第5話:草加市と奏歌市、2つの顔
西暦2018年、この時代はARゲームの当たり年と言う訳ではないのだが…ARゲームのヒット作が多い展開になっていた。
数年前はARゲームの技術が発展しておらず、それ以外のソーシャルゲーム等がヒットしているという時代だったのだが……。
時代が新しい波を求めようとするのは、ある種の定めなのかもしれない。
古き良き時代という言葉もあるが、ファンの意識が変わらなければ――飽和状態や新規が入らないような状態を解消する事は難しいだろう。
それらの動向が変化するきっかけを作ったのが――草加市を新たなARゲーム特区として制定した「遊戯都市奏歌」である。
これ以降は草加市でARゲームの開発環境が整い、複数の作品がロケテストを初め、それらの積み重ねが今日のヒットを生み出した。
中には町おこしレベルを超えた物を生み出そうとしている自治体などもいる。それがふるさと納税の返礼品としてのARゲームだが――それは別の噺となる。
しかし、これを黙って見ているような国内情勢ではなかったのは言うまでもない。
それも推しアイドルを推薦する為の叩き台に利用し、最終的には自分達が「我々が育てた!」と自慢、更には目立つ事で超有名アイドルによるディストピアを加速させていた。
こうしたやり方はフジョシ勢や夢小説勢が行っている様な行為にも類似しているのだが、これらの行為は【正義の行為】としてネット上では広まり、超有名アイドルが行う場合は有名無罪的な扱いになっているのが現実。
それでも、こうした動きを黙っている勢力はいない。ネット炎上勢以外にもまとめサイト勢が話題を拡散させる事で、この世界では超有名アイドルコンテンツが日本経済を急成長させた救世主として英雄視されていた。
「その後の展開は、見るまでもないか。この光景も、紅白歌合戦の様に――風物詩として言われるようになった」
ネットのまとめサイトを見ていたのは、大和杏。
ネット炎上等が問題視されているこの世界において、こうした話題は即座に超有名アイドルファンに利用される。
それだけで済めば、鎮火も容易だが――日本政府等が絡むと、事態はややこしいものになるのは目に見えていた。
そうした懸念はアカシックレコードと言う『存在』に書きしるされていると言うが――。
彼女は今までにも超有名アイドル騒動に関してはネットで調べてきたのだが、どれも美化されていたり捏造されていたりと真実とは程遠い物。
悪意を持ったねつ造だった場合は――更に状態が悪化し、それこそ戦争と似たような混乱を呼ぶだろう。
『人の命は宝であり、それを脅かすような存在は――』
こうした議論は度々だが話題になる。一方で、こうした話題を極力避けているのがARゲームだと言えるだろうか。
実際、軍事利用された場合――ARゲームが本当の意味でデスゲームとなるのは明白だからだ。それは『地球終了のお知らせ』を告げるのと同じ事を意味する。
「しかし、これが風物詩となるのは海外のアーティスト的な意味でも、歓迎されたものではない。自分達よりも売れているのが、一部の投資家ファンがFX投資をするようにグッズを購入しているようなアイドルと言う事実を」
大和を含め、現状の超有名アイドル商法に関して否定的な意見を持つ者も少なくはない。
それを承知の上で利益になると宣伝しているのは、目先の利益だけでリスクを考えていない政治家や投資家と断言する者までいる。
それに加えて、ワールドカップなどの誘致よりも国内で超有名アイドルのライブを行った方が利益になると……本気で考えている自治体もある位だ。
こうした動きに関して、過去に超有名アイドル商法を否定する為に戦っていた人物も疲弊し、現在はネット上から名前も言及されなくなった人物もいる。
「過去の英雄を呼び起こすよりも、今の自分達だけで出来る事を考えないと」
大和は何かを考えるのだが、それらが超有名アイドルの予測できそうな事では逆効果になる。
むしろ、それは彼らにネット炎上の口実を与えるだけだ――。
4月も20日が過ぎ、超有名アイドルによるARゲームの宣伝行為等もネット上で拡散され、それらを火消ししようと言う人物は現れない……と誰もが思っていた。
【聞いたか? また現れたらしいぞ】
【バウンティハンターだろ? 既に便乗して名乗っている人物も多いらしい】
【彼の存在こそ、ARゲームを守る為の存在と思わないか?】
【それは運営が無能であるという事の裏返し……】
【運営も既に全体の1割を占めると言われるコミュニティを調査している話だ。あの勢力が超有名アイドルや夢小説勢と分かれば、大規模摘発になるが】
つぶやきサイト上で話題になっている話、それは一部の中級プレイヤーや超有名アイドルファンを狩る存在だ。
ネット上ではバウンティハンターと呼ばれている。その数は――。
「バウンティハンター……」
ゲームセンターでタブレット端末を見ていた山口飛龍、彼はバウンティハンターと言う名前に聞き覚えがあった。
それもそのはず、彼は過去に会った事があったからだ。
「しかし、ネット上の動画で出回っているバウンティハンターはスーツデザインがあの時の人物と異なるが……」
アップされている動画は、そのほとんどが目撃した事のある人物とはかけ離れた装備だった。
【確認されているだけでバウンティハンターの数は20人を超える。何処かの20面相じゃないが……】
【おそらく、別のつぶやきで言及されている便乗だろう】
【しかし、この話題は超有名アイドル等にタダ乗りされる可能性もある】
【下手をすれば国際問題に発展するかもしれないような……歴史認識問題に悪用されるかもしれない】
【そこまで深刻化する事はない。別のソーシャルゲームみたいにフジョシ勢力によって蹂躙されている状況とは異なっている】
他のつぶやきでは深刻な事態ではないと言及されているが、そこまで楽観的に発言できるのはなぜか。
「バウンティハンターの狙いが、もしもネット上で注目を浴びる事だったら――」
山口はふと思う。今回の騒動がバウンティハンターの狙いなのではないか、と。
ネット上に話題が拡散されれば、自分の名前が広まる事になる。
しかし、こうしたまとめサイトやつぶやきサイトを利用した宣伝戦略は超有名アイドルも使用する常套手段だ。
それをバウンティハンターが利用するのだろうか?
『政治家が超有名アイドルと手を組み、世界を征服しようというプロット自体、既に使い古されている。芸能事務所も政治家と組むメリットはないだろう』
山口は、あの時にバウンティハンターが言った事を思い出した。
芸能事務所が政治家と組むようなメリットは、もはや存在しないと同然である。
そうした情報戦や企業戦略を展開しても、海外で勝てるようなアイドルを育成出来るかと言われると疑問が残るだろう。
既に政府主導型のゴリ押し型アイドルコンテンツ戦略は時代遅れなのだ。
『その昔、玩具で世界征服を考えるような科学者が登場するアニメやゲームが多数存在していた時代があった。芸能事務所が超有名アイドル商法で世界進出をしようと言う流れは、これと全く同じと言っていい』
ある日、偶然にも一連の話題になる前のバウンティハンターに遭遇できた山口に、彼は口を開いた。本来であれば、こうした発言もネット上で編集、捏造されて拡散される可能性があるかもしれない。
そうしたリスクを承知の上で彼は接触をしてきたと言ってもいいだろう。何故、彼は山口に真実を話そうと考えたのか。それは、彼にしか分からない。
「あの時、あなたはARゲームをプレイする事で全てが分かると言った。あれは嘘なのか?」
『嘘ではない。あの作られた世界は――一連の日本を表現した縮図と言ってもいい』
「作られた世界と言うのは、あのゲームのストーリーか? それとも……」
『音楽ゲームにストーリーと言う物をプレイヤーが望むケースは少ない。あのプレイ光景は、文字通りの意味と言える』
「文字通り? ARガジェットを用いたARゲームはいくつか存在するが、それらのストーリーとも背景とも異なる物を持っていた」
『確かに。君が感じた物は……』
話をしている内に、バウンティハンターのARアーマーがノイズで消滅しかけるアクシデントが発生する。
ノイズの先に見えたのは、女性の顔にも見えたのだが……顔は具体的に見える訳ではないので、本当の顔ではない可能性もあったが。
『時間切れだ。今回はここまでにしておこう』
時間切れの部分は女性の声に聞こえたが、その後は普通に男性の声に戻っていた。
どちらが彼の正体なのか、そんな事はどうでもよかった。山口にとって、重要なのはそこではない。
しばらくして、バウンティハンターの姿は『消えて』いた。
CGのアバターと会話していた訳ではないが、そう周囲には受け止められても違和感はないだろう。
ARゲームで使用される技術その物がCG技術の応用と言われているように――。
「何故、あの音楽ゲームに出てくるノーツはモンスターの形状等をしているのか」
山口にとって疑問が残る部分もある。ミュージックオブスパーダは音楽ゲームのシステムを用いている個所もあるのだが、体感型のハンティングゲームと説明しても差し支えがない。
音楽ゲーム的なルールを説明しなければ、初見でジャンルをだませる位には別ゲームというミュージックオブスパーダ。
それは音楽ゲームというジャンルに対して既存の形式を打ち破るべきと言うメッセージを伝えたいのかもしれない……そう山口は考えていた。
5月のゴールデンウィーク突入前、ミュージックオブスパーダに新星が現れた事がネット上で話題になっていた。
【山口もそうだが、警戒すべき人物が現れた】
【プレイ開始日を調べたら、4月28日だと?】
【音ゲーでも初見プレイで理論値を出すプレイヤーはいると言うが……偶然としては出来過ぎだ】
【一体、あの人物は何者だ!?】
【しかも、女性プレイヤーと言うのも驚きだ。歌姫が戦うと言うアニメは過去にあったが……】
【彼女の名前……別のゲーム由来かもしれないぞ】
こうしたつぶやきは山口だけではなく、他のプレイヤーの目にも留まっており、そうした人物は特に印象をつぶやく事はなかったと言う。
「大淀、はるか――」
山口もネームを見て驚いていた。本当に女性プレイヤーなのか……と。
中には女性プレイヤー名と見せかけた男性プレイヤーと言う人物もいるからだ。
草加駅より少し離れたエリア、そこではミュージックオブスパーダが新たに設置されたばかりの商店街エリアでもあった。
商店街の一角と言うか街中で銃撃戦が行われるような光景――それはARゲームではよくある事とも言える。
それをジャパニーズマフィアの抗争と連装し、常連客が減ると言う理由で設置反対をした人物もいたのだが――そのような連想をするような人間は1割にも満たない。
半数近くが風評被害を懸念して設置反対をしていたのだが、対策も万全であり――マフィアの類も草加市からは一掃されている事を理由に、条件付きの設置が実現した。
「最初は興味がなかったけど――」
黒髪のセミショート、細身の身体に露出度が抑えられたラバースーツにARアーマーを装着、使用武器は左肩のパイルバンカーと言う杭打ち機……。
これらのARアーマーやウェポンはARバイザーを使用しているギャラリーにしか見えない。一般人から見れば、彼女はラバースーツであるているのと同じである。
「これが、つぶやきでトレンドになっていたミュージックオブスパーダ――」
大淀(おおよど)はるか、最初は何の理解もせずにプレイしていたミュージックスパーダの魔力にひかれた女性プレイヤーでもあった。
ただし、彼女は一部のランカーなどとは違って他のARゲームは未経験である。
過去に音楽ゲームで目撃例はあったらしいが、ネット上の情報に信憑性を求めるのは無理な話かもしれない。
そして、彼女は初めてARゲームをプレイしていた。チュートリアルは一通りプレイしており、説明書を見ずにプレイするような無謀な人間ではないのは確かか。
「今の音楽業界にない物を……このARゲームは持っているかもしれない」
次の瞬間、彼女はパイルバンカーでターゲットの装甲兵を撃破し、気が付くと理論値クリアをしていたのである。
これには、周囲も歓声を上げるしかなかったという。
チュートリアルと最初の1回目のプレイだけで感覚を掴み、2回目で理論値をはじき出す――ある意味でリアルチートと言えるかもしれない。
一方で、リアルチートもチートと変わりがないという事でチートと言う言葉を嫌う人間もいるのだが。
4月のバウンティハンター事件でARゲームに関する視線が注目される中、ある人物がネット上の記事をぼんやりと眺めていた。
「超有名アイドルしか存在できない音楽業界……それは強者的な理由ではなく、芸能事務所の裏金的な部分が有力だという」
ラフな私服にリュックサックという異色の外見、こういう装備をしているのだが女性である。
タブレット端末に表示されたネット上のまとめサイト、そこには観光ガイドとも言うべきメモがまとめられている。
その彼女が電車に乗ってやってきた場所、それは草加駅だった。ARゲームで町おこしをしているという、最近話題の町でもある。
駅の方は改名されていないのだが、駅周辺に貼られたポスターには草加市と書かれている物は少数――その代わりに、ポスターには別の都市名が明記されていた。
【ようこそ! 奏歌市へ】
西暦2016年にARゲームの特区として申請し、認められたのが今の『遊戯都市奏歌』である。
今では特区としての顔を知らない市民以外では、奏歌市で通しているのが現状だ。
それでも、郵便等では草加市と奏歌市のどちらでも届くようになっている程には……一部の勢力に知名度があると言ってもよいだろう。
彼女が最初に足を運んだ場所、それは駅近くのゲームセンターである。
小規模店舗と言う事もあり、置かれているのはプライズゲームや対戦格闘と言った作品ばかりだ。
ゲームのラインナップを見て、ここには置かれていないと察した彼女は別の場所へと向かう。
そこはARゲームを専門としたアンテナショップ――他にも似たような店舗が複数ある中、その一つに入店する。
最初からアンテナショップへ向かうべきだったかもしれないが、彼女の目的はARゲーム以外にもあったからだ。
「ここには置いてあるのかな」
大淀は芸能人やアイドルの類ではない為、ネット住民は注目していない事なのだろう。
「いらっしゃいませ」
男性スタッフらしき人物が大淀に話しかける。
手にはタブレット端末を持っており、そこからデータベースへアクセスするような形で説明を行っているようだ。
大淀の方は最初の目的の為に、ミュージックオブスパーダに関して尋ねる。
しかし、肝心のタイトルを覚え忘れた関係もあって説明するのに一苦労する。
「音楽ゲームを探しているのですが」
その為、ジャンルで探した結果、大淀は大変な展開になったのは言うまでもない。
音楽ゲームだけでも20以上あり、従来の体感型にARガジェットを融合させた単純なタイプ、その他にも対戦格闘に音楽ゲームを足した物まで存在していたからだ。
「どうやって説明した方が……」
大淀が周囲を見回すと、目に入ったのは別のミュージックオブスパーダを始めようとしていた女性プレイヤーだった。
「あの人の始めようとしているゲームと同じ奴です」
この一言で事情を把握したスタッフは、ミュージックオブスパーダ用のガジェットを用意した。
売れ筋と言う訳ではないのだが、ここ数日で問い合わせが多い事もあって在庫は十分確保している。
説明を受けた後、大淀はテストプレイを考えていた。
しかし、十分なカスタマイズを行っていない事もあって、最初は他プレイヤーの動画をチェックする事になった。
「これが本当に音楽ゲームとは思えないけど……」
つぶやきサイト上でも言及されていたが、ミュージックオブスパーダのスクリーンショットを見る限りでは狩りゲーと錯覚する。
それ位、音楽ゲーム要素は皆無と言われるのがミュージックオブスパーダの初見感想――誰もが通りそうな道だ。
一方で初見で驚く部分も、慣れてくれば予想以上に面白く見えてくる。
初見で音楽ゲームを複雑化したようなシステムにも思える部分だが、基本的な要素は変わらない。
要するに、次々と曲に合わせて現れるターゲットに向け、タイミングよく攻撃を当てればいいだけである。
普通の音楽ゲームだと、攻撃を当てるのではなく、太鼓のバチで太鼓をたたく、ボタンを押す等の行動になるのだが。
「格闘ゲームがイースポーツに進出していく中、音楽ゲームは一部ユーザー向けのゲームになってしまっている」
大淀の隣に現れた人物、白衣姿の女性である。
しかし、その人物が大和杏だと分かったのは、出会ってから数日後の事だった。
「一部ユーザー向けですか、まるで音楽業界で超有名アイドルが築いたディストピアと似てますね」
大淀の一言を聞き、大和は腕を組んで不機嫌な顔をする。この発言は地雷だったのだろうか?
「向こうは国際スポーツの祭典だろうが、自分達が儲かりそうなコンテンツであれば、容赦なくタダ乗りして無限の利益をあげようとするするような連中――賢者の石を求めていると言ってもいい」
「賢者の石とは物騒ですね。代償は自分達以外のコンテンツ全てですか?」
「そこまでの代償を求めれば、全世界からバッシングを受けるのは明白だ」
「日本のコンテンツ全てに超有名アイドルのタイアップを付け、そうしなければ――」
「そこまで悲観的な状況を予測しているという事は、アレを見たのか?」
大和の言うアレとはアカシックレコードである。そして、大和の言う事に対して大淀は無言で縦に頷いた。
「音楽業界が超有名アイドルに独占されたディストピア、他の経済や治安も維持される一方、超有名アイドルは絶対とか――何処のWeb小説のプロットなのかと思った」
今の段階では大和の言う事の『本来の意味』を大淀は気付いていなかった。アカシックレコードはWeb小説サイトか何かと大淀は考えていたから。
「夢小説とかフジョシ勢を絶対悪としてネット炎上させる……それが超有名アイドルのやり方と」
またである。大淀の一言に対し、大和は不機嫌になっていた。一体、彼女は何に対して不機嫌なのか。
「ネットのまとめサイトや炎上ブログ、自分が目立ちたいと考えるような連中のつぶやきコピペ……それらに踊らされると、歴史は歪んだ方向へと突き進む事になる」
大和は大淀に対し、警告と言わんばかりにやんわりした口調で話す。下手に強い口調で宣言すると、超有名アイドルファン等のネット炎上勢に悪用されかねないからだ。
「今のマスコミもネット炎上勢のまとめサイト勢から金で雇われている勢力かもしれない。アニメをメインとしたテレビ局以外は……信用に値する報道をしているのか疑問に思う」
この辺りも謎解きをさせるかのような単語の連続であり、大淀の思考がオーバーヒートしそうだった。しばらくすると、大和の姿はなかったのだが。
「音楽業界の繰り返しは……させない」
そして、大淀は周囲が予想もしない勢いでランカーへの道を進む事になった。
ゴールデンウィーク初日、奏歌市内のゲーセンでセンターモニターを操作していたのは一人の女性だった。
「大淀はるか……あの思考はアカシックレコードでも見覚えがある」
金髪のナイスバディな女性、彼女の名はコードネームでビスマルクと呼ばれている。彼女もバウンティハンターに便乗している人物だが、認知度は低い。
「ここも同じようなテンプレ世界になるのか、それとも別の道を見つけられるのか――」
ビスマルクは意味ありげな発言をするのだが、周囲が聞いているような気配は全くない。
【バウンティハンターの数が増えている】
【外部ツールと言うか、色々と違法ガジェットが出回っているのもハンターが増えている原因だな】
【夢小説勢が表のサイトを独占し、それが理由で叩かれるのと同じ原理か?】
【それとは違うだろう。ただ、デスゲームをARゲームが禁止しているのと関係がありそうだ】
【あくまでもARゲームはゲームであり、そこへ現実の議論等を持ち込むべきではない。それはARゲームで戦争を起こすべきではないという理論か】
つぶやきサイトでも様々な議論が白熱化していき、そこから何かが起ころうとしていた次期でもあったのは間違いない。
ゴールデンウィークも中頃の5月3日、ある女性がビスマルクを発見、特に遭遇戦になることなくスルーしようとしていたが……。
「バウンティハンターの真似事は、止めておいた方が身の為だぞ」
その女性は大和だった。彼女はバウンティハンター全員に対して警告をしている訳ではない。
「真似事? 私は夢小説勢にARゲームのフィールドを荒らさせない為に動いている。彼女達は、既にARゲームプレイヤーの有名実況者等をターゲットにして夢小説を――」
ビスマルクが全てを話し終わる前に、突如としてARガジェットアーマーを装着したプレイヤーがビスマルクと大和を囲む。
『お前達のやっている事、それは超有名アイドルの宣伝活動を妨害――』
しかし、いくら外部ツール等で強化したARガジェットでも、大和とビスマルクの力には歯が立たない。つまり、夢小説勢やフジョシ勢は彼女達にとってはかませ犬にすぎないのだ。
「これが、アガートラームを持った者の運命か」
ゴールデンウィーク中、大和はアガートラームの運命を受け入れていた。
「アガートラーム。アカシックレコードの中でも最高機密の――」
隣で見ていたビスマルクは、大和の持つアガートラームの圧倒的な力に驚きを感じるしかなかったのである。
ゴールデンウィーク明け、CDのデイリーランキングが激しく動いている状況は、何かを連想させるようでもあった。
しかし、奏歌市ではランキングの話題が禁句と言う訳ではないが話題に触れない方がいいという空気が漂っている。
それに加えて、ARゲームのエリアでは禁酒と禁煙が義務付けられているのだが、そうした影響もあって歓迎しない勢力がいるのも事実だ。
ARゲームを町おこしに考えていた草加市だったのだが、前途は多難だったのである。
アカシックレコードの解析に関しても前途多難だった。発見されたのは秋葉原の電気街にあった貸しビルだったという。
その貸しビルで起動していたサーバー数点、それがアカシックレコードだった。
サーバーの容量は1000テラという想像以上の容量を持ち、どうやって電力供給をしているのか…という疑問も浮上する。
「これは一体、どのようなサーバーなのか――」
このサーバーを見つけた人物はビルの管理人と言う訳でも、警察が違法営業の店を摘発に来た訳でもない。単純に宝探しをしていただけであった。
宝探しと言っても、無断で行えば不法侵入で捕まるのは当然だ。そこまでご都合主義が存在するはずもない。その為、ビルの管理人に許可を取った上で調査をしていたのだが……。
「電気代もサーバーが常に動いていれば、明らかに電気代がかかるはずだが」
電気に関しても疑問点があったのだが、それは屋上を調べる事で解決した。置かれていた物、それは風力発電用の小型風車複数と太陽光パネルだった。
これで電力を確保し、余剰電力は秋葉原全域に提供されていた。こうした売電によって資金を確保し、サーバーを運営していたのかもしれない。
しかし、このサーバーはブラウザゲームやオンラインゲームの物ではなかった。入っているデータは文章、画像、動画のカテゴリーに
サーバーの発見から数日後、データの莫大な量もあって解析作業は難航していた。しかし、ある文章を発見した事で事態は一転したのである。
【アカシックレコード、それは複数世界における超有名アイドル商法へ対抗する為、さまざまな技術を集めて生み出した存在】
【その技術は地球さえも容易に破滅へ追い込む事も可能であり、これを軍事へ用いる事はあってはならない】
【そして、この技術がこの世界でも使われれば、他の世界でもアカシックレコードの記述が更新され、そこから新たな技術が生み出されるヒントを――】
この文章を見た解析班は、あまりにも超展開と言えるような内容に驚いた。世界を破滅させる技術と言うのだが、ファンタジー世界における聖剣を現代によりみが選らせる事を意味してしているのか……と。
アカシックレコードが発見されてから10年が経過した西暦2016年、それはARゲームと言う形で技術転用される事になった。
【これが……!?】
【ゲームバランスが丸投げされている】
【どうしてこうなった】
ロケテストされていた作品でアカシックレコードの実験を兼ねてデータが投入されていたのだが、その能力は常識が通じないと言っても過言ではない。
これほどの技術があれば、世界征服も容易であり、瞬時に国を滅ぼす事も容易と思われる。
ネット上では『WEB小説で良くある異世界転生、チート作品でよくある』の一言で片づけられ、政府関係者も『実現するような物ではない』と非公式の談話を発表している。
どうやら、アカシックレコードの技術を周囲は「黒歴史」として意図的に「触れない」ようにしているとしか思えない。
その後、一部エリアでARゲームがブレイクするのだが、それを巡ってモラル崩壊とも言えるような事件が発生した。しかし、これに関しては一部のアイドルファンの暴走と警察が発表する。
その理由に関しては憶測が存在するのだが、真相は謎のままである。
一説には超有名アイドルの芸能事務所やアイドルファンが投資と言う名のコンテンツ支配を考えていたのだが、世界進出中もあって公にできない結果……マイナーグループが身代わりになった説もあった。
真相を知ろうと考えた人物もいたのだが、トップシークレットには強固なプロテクトが存在し、解除する人物はいなかったという。
西暦2017年、一連の超有名アイドル不祥事が表に出る事はなかったのだが、ある出来事をきっかけに週刊誌報道が過熱化していく事になった。
それは超有名アイドルによるCDチャート独占である。その様子はFX投資とまで言われ、海外のアーティストからはつぶやきサイト等でバッシングの嵐になったと言う。
この大規模炎上事件が週刊誌報道を過熱化を呼び、ネット炎上サイト等も加わる事で悪化していった。最終的には政府も超有名アイドル優遇と言える税制改革や経済政策を白紙に戻さざるを得ない事態に発展する。
その後、さまざまな炎上事案が存在するのだが……それを深く知ろうと思うのであれば、アカシックレコードの最深部を探る必要性が出てくる。
アカシックレコードの最深部、そこには全てを根底から覆すような記述が存在するとも言われ、それを見た物は歴史の表舞台に二度と立てなくなるとまで警告されていた。
しかし、こうした警告は一種のブラフと考えて興味本位でアカシックレコードを探ろうとした者は何人もいる。
警告を無視した結果、彼らは超有名アイドルファンを辞める事になり、二次元のアニメやゲームのアイドルへ鞍替えしたという話もまとめサイトで言及――。
超有名アイドルのCDチャート独占が表沙汰になり、こうした行為がチートだと非難されていた頃、草加市では『奏歌市』と名称変更してから初めてとなる特区としての行動に出た。
「複数のゲームメーカーに声をかけ、新たなジャンルのゲームを作る」
当初はジャンルは固定せず、様々なジャンルで募集をかけていた。しかし、対戦格闘でも数機種が確立し、TPSやFPSも存在、更にはバーチャルサバゲやレースゲームもネット上で話題になっていた。
「新たなジャンルを求めていたが、どれも既出の域を出ていない」
「これでは他の分野でも起こっているようなコピペジャンルが広まる事に……」
「我々が求めているユーザーは、フジョシや夢小説勢、超有名アイドルファンの様な炎上案件には程遠い勢力だ」
「しかし、炎上案件にならないようなジャンルと言うのは、この世にはないだろう」
「それこそリアルチート等と言われ、逆に争いの種になると分からないのか?」
「だが、超有名アイドルの様な1万人以下の投資家が市場を独占するような……そうしたジャンルではない物を生み出さないと」
市役所の会議室で行われていた会議も不発が続き、万策が尽きた。そこで、市民から公募する事になったのだが、動きが出たのは1週間もたたない火曜日の事だった。
【現状を打破できるであろうジャンル、それは音楽ゲームです】
この投稿主は分からずじまいだったが、音楽ゲームの開発経験のあるメーカーが挙手をしていく。ジャンルをフリーにしていた時とは比べ物にならない。
その後、トライアルを行った結果として5社が最終選考に残り、その5社がARシステムを使用した音楽ゲームを開発していく事になった。
西暦2017年6月、5機種のテストが草加市のホールを使って行われる。そこで、スタッフの説明を交えてのコンペが行われているのだが……。
「音楽ゲームの基本を押さえた5機種が揃ったか」
「しかし、システムに関してはARゲームの物を取り入れても代わり映えはしない」
「ARガジェットで演奏をするようなシステムでは、特許を取る事も難しい。やはり、音楽ゲームでは無理があったのか」
「北千住ではパルクールをモチーフにしたアクションが現実化している。それを踏まえれば、音楽ゲームをベースにしても我々の予想を超える機種は生まれるだろう」
「ARゲーム自体は無限の可能性がある一方で、架空と現実を区別できなくなる事案もあるが……」
「その点は問題ないだろう。このARゲームガイドラインで既に確立がされている以上、チート等の様な悪意を持ったプレイヤーが現れない限りは問題ない」
奏歌市の運営委員会が、それぞれの機種を見て回り、チェックを入れていく。
展示されていたのは擬似的ライブを再現できる物、ARガジェットを楽器に見立てて演奏する物、バーチャルカラオケ、ARアバターによるアイドルゲーム物……どれもパンチ力に欠けていた。
「これは……?」
運営委員会の一人が、ある機種の前で足を止める。PVを見る限りでは、ハンティングゲームにも似たようなプレイ光景が流れているが……。
「君、今回のテーマは音楽ゲームのはず。狩りゲーは今回のテーマ対象外だぞ」、
別の委員会メンバーの男性もPVを見て、違和感に気付いた。これは、どう考えても狩りゲーであり、音楽ゲームではない。
「PVの方は最後まで見ていただければ、我々の意図が分かります」
委員会のメンバーの前に姿を見せた人物、彼は背広を着ておらず、ARガジェットにARアーマーと言う臨戦態勢な状態とも感じ取れた。
「その服装が……音楽ゲームをプレイする格好とでもいうのか?」
バンドの経験もある男性が、彼の外見に関して指摘する。自分も似たような衣装を着た事があると言う関係上、特に笑ったりするような仕草を取る事はなかった。
確かにアニメやゲームのコスプレを思わせるバンドや2.5次元バンドと言う物も存在する以上、この格好が音楽と無関係と断言はできない。
「その通りです。このゲームは『ミュージックオブスパーダ』というハンティングゲームの要素と音楽ゲームの要素を足した……画期的な音ゲーです」
この人物が、後にコンテンツ業界の根本を変えようとしていた南雲蒼龍であると気付いた委員会メンバーはいなかったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます