カクヨム出張版:ある日のバーでの出来事(西野と美人局)

 こちらのお話は、一つ前のエピソード、「カクヨム出張版:ある日のバーでの出来事(西野と常連客)」の続きとなります。未読の場合は、以下のURLからお目通し頂けると幸いです。


【URL】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883054477/episodes/1177354054887700238


---


 午後六時を少しばかり回った頃合い。六本木の繁華街、その外れに位置する雑居ビルの地下、二十数坪ばかりのスペースに設けられた手狭いバーでのこと。同店のマスター兼バーテンであるマーキスは、カウンターに立ってグラスを磨いていた。


 店の正面には閉店中を示す案内が掛けられている。それにも関わらず、出入り口のドアに取り付けられた鐘が、カランコロンと乾いた音を立てた。やって来たのは、二十代も中頃と思しき、水商売風の女性である。


「あのぉ、ここで人と待ち合わせって聞いたんですけどぉ」


 店内にはバーテンの他に、西野の姿があった。


 カウンターに腰掛けた彼は、女の姿を確認して声を上げる。


「こっちだ」


「え? もしかして、君が連絡をくれた子?」


「ああ、そうだ」


「マジ? っていうか、学生だよね? まさか中学生?」


「高校生だ」


「高校生で出会い系とか、お金ちゃんと持ってるの?」


 女性の言葉通り、フツメンは出会い系のアプリを通じて、昨日から彼女と連絡を取り合っていた。その集大成として本日、実際に顔を合わせるまでに至った次第である。ホ別ゴムあり二万五千円とのこと。


 一連のやり取りを耳にして、マーキスの顔には疑問が浮かぶ。


 アンタは何をやっているのだ? と訴えんばかりの表情である。


「金は問題ない」


「でもなぁ、学生相手とか後々面倒臭そうだし……」


 女性はツカツカとヒールを鳴らしながら、西野の傍らまで歩み寄った。


 足が動くのに応じて、タイトなデザインのミニスカートに包まれた太ももが強調される。同時に襟の大きく開かれたシャツの胸元では、豊満な胸が上下に揺れる。童貞には些か刺激的な光景だ。


「君のせいで今日は他に予定が入ってないんだよね」


「何かやることでもあったのか?」


「……っていうか、その喋り方って学生的にどうなの?」


 不機嫌そうな表情となり女は語ってみせた。他に引き合いもあったなかで、フツメンとの約束を優先した様子だ。おかげで彼女は本日、稼ぐ機会を失ったことになる。その点に苛立っている様子だった。


 これに西野は椅子に腰掛けた姿勢のまま、淡々と言葉を続けてみせる。


「ここのところ、相棒の男とは連絡がついているか?」


「え? なにそれ。どういうこと?」


「ついていないんじゃないか?」


「……ちょっと君、なにを言ってるの?」


 そうした最中、彼女の下げた鞄の中から、通話アプリの着信音と思しき音が聞こえてきた。西野から手元に意識を移した女は、鞄をカウンターの前に並んだ丸椅子へ置いて、その中を弄り始める。取り出したのは、着信を受けて震える端末だ。


「男からだろう? 取っていいぞ」


「…………」


 西野に言われるがまま、彼女は電話を受けた。


 そして、直後に顔を真っ青にさせた。


 通話をしていたのは時間にして、二、三分ほどである。端末が耳元から離された時、彼女には来店直後の勢いが失われていた。端末を手にした手が、小刻みにふるふると震えている。その視線は西野とマーキスの間で行ったり来たり。


「理解したのなら帰るといい」


「…………」


 フツメンに促されるがまま、女性は駆け足で同所を後にした。カランコロンと乾いた音が響いて、その姿が店の先に消えていく。カツカツというヒールが地面を叩く音も、すぐに遠退いて聞こえなくなった。


 これを確認したところで、マーキスがボソリと呟いた。


「なるほど、この間の酔っぱらいの仕事か」


「男はすぐに話がついたが、味をしめた女が一人で続けていた」


「てっきりアンタが悪い女に引っかかったのかと心配したが」


「安心しろ、普段からあれ以上に悪い女と付き合っている」


「…………」


 そうこうしていると、再び店のドアが開かれた。まさか女が戻ってきたのかと、二人の意識が出入り口に向かう。するとそこには、彼らも見知った相手の姿があった。やって来たのはスーツ姿のフランシスカだった。


 彼女は店内に二人の姿を確認して、元気良く声を上げた。


「近くを通り掛かったの、次の仕事まで少し休ませて頂戴?」


「噂をすればなんとやらだ」


 西野とマーキスからジッと視線が向けられる。共に物言いたげな眼差しだ。


「……何よ? 人のことをジロジロと変な目で見て」


 狼狽えるフランシスカの姿を眺めて、西野はキメ顔で手元のグラスを傾けた。




---あとがき---


現在、「ブックウォーカー」様にて「新作ラノベ総選挙2019」が開催中となります。こちらに「西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~」もエントリーを頂いております。もしよろしければ、ご投票して頂けると幸いです。


https://bookwalker.jp/lvote2019/


際しましては、もしも上位に入ることができましたら、ささやかではございますがそのお礼といたしまして、過去に特典SSとして書店様で配布させて頂いておりましたテキストを幾つか、ウェブ上でも公開したく交渉、準備中に存じます。


皆様どうか何卒、よろしくお願いいたします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る