえも揺るがし、世界を混乱させるブラウザゲームにおける外部ツールである事を思い知らせる事だ』

 ある女性が大和に対して警告しているようにも聞こえたが、大和は女性の姿を見ていない。もしかすると、これもアガートラームの影響と考えるのか良いのだろうか。

「アガートラーム、外部ツールを消滅させるような力である一方、ごく一部のゲームではエラーを吐き出す可能性もある」

「どちらにしても……もろ刃の剣なのは間違いないのかもしれない」

 大和は一瞬だけビジョンとして右腕に装着されたアガートラームを見つめていた。

 そして、外部ツール勢とも例えられる勢力を排除しなければ、正常なゲーム運営は成立しないとも考える。

「繰り返される世界線……もしかすると、4次元人の介入がアカシックレコードを変化させているのか」

 大和はレースの結果を確認した後、再びミュージックオブスパーダのエリアへと移動していた。

 その移動手段はARマシン……SF世界におけるパワードスーツ的な物であり、先ほどまで見ていたパルクールで使用しているガジェットでもある。



 5月28日、重装甲ではなく私服にサングラスという服装で姿を見せたのはビスマルクだった。

「成程。他のARゲームの様に重装甲型ガジェットは特に必要ではないのか」

 順番待ちの間に他人のプレイを見ていたビスマルクも驚きの声を上げる。

【スパーダに新規参戦が増えている件】

【超有名アイドルの宣伝行為をしているプレイヤーは、確実に魔女狩りのターゲットになるだろうな】

【それを踏まえて、偽装エントリーしようとしていた人物がエントリー拒否されたらしい】

【エントリー拒否の理由は、芸能事務所関係者だったらしいという事が公式で発表されている】

【芸能関係だと、その辺りを疑われてもおかしくはない】

【超有名アイドルのタダ乗り宣伝行為、それを問題視しているのが……ARゲームの運営と言う事か】

 他人のプレイを見ていたビスマルクの持っているスマホには、一連のつぶやきが流れている。



 ビスマルクのプレイ順序が回ってきたのは、20分後だった。

「装備自体の持ち込みは不可能だが、デザインを同じにすることは可能か」

 別のARゲームで使用している都合上、彼女が使う重装甲アーマーを持ち込む事は出来ない。

 その一方で、スーツデザインをコピーペーストする事は可能のようだ。

 しかし、いくらコピペしたとしてもFPSゲームで使用するスキルを使用出来ない事には変わりない。

 この仕様に関しては、他のARゲームプレイヤーが圧倒的なアドバンテージを得る事がないようにと言う南雲蒼龍の設計による物だった。

 本来であれば他社のARゲームでない限りはガジェットの共用は可能となっている。これは複数アカウントを所有させないようにする為の苦渋の策でもある。

【あのスーツデザインは、鉄血のビスマルクなのか!?】

【いくら何でもスーツデザインが似ているとはいえ、あの鉄血のビスマルクがエントリーしているとは到底思えない】

【なりすましプレイヤーは、未申告も含めれば無数に存在する。デザインが類似するだけの別人説は存在するだろう】

【ビスマルクと言っても同名プレイヤーは多数いるだろう? 鉄血のビスマルクがミュージックオブスパーダに……】

 ネット上でもビスマルクの出現に関しては偽物説が多く、本物と考える人物はごく少数だった。しかも、本物と発言しても否定されると言う繰り返し。

 この状況は、まるで超有名アイドルの宣伝行為やコンテンツ炎上狙いの炎上屋を思わせた。



 ビスマルクとマッチングしたプレイヤーはレベル10未満が3名、どう考えても上級者のなり済ましとは考えられない。

「そう言う事か。いくら別ゲームで有名なプレイヤーだとしても、ここでは新人同様か」

 1曲目に選曲したのはロックバンド系の曲だったが、ビスマルクとしてはテンポがつかめずに苦戦すると言う結果となり、順位を付けるとしたら最下位だった。

 周囲のプレイヤーが決して上手と言う訳ではなく、ビスマルクに関しても落ち度があった訳でもない。しかし、これが現実だったのだ。

「演奏は失敗した訳ではない。2曲目に賭けよう」

 2曲目に選択したのはクラシックアレンジのジャンルだったが、こちらも特に見せ場なくプレイを終了した。

 2曲ともギリギリで演奏クリアだったのだが、スコアとしてはボーナスステージに到達できる物ではない。

 演奏を終了したビスマルクは落胆をするものかと思われたが、逆に清々しい笑顔でフィールドを後にした。

 この反応が周囲のプレイヤーに不快感を与える事はなかったと言う。

 そうした理由の一つに、ビスマルクがFPSで使用しているアーマーのコピペデザインと言う事もあり、バイザーの下の素顔が見えない仕組みでもあったから。

 バイザーのシステムに関してはゲームのバランスに考慮されないという事で、コピペされたシステムがそのまま使われた説も大きいが、その辺りは本人に聞かないと分からないだろう。

【見かけ倒しだったか?】

【もしかして、大淀の様なミラクルが起こると思ったのか?】

【おそらく、彼女は音ゲーのプレイ歴がないのだろう】

【確かに音ゲー経験者がミュージックオブスパーダで有利なのは、大淀以外にも数人いる】

【FPSで知られる鉄血のビスマルクだったとしたら、アクション面はFPSから生かせるはずだ。ああも後手に回る事がおかしい】

【格闘ゲームだったら、アクションゲームの技術も生かせるだろう。しかし、これはアクション要素はあったとしても肝になるシステムは音楽ゲームの方だ】

 ネット上のつぶやきでもビスマルクのアクションを期待していたら、逆に期待外れと考える意見が大半だった。

 しかし、それでも冷静に分析を行う人物もいる。



 同日都内某所、これらの動きを複数のモニターで監視している人物達がいた。

「遂に我々が動く時が来たか」

「政治家連中は一斉逮捕や強制捜査等で、当面は動けない」

「デスゲーム禁止法案という重要案件は通過してしまった。これ以上、あの勢力に遅れはとれない」

 円卓を囲むように複数の男性がいる。外見は色々とあるが、彼らに共通しているのは素顔を見せていないことだ。

「レジェンドアイドル、超有名アイドルが不祥事などで評判を落としている以上、我々の推しアイドルが復活する時が来たか」

「この状況こそ、我々にとっては都合がいい。ARゲーム勢を炎上させ、超有名アイドルが成り代われば……!」

 彼らの推すアイドルはゴッドオブアイドル……かつて、神として有名だったが失踪してしまったアイドル。

 しかし、それが真実かどうかを調べる手段はない。

 その一方で、バウンティハンターは別勢力の転売業者を捕まえる際、ゴッドオブアイドルと言う単語を聞いていた。

「そう言うことか。全ては超有名アイドル勢による大々的な宣伝行為を規制され、それに恨みを持つ者の――」

 ゴッドオブアイドルとはアカシックレコードでは邪悪と言ってもいい存在として記述されている。

「どちらにしても、外部ツール勢と超有名アイドルがイコールである事を証明しなければ」

 加賀ミヅキ、彼女が何故にバウンティハンターを名乗るのか。

 山口飛龍に対しては、未だに素顔を見せる気配はない。


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