第3話:アカシックレコード序曲


 ARゲームが普及し始めたのは、ゲームのハード的な技術革新がきっかけなのでは……と言われている。

 しかし、これが正しいかと言われると疑問が残る要素が多い。それ程にARガジェットを含めた技術は謎が多いから。

 過去に『アカシックレコード』と呼ばれる物があった。

 しかし、それを独占しようと考えた勢力が中身を見た事で絶望したとも言われているが――真相は不明のまま。

 その中身とは、他の世界で起こったとされる事件の数々……海外へ知られると国際問題にも発展しかねないような部類である。

 そうした事件的な部分よりも、クローズアップされるのはアカシックレコードに眠っている設計図の数々――。

 それらの技術は現在の科学力では解明できないような物ばかりが存在し、それこそファンタジー世界の技術と言われかねない物もあるのだ。

 次第にアカシックレコードを巡る争いが本格化し、それによって流血の展開になる事を避けようとした一部勢力が生み出した物、それがARガジェットを用いたARゲームの原型と言われている。

 彼らが拒絶した流血の展開……それはARガジェットの軍事利用を意味していた。

 実際、シミュレートされた結果ではアカシックレコードの技術は世界を滅ぼす事も容易という結果が出ている。

 その情報が拡散された事により、流血のシナリオを回避できたという話もある。

 しかし、それらが真実かどうか見分けられる手段がない――それを逆にネット炎上勢に利用されるのかもしれないが。

 それ程、アカシックレコードが真実かどうかを見分ける手段は……一部の解読勢でも難しい物となってしまっている。

【アカシックレコードは常に進化を続けている。もしかすると、到達点がないのかもしれない】

【いつか世界にも終わりが訪れるように、アカシックレコードに終わりがないというのも間違いだろう】

【結局、この辺りの議論も水かけ論となるのだろうか】

 アカシックレコードには終わりがない……それは、何度か言われている事である。

 いわゆるマンネリを指摘するのに言われていたらしいが、真相は定かではない。

【逆に超有名アイドルグループ1組が、銀河系の消滅するまで永遠に存在し続ける……と言うのも疑問に残る】

【過去の事件も、永久に利益を得る事が出来るシステムを構築しようとして暴走した結果らしい】

【その為に他のコンテンツを踏み台にしていいはずがない。あの芸能事務所は大物政治家と手を組んでいたという話もある】

【しかし、大物政治家に関しては事務所も否定している。選挙活動にアイドルグループが投票を呼び掛けるという展開も論外だ】

 逆に超有名アイドルはマンネリが発生すると、そこからネット炎上するのは日常茶飯事だった。

 おそらく、他のコンテンツにマンネリを押しつけ、それを踏み台にして生き残る的な事を行おうとしていた……と。



 4月2日、あの事件が起こった翌日と言う事もあって、奏歌市で厳重警戒を行う…と思われたが、そのような雰囲気はなかった。

 この理由には様々な憶測が飛んでいるが『下手に警戒を厳重にしても同じ事が起こるのは明らか』と言う事で、警備員の増員を行っていないというのが有力である。

 警備強化を行っている一部エリアもあるが、一般住民に迷惑をかけない程度にとどめているようだ。それ程にデリケートな問題と言う事を物語っている。

「結局、予約の関係で今日と言う事になったか」

 アンテナショップの前にいたのは山口飛龍。昨日はアンテナショップを見て回ったのだが、システムの調整等は数日待ちと言う事を言われていた。

 アンテナショップで購入できるガジェットは万人に扱えるように仕様が組まれている関係上で、自分専用のガジェットにする場合はアンケート等を書いた上で後日渡しになるケースが多い。

「ご注文の品です」

 男性店員からガジェットを受け取る山口、その隣では別の人物がガジェットを受け取っていた。その後ろには次々とお客が並んでいるので、もしかすると連日の大繁盛だろうか。

「説明に関しては……」

 山口が店員から説明を聞こうとするが、商品の手渡しが忙しくて対応出来ないようだ。

 仕方がなかったので、ガジェットを受け取ってからマニュアルを確認しようとするのだが、箱を開けてみると……。

「これが……ガジェット?」

 山口は疑問に思った。ミュージックオブスパーダでは、グレートソードやレイピア、ボウガンの様な武器も使用していたのを見ている。

「それが、ARガジェットのメインシステムと言えるコアだ。タブレット端末にも見えるが……」

 開封してから聞こえたのは聞き覚えのある女性の声である。偶然通りかかった大和杏が声をかけたのだ。

「あの時に見た武器は……」

「武器に具現化するのは、あくまでもゲーム内だけだ。それ以外でも出来たとすれば、さまざまな事件にも転用される」

「ゲーム内?」

「そうだ。あくまでもゲーム内、正確に言えばゲームが行われるプレイフィールドの一定エリア内に限られる」

 大和の一言を聞き、山口はある事を思い出した。それは、自分を襲ってきたブラックファンである。

「フィールド内であれば、具現化出来ると」

「フィールド内であれば…な。ただし、野良試合の類では運営の承認を得なければ使えない。仮に市街地や公道で使えたとしたら、別のARゲームのフィールドが展開されたと考えるのが良いだろうな」

 山口の言いたい事を大和は察していた。野良試合の類は日常茶飯事であり、それにまぎれてアイドルのブラックファンが野良試合を偽装して襲撃を行っている事も知っている。

 しかし、ブラックファンの一件はネット上でも正確なソースが存在せず、下手に不安をあおるのは逆効果と考えた。

「所で、説明書は?」

 山口が本題に切り込む。店員に聞こうとしたが、忙しい事もあって聞けなかったことである。

「ガジェットのマニュアルは本体に電子書籍として入っている。どのゲームをプレイするかによって、もう一つのマニュアルは異なるが」

 その後、大和の説明を聞きながらARガジェットのマニュアルを表示する所まで進み、そこでガジェットの操作方法を覚える。

「ひとつだけ言っておくと、タブレット端末とは違う動作をする部分もある。それだけは気を付けることだな」

 言いたい事だけ言い残し、大和は姿を消してしまった。本来の目的は別にあるので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「あの場所へ戻ってみるか」

 山口が戻ろうと考えた場所、それはミュージックオブスパーダの設置されているエリアの事だった。



 ミュージックオブスパーダの置かれているエリアから若干はばれた場所にあるアミューズメントビル。そこには、カラオケ、ダーツ、ボーリングだけではなく、様々なゲームが配置されている。

「ARゲーム以外で、あそこまでのチートはいない……」

「チートと言うよりは、リアルチートの方が正しいだろうな。基本、ここに置かれているゲーム機でチートシステムが動く機種は存在しないからな」

 ダンスを踊るタイプの筺体をプレイしている人物、そのプレイ風景を見ていた2人の男性は動きに疑問を持っていた。

「あそこまでのダンスはプロでも、毎回出来るような物ではないだろう? どう考えても――」

「音楽ゲームの場合、リアルチートよりもふさわしい呼び名がある」

「それはなんだ?」

 パーカーの男性が帽子を深く被る男性に対し『リアルチートよりもふさわしい呼び名』について尋ねる。

「過去に最強とも言われたプレイヤーが存在していた。それをネット上では、ランカーと呼ぶ――」

 帽子の人物は、別のプレイヤーが通りかかったのを見て、何かを警戒しているような素振りを見せる。しかし、それは空振りに終わった。



 10分が経過し、プレイしていた人物は筺体から離れ、帽子の人物が筺体へと近づく。その時、男性の方は言葉に出さなかったが、あの体型でここまでのダンスが出来るのか……と。

「音ゲーマーには外見は関係ない……とはネット上でも言われていたが」

 彼女の体型、それはアスリートのソレとは大きく異なる物。お笑いの女性芸人辺り…とまではいかないが、それでもモデル並の細さと言う訳でもない。

「体格なんて関係ない。音ゲーで重要なのは――」

 彼女の方が帽子の人物に対し、睨みつけているように見える。しかし、目つきとしては睨みつけには思えない。

「音楽に対する接し方。それが、音ゲーで最重要と言っても過言ではないわ」

 赤髪のセミショートにラフな衣装にスパッツ、異色とも言える衣装でゲームをプレイしていた女性の名……長門未来。

「音ゲーは、格ゲーと違って確立した技術が出てこない事でも有名だ。攻略法はあったとしても、プレイヤーの腕によっては別の手段を探す必要性もある」

 帽子の男性がカードスキャナーの部分に自分の手持ちであるICカードをかざす。そして、カード認識の画面が表示された。

「名前を見て納得した……」

 画面上のネームを見た長門は、そのまま別のゲームをプレイする為に移動を始めた。その画面に表示されていた名前、それは――。

【DJイナズマ】

「音楽ゲームにはワンパターンの確立された攻略法はない。外部ツールなどと言う物に頼る人間には、それを理解出来る訳がないだろうが」

 DJイナズマ、彼は音楽ゲームには攻略本に頼るようなワンパターンは存在しない。それを証明する為、様々な音楽ゲームに触れている。



 午後1時30分頃、長門のホームであるゲームセンターに姿を見せたのは大和だった。本来の目的地、それはここの事らしい。

「信濃、お前か」

 入り口で大和を待っていたと思われる女性、黒髪のロングヘアーに167センチの身長、大和と比べると服装は微妙の様だが。

「今日も複数人、運営に報告してきた。あの調子だと、もう少しでマスコミも駆けつけてくる可能性がある」

「マスコミは別の事件で手いっぱいだろう」

 マスコミに対する懸念をため息交じりに言っているのは、信濃リン。服装のセンスは微妙だが、さすがに肌を多く見せるような服装はしていない。

「別の事件と言っても、あちらは連日の視聴率稼ぎで報道しているような物。囮よ」

「SNS関係のトラブル、超有名アイドルの権利独占、経済特区の新設――どれもマスコミが隠すような事件ではないだろう」

「真の目的、それはミュージックオブスパーダで利用している技術……」

「マスコミの狙いもアカシックレコードか?」

 信濃の一言を聞き、大和の方も思わず驚いた。しかし、アカシックレコードの技術を独占しようとして失敗した人物は多数存在する。その中には、政治家も含まれていた。

「あの技術はファンタジー技術に近い物がある。あれこそ、ソーシャルゲームで外部ツールを扱う位のチートクラスよ」

 信濃の方はアカシックレコードの技術に対して否定をしているようにも思える。

 その一方で、あれを軍事技術で悪用されれば、その悲劇は想像を絶するだろう。

「ARガジェット自体、その陣地を越えた技術は魔法と変わらない。ネットでも言われている『ファンタジー世界で無双する現代兵器』と同じようなものだ。違うか?」

 大和の一言を聞き、信濃の方は少し不機嫌になる。

 しかし、そこで怒鳴り散らさないのは……そうした所で何も世界は変わらないという事だ。

「それに頼らないと、超有名アイドル勢やブラックファン、夢主を――」

 信濃が他にも何か言おうとしたが、大和の方はゲーセンの自動ドアを開けて内部へと入って行った。

 スルーと言う訳ではなく、これは単純に信濃が気づかなかっただけである。

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