フライト

 翌日の土曜日、西野は成田に立っていた。


 エコノミーやビジネスとは別に用立てられた、発券元航空会社運営のラウンジで優雅に暇つぶし。二人掛の席、その片割れとなるソファーへ偉そうに足を組んで腰掛ける。向かう先、現地の新聞など端末に眺めながら、コーヒーをブラックで傾けている。


 当人の意識するところ、場所に相応しい振る舞いというやつを実践中だ。


 しかしながら、その出で立ちは周囲から浮いていた。


 大手格安衣料店で購入した青い色のジーンズにチェック柄のシャツ。靴は大衆店でワゴン売りされる一足千九百八十円のスニーカーだ。更に手荷物はコピーブランドの小さなリュック。下着や靴下を含め全てを合算しても余裕を持って一万を下る。


 どれもは小綺麗で購入から間も無いことが窺える。とても衛生的だ。普段着としては申し分ない。しかしながら、彼を除く他の客たちの身なりを鑑みては、歳若く顔が普通であることも手伝い、如何せん安い人間として他者の目に映った。


 伊達に往復で二百数十万と掛からない。


「……ふむ、向こうは相変わらず賑やかだな」


 ただ、西野にとってはいつものことなので、なんら気にした様子もない。新聞を眺めながら適当を呟く姿は、今まさに晒すとおり、背伸びした少年の小っ恥ずかしい自己主張さながら。悲しくも、それが通常運行だ。


 いつ如何なる場所であっても、自分のペースを崩さない男である。


 当初はチケットの有無を従業員に確認されたほどである。


 同ラウンジを職場とする人間にとっては、月に一、二度くらいの頻度で訪れる彼の存在こそ、どんな客より好奇心を刺激されて止まない。ただ、場所柄これを尋ねることは憚られて、ねぇ、また来てるわよ、あの子、などと影に囁かれるのが精々か。


 そうして到着から数分ばかり。コーヒーから上る湯気が途切れた頃合のこと。


 少しばかりフロアが賑やかとなった。取り立てて悲鳴や怒声が響いた訳ではない。ただ、ヒソヒソ話があちらこちらに交わされて、フロア全体が浮き足立つ形だろうか。ざわめきがレセプションの側からホールに向けて、波のよう伝わってくる。


 やがてそれは西野が腰掛ける下までも。


 ただ、それでも彼は我関せず、端末に映された新聞を淡々と眺める。別段、それを行わなかったからと言って何が起こることもない。必要な情報は既にマーキスから共有された後だ。ただ、何を行うにも万全を期すのが彼のやり方である。


 お仕事モードの彼は普段以上にストイックでシニカル。


 そんなフツメンの意識を阻む声が、ふと、すぐ傍らより上がった。


「ア、アンタ、もしかして、西野じゃ……」


 予期せず名前を呼ばれた。


 声がすぐ近くから聞こえたことも手伝い、西野は視線を移す。


 目に付いたのは、ここ数日で面識を持った相手だ。


「旅行か? バンド屋は時間が自由に使えて羨ましい限りだ」


「し、仕事に決まってるだろ? これでも海向こうの方が人気あるんだぜ?」


「そうなのか? なら悪いことを言ったな」


 西野曰く、ロックのお姫様こと、緒形屋太郎助だ。


 文化祭の二日目に見た際と同様、スーツにサングラスという出で立ち。どれもブランド品で、一着うん十万と。ただ、見る者が見れば、文化祭に眺めた際と比較して、少しばかり質を落として思える。いわゆる業界人の普段着というヤツだった。


 彼はフツメンの対面に席が空いていることを確認して言葉を続ける。


 二人掛けの片割れだ。


「おい、西野」


「なんだ?」


「向かい、す、座っても構わないか?」


「好きにしろ」


 相変わらず素っ気ない態度に済ませるフツメン。顔を上げていたのも束の間、視線はすぐさま端末へ戻された。別段、そこまで集中して読みたい記事がある訳でもない。ただ、太郎助の顔を眺めているよりは建設的だと判断したようだ。


 一方、これに対する側はと言えば、何気ない態度を装いつつも、少なからず緊張した様子で対面のソファーに腰を落ち着ける。


 その口元には、いつのまにか笑みが浮かんでいた。当人はそれを隠そうとして、けれど、上手い具合に筋肉の張りの落ち着きどころを見つけられず、ピクピクと引き攣って妙な具合になっている。


 周囲からは彼に対してチラリチラリと、他の客から視線が向けられる。


 伊達に売れっ子ロックバンドを率いていない。ソロ活動も上々。国内外に多くのファンを持つ太郎助は、現代日本において、市井に対する影響力のある人物として、上から片手に数えられるだけの地点に位置する人物だった。


「しかし、まさかアンタが居るなんて、大した偶然だなっ」


 期待と不安に充ち満ちた面持ちで語る太郎助。


 ソファーへ腰掛けて早々、フツメンに話題など振ってみせる。


「ど、どの便に乗るんだ? そろそろなのか?」


 これに西野は端末へ視線を向けたまま、素っ気ない態度で続ける。


「次のロンドン行きだ」


「……え? 本当か?」


「嘘を付いてどうする」


「い、いや、あの、俺も同じ便なんだけどっ……」


 パァと太郎助の顔に笑みが浮かぶ。


 ただ、それは当人が自らの顔の変化を理解した時点で、早々に不器用な顰めっ面に変化した。喜びを隠すのに必至だった。あんまりにも嬉しくて、ズボンのポケットからチケットを取り出そうとした直後、ギリギリ、これを踏み止まる。


「確かに大した偶然だな」


「そ、そうだろう?」


 幾分か興奮した様子で太郎助は問い掛ける。


「そっちこそ旅行なのか? 随分と身軽に見えるじゃんかよ」


「いいや、仕事だ」


「っ……」


 一方で返す西野は、どこまでも淡々と。


 仕事の二文字が意図するところを、同じくその仕事に命を救われた太郎助だから、正しく理解することができた。数日前、誰とも知れないマフィア男から向けられた眼差しを思い起こして、ブルリと背筋を振るわせる。


「ア、アンタ、海外でもやってるのかよ」


「数の上では国外の方が多いな」


「……どうして、そんなにロックなんだよ、アンタって人は」


「ロック?」


「あぁいや、な、なんでもねぇよ。なんでも」


 嬉しいような、悔しいような、複雑な表情となる太郎助。これに西野は何を返すこともない。周囲から向けられる他者の視線も手伝い、目の前の人物とあまり親しげに振舞うのも問題だろうと、極めて冷静な判断だ。


 空港のラウンジであっても、ロック野郎は大した人気者だった。


「一つ、忠告してやる」


 そんな彼に対して、西野は何かを思い出したよう口を開く。


 ここ数日、多少の縁も手伝ってだろう。


 彼は幾らばかりかの善意を目の前の人物に向けることとした。


「ちゅ、忠告?」


「向こう数日間、レフカダ近隣には近づかない方が良い」


「お、おい、それって……」


 少なからず狼狽えるロック野郎。


 けれど、それ以上を西野は応えなかった。


「……あまり騒ぐな。他の客に迷惑だ」


 この上なく小っ恥ずかしい台詞を、しかし、なんら躊躇無く連打するフツメンは、やっぱり立派なコミュ障である。見ている方が恥ずかしいとは、二人のやり取りを眺める他の客一同が、心の内側に抱いた本心だ。伊達にシニカルしていない。


 ただ、そうしたやり取りを素直に受け取る者もいた。


「あ、あぁ……」


 太郎助は酷く戦いた様子で頷いた。伊達に数日前、文化祭の最中、同業者だというローズから直々に脅されていない。同日、彼が早々に津沼高校を後としたのは、彼女から向けられた眼差しが理由だった。


 決して冗談や酔狂に伝えられたとは思わない。


「ならいい」


「…………」


 だからこそ、語らい合う二人を周囲より窺う視線は、一連の会話に多大なる疑念を含んで思える。どう見ても年収二桁億越えの有名人が、冴えない男子高校生を相手に気を遣う様子は、事情を知らぬ者の目に甚だ異常に映ったようだった。


 ただ、場所が場所なだけあって、これに割って入る者の姿は無い。伊達に客を選んでいない。これが通常のラウンジであったのなら、少なからず面倒があったろうとは、当人たちもまた気にかけている事柄だ。


「ところで西野、アンタは……」


 再び太郎助が口を開く。


 しかし、それは西野のズボンから聞こえた端末の振動音に遮られた。イケメンが口を閉じるに応じて、フツメンはこれを取り出す。


 ディスプレイに映し出されたのは、呼び出し相手の名前だ。


「…………」


 コール元を一瞥して、西野は端末を早々にポケットへ仕舞った。ズボン生地の下、依然として震え続けるそれを無視する。まるで着信などなかったように振舞う。


「話を続けろ」


「い、いやっ、まだ鳴ってるし! それ電話だろっ!?」


 震え続ける端末は、ブブブブブブと。


「構わない」


「いやいやいや、俺が構うんだよっ」


「…………」


 太郎助に促されて、渋々といった様子で西野は通話を受けた。




◇ ◆ ◇




 西野と太郎助が世間話を交わす場所から、直線距離で数百メートルの地点。航空券を片手に受付を済ませたなら、誰もが向かえる一般ラウンジでのこと。そこでローズは嘗て無い憤慨と共に、竹内君に向き直っていた。


 彼女の怒りが示す点は一つである。


「何故に彼が居ないのかしら?」


「昨日、ギリギリで話を受けたんだよ。他とバッティングしたって」


 これに応えるイケメンは、何気ない調子で前髪を掻き上げつつ応える。その表情はしてやったり。目当ての女子を上手い具合に誘い出せて、極めて上機嫌だ。相手の湛える怒りにはまるで気付いた様子が無い。


 空気を読むことに人生の数割を賭ける彼が気付けないのだから、凡そ他者が気付くことも無い。


「……そう。けれど、それは本人から確認したのかしら?」


「え? あぁ、アイツが自分からチケットを返しに来んだよな」


 竹内君は鈴木君に視線を投げる。


 上手いことフォローしてくれとの合図。


 当然、鈴木君はこれを確実にキャッチして言葉を続ける。


 伊達にカースト上位、イケメングループに所属していない。


「昨日なんだけど、西野のヤツが部活中の俺らのところまで来て、明日の旅行は無理だって言ってきたんだよ。だから、仕方なくっていうか、チケットを無駄にするのも悪いから、ちょっと俺が出しゃばっちゃってさ」


 そんな鈴木君が意識する先は、ローズの傍ら、志水である。


 全てを知る同委員長は気が気でない様子。


 何故にローズがこの場に立っているのか、正確に理解する彼女だから。


「……そう」


 静々と観念した様子で頷くローズ。


 一連の振る舞いには多分に無念が窺えた。


「そういう訳だから、西野の分まで俺らで楽しもうよ。ね?」


 元気一杯、竹内君が続ける。


 既に搭乗手続きは終えてしまった。今から戻るには無理があると理解してだろう。そして、同イケメンの心中に習えば、ここまで来てしまえば、後はどうとでもなるんだぜ。その内に勝利の笑みが浮かぶ。


 伊達に学内で一番モテていない。伊達に読モなど勤めていない。


 自分が押せば全ての女は引いて倒れて股を開くと信じている。


「……ちょっと連絡を取りたいのだけれど、良いかしら?」


「え? あ、あぁ……」


 懐から端末を取り出して言うローズ。


 これに竹内君は頷かざるを得ない。


 そそくさと彼女は同行者一同の下を離れた。向かった先はホール脇、人通りも少ない隅の方のだ。忙しく行き交う渡航者たちを避けるようにして、大きな柱の傍ら、影に空いたスペースを確保する。


 そこで端末を操作して回線を開いた。


 当然、相手は件(くだん)のフツメンだ。


 十数コールばかり経過してから、彼は応答した。


『……アンタに諦めるという判断はないのか?』


 早々、けったいな文句が連なる。


 しかしながら、これにめげるローズではない。


「旅行に来られないというのは本当かしら?」


『…………』


 いつになく強気に語り見せる金髪ロリータだった。


 どうやら西野と共に行く旅行を、とんでもなく楽しみとしていたようである。端末を手にするのとは反対側、固くギュッと握られた拳からは、ポタリ、ポタリ、爪に破れた皮膚から血液が垂れている。床に広がって行く斑点は彼女の切なる悲しみの現れ。


 完全にキチガイである。


『竹内君が説明しただろう通りだ』


「そう……」


『切るぞ』


「待って、少しだけ話をしたいのだけれど」


『……これ以上、何があるというんだ?』


 ふとローズの耳に端末越し、届く音があった。曰わく、平素からなになに航空会社をご利用下さり誠にありがとうございます、定型的な謝辞から始まって、近々での発着を知らせる案内の流れ。


 彼女はそれが、今まさに自身が耳とする航空会社の出発案内と、同一の予定から提供されていることに気付いた。ただ、回線の繋がる先は彼女がいるラウンジと比較して周囲が静かだ。それこそアナウンスの声が綺麗に聞こえるほど。


 更にアナウンスに混じって、ほのかに聞こえるピアノの音。


「これから出国かしら? サクラでなくファーストのラウンジだなんて羨ましい。私が日本へ来た時には、余所の会社だからと入り口で門前払いを受けたのだけれど」


『耳聡い女だな……』


 二つに一つ。かまを掛けて見事に欲しい情報を得る。西野としては、何処から洩れたのかと、詳細の知れぬ問答だ。まさか、今の今に特定されたとは夢にも思わない。頭の巡りは彼女に一日の長があるようである。


 かと思えば、即座、ローズは手元から他にもう一台、端末を取り出す。その場にしゃがみ込んで、今し方に耳とした航空会社の発着状況を画面に呼び出した。時刻から直近に発する便を特定、そこから想定される行き先を得る。


 西野が所在するだろうラウンジへの入場条件は、同航空会社の便をファーストクラスで利用する者、またはその関連企業や提携企業が提供する特定ランク以上のクレジットカード保持者、或いはワンワールドで一定以上のステータスを持つ会員となる。


 西野の年齢を鑑みれば、特別にカードや資格の類いを所持している可能性は低い。いつだかマンションの保証人云々に関して、渋い顔を見せていた彼だから、きっと間違いないだろうとローズは自らに言い聞かせる。


 尚且つ、非合法の仕事を受けるのに、わざわざ個人に紐付いたアカウントでマイレージサービスを利用するとも思えない。そうなると利用されるのは、十中八九で単発のチケット。ワンワールド云々は意味の無いところに。


 当然、チケットを他者が用意したとなれば状況は変わる。相手が相手だ、多少は強引な方法であっても罷り通るだろうとは彼女もまた理解している。しかし、そうなっては続く可能性も膨らむこと無限大。


 結果、これら一連の判断から、端末に表示された時刻表と併せて、彼女は希望を託すことと決めた。導きだされたのはシドニー行とロンドン行の二便である。更に言えば後者はローズたちも搭乗予定の便となる。


 故に彼女はここ一番の賭けに出ることとした。


 この間、僅か十数秒の出来事である。


「お仕事先はロンドン? けれど、あそこはブルムの庭よね? ノーマルである貴方が乗り込んだことが当人に知られたら、とても面倒なことになると思うのだけれど」


『……だったら何だと言うんだ?』


 予定する便を言い当てられたことで、少なからず彼女の発言に意識を向ける西野。


 多少の沈黙から、彼女は彼の乗る便に確信を得る。


 そうなると次に行うべくは、ロンドン以降、乗り換え先の特定である。


「他に行く場所があるとすれば、そうね……」


 少しばかりを考えた素振りを見せるローズ。その手は素早く端末を操作して、到着先であるガトウィックから、到着時刻以後、乗り換えの可能性がある便を確認する。画面を舐めるように見つめる眼球は上へ下へ、グリグリと気持悪いほどに良く動いた。


 日本から欧州へ向かった時点で、仮に乗り換えるとしたら近隣各国よね。尚且つここから直接の便が存在しない行き先となると、数は絞られる。大丈夫、私ならやれる、問題ない、これくらい簡単よ。


 自らに言い聞かせるよう、空港間のフライトスケジュールを照らし合わせる。


 プラハ、違う。ローマ、違う。ピサ、違う。マラガ、違う。違う、違う、違う。どれなの? どの便なの? この世界で最も格好良い人を運ぶ、この世で最も幸運な便の名前は。どうか私にお教え下さい。みたいな。


 凄まじい勢いでリストを舐めてく。


 しかし、そこから先は彼女であっても見当が付かなかった。数が膨大過ぎた。そして、電話先には相手を待たせている。長くを無言に過ごすことはできない。だから聡明なローズは早々に作戦を変更した。


 こういう時のための下僕である。志水である。


 大凡を欧州として地域が限定されているのであれば、そこから先、細かいところは三、四時間のフライトで都合が付く。ならば無理にこの場で、危険を冒す必要もないだろうと、彼女は適切に判断を下した。


 志水からの問い掛けであれば、流石に彼も無碍にはしないだろうと。


 伊達に番号の他、メールアドレスまで押さえていない。


「おみやげ、楽しみにしているわね」


『…………』


 彼女が呟いて即座、ブツリと通話回線は切断された。


 通話時間、三分三三秒。


 ローズ、狂喜乱舞である。


「……ふ、ふふっ、ふふふふふ」


 口元には気持ちの悪い笑みが浮かぶ。


 自ずと声が漏れる。


「西野君、私は決して諦めないから。這ってでも会いに行くわ」


 その表情は情熱に燃えていた。




◇ ◆ ◇




 ところ変わって、こちらは回線の向こう側である。


「……どうしたんだ? 難しい顔をして」


「いや、少しばかり不快な連絡があってな」


 幾分か腰の引けて見える太郎助からの問い掛け。これに対して、通話を終えた端末をズボンのポケットにしまいながら西野は答えた。その表情は不機嫌そのものだ。依然として彼の中で、ローズという存在は最も低い位置にあるようである。


「そ、そうか」


 そうこうするうちに、彼らの搭乗予定となる機体が支度を整える。ラウンジに響くのは次のフライトを示すアナウンス。さっさと支度をして乗り込んでくれよ等々。毎日毎時、規則的に流される文句の並び。


「おい西野、じ、時間みたいだぞっ」


「あぁ……」


 二人してソファーから腰を上げる。


 搭乗口に向かい、他の客の流れに乗って歩む。座席数が限られているので、そう大した数では無い。二人の他に若いカップルが一組と、割腹の良いスーツ姿の男性が一人、他に子連れの親子が一組といったところ。


「ちなみに、席ってどこなんだ?」


 通路を歩む傍ら、太郎助が西野に尋ねた。


「席?」


「フ、フライトの席だよ」


「あぁ……」


 促されて自らのチケットを確認する西野。


「01Aだが」


「……俺は02Dだな」


「斜め後ろか」


「だ、だな……」


 座席の番号で通じるあたり、互いに海外出張が多い。ちなみに西野の席は通路を挟んで窓際。対して太郎助の席は他に乗客と隣り合う配置だった。傍らを歩む客の数からして、恐らくは予約が遅れたのだろう。


 一時期は急速に数を減らした同国における航空機のファーストクラス。けれどそれも格差社会が叫ばれるようになってしばらく、再び数を増やし始めていた。おかげで彼らは今日という時間を共有している。


「急な出張だったのか?」


「あ、あぁ、割と急に入った仕事があってな……」


「そうか」


 実は文化祭の二日目、津沼高校へ顔を出したことで仕事の消化が遅れた結果である。他のスタッフは既に現地入りしており、残すところ当人の到着を待つばかり。この便を逃しては、続く仕事もままならないといった実情がある。


 そうした背景に少なからず思慮が及んだのか、ここで西野は提案を。


「……面倒を避けるのであれば、変わってやってもいいが」


「いや、別に構わないさ」


「本当にいいのか?」


「背の高いセパレータもある」


「そうか」


 適当に交わしつつ、二人は足取りも軽く搭乗口に進む。


 周囲からは同じ便に乗る乗客から、やはりチラチラと視線が向けられる。これで太郎助が三流スターであったのなら、そこまで注目されることもなかっただろう。けれど、どうした因果か、彼は今の日本で一番に売れている芸能人だった。


「なぁ、ところで一つ良いか?」


「なんだ?」


 再三に渡り話題を振ってみせる太郎助。


「アンタの同僚、あのパツキンの子なんだが……」


「……アイツがどうした?」


 ローズの話題となり、自然と態度が硬くなる西野。


 これに構わず太郎助は続ける。まさか両者が抱える面倒など知る余地も無いイケメンだ。その口から尋ねられたのは、つい先日に彼が経験した僅かばかりの接点から。


「あの子は本当にアンタの仕事仲間なのか?」


「仲間というには語弊がある。正しくは同業者だ」


 まさか仲良くやるつもりなど皆無の西野である。


 少しばかり口元を酸っぱくして問い掛けた。


「それがどうした?」


「いや、そのなんだ。少しばかり話をする機会があったんだが……」


「文化祭の二日目か?」


「あぁ、その時なんだが、その、なんというか……」


「……アイツがどうした」


「俺を見つめるあの子の目が、とてもじゃないが年相応に思えなくてな」


 記憶に新しい拉致事件。どこぞの倉庫に追い詰められた太郎助が、生死の境を垣間見た瞬間、これを与えたナイフな男の笑顔。如何なる国の誰とも知れない外国人男性が浮かべた狂気の微笑み。


 それと重なるローズの笑顔である。


 毎晩のように悪夢に見ていた前者が、しかし、文化祭の二日目を契機として、ここ数日に渡り、何故か後者の笑みに取って変わっている彼だった。だからこその問い掛けである。伊達に安眠を妨害されていない。深夜に魘されて目を覚ますこと度々だ。


「脅されでもしたのか?」


「いや、そ、そこまで大したものじゃないんだが……」


 当人も何故に自身がそこまで影響を受けているのか分からない。脅されていないと言えば嘘になるが、それでも首にナイフを突きつけられた想い出と比較すれば、少しばかり睨まれた程度である。


 ただ、これを耳とした西野は、彼女の悪行を知るが故に即断だ。


「……分かった。こちらで釘を刺しておく」


「あ、べ、別にっ、そこまでするほどのものじゃなくてだなっ」


 慌てる太郎助。


「いずれにせよ邪魔には代わりない」


「いや、じゃ、邪魔って言うか、あれはむしろアンタに……」


「俺がどうした?」


「……あぁ、いや、その、なんだ……」


 同日同所にローズが浮かべた表情。そこに垣間見た感情が向かう先は、少なからず想像がついている太郎助だった。伊達にイケメンしていない。コミュニケーション能力は極めて高い。特に異性に対するそれは抜群だ。


 それこそ彼と比較しては、竹内君ですら足元に及ばない。


 しかしながら、目の前の相手は彼女を異性として見ていない節があるから、色々と面倒なものである。尚且つ手元には確かな材料もない。おかげでそれ以上を語ることも憚られて、続く言葉は曖昧なまま濁された。


「……本当に何も言わなくていい」


 太郎助が告げる。


「本人がそこまで言うのなら、こちらの都合で無理強いはしないが」


「わ、悪いな。色々と気を回して貰って」


「悪いのはあの女だ。アンタが気にする必要はない」


「……あぁ」


 なんとも言えない表情となるイケメンだろうか。


 そうこうする内に搭乗口へと到着した。




◇ ◆ ◇




 面倒は離陸から数時間の後に発生した。


 日本海を早々に越えて、ユーラシア大陸の深いところを飛んでいる最中の出来事である。そろそろ一眠りしようか、手にした端末から顔を上げて、ただでさえ横に長く縦に短い瞳を、スゥと殊更に細める。


 食事を終えてしばらく、書籍に時間を潰すのも飽きた頃合だった。


 そんな彼の背後、十数メートルの地点。


 不意にフロア後方のドアが勢い良く開かれた。同時に四名からなるスーツ姿の男女が、駆け足で雪崩れ込んできた。目から下、顔は黒いスカーフに覆われている。その手にはどうやって機内まで持ち込んだのか、拳銃など握られていた。


 一団は瞬く間にフロア前方まで移動する。


 各人が乗客全員を視界に収めるよう位置取る形だ。


 そして、うち一名が場を代表するよう口を開く。


「席を立つなっ! 静かにっ、大人しくしていろっ!」


 銃を乗客の側へ向けての訴えだった。


 照準が狙う先は、ほど近い席に居する家族連れの子供だ。


 これを目の当たりとしては誰も彼も、一瞬で自らの置かれた状況を理解する。凡そ航空機に搭乗して遭遇する最悪が今まさに。昨今、その機会は著しく減少しているだけに、搭乗者一同にとっては滅多でない不幸だった。


 各所から矢継ぎ早に悲鳴が上がる。


「……よりによってこのタイミングでか」


 武装した男たちを眺めて、忌々し気に西野が呟いた。


 乗り合わせた客は誰もが口を紡ぎ、ガクガクと身を震わせ始める。


 すると、そんな彼の耳に届いたのは、太郎助の声。


「ちょっと待て、人質なら俺がなる。子供は解放しろ」


 シートから腰を上げて歩むこと数歩ばかり。ちょうど西野のシートの傍らに立つ形で、随分と格好の良いことを言ってみせる。その膝はよく見てみればガクガクと震えていた。やせ我慢しているようだ。


「……おい、平気か?」


 それこそ見かねたフツメンが尋ねてしまったほど。


「はっ、この俺を誰だと思っている?」


 けれど、イケメンは挫けない。必死に粋がってみせる太郎助。心臓は痛いほどに強く脈打ち、緊張から額にはビッシリと汗が浮かんでいる。気を緩ませれば、その場に崩れ落ちてしまいそうだとは、当人が今まさに感じている圧倒的ストレス。


「おい、どこかで見た顔だと思ったら、最近売れてるギタリストだ」


 ハイジャック犯の一人が呟いた。


 これに太郎助は恐怖を気取られぬよう、一生懸命に体面を取繕って応える。


「俺の曲を知っているのか? なかなか人として見所があるじゃないか」


「そこらかしこで流れていれば、嫌でも耳に入るんだよ」


「サインなら幾らでもくれてやる。代わりにその物騒なものをしまってくれ」


「黙れ。大人しく席に戻れ」


 太郎助に対して命じた犯人が、チラリと視線を仲間に向ける。


 これに応えてメンバーの一人が動いた。足早に太郎助の下まで駆け寄り、正面から彼の胸に銃を突きつける。鋼鉄に作られた口の先端で肉を抉るよう、肋骨の間、心臓の辺りに向けて、痛いほどグリグリとやってみせる。


「おい、まさか撃つのか? 窓ガラスにでもあたったら大変だろうが」


 太郎助の顔が苦痛と緊張から殊更に引き攣る。


 答えたのは彼に拳銃を突きつけるのとは別の男だ。


 フロア正面に立ち、子供へ銃口を向ける覆面である。


「最近の旅客機は窓の一枚や二枚を破ったところでどうにかなるほど適当な作りはしてないんだよ。最悪ここのブロックに大穴が空いたとしても、安全な高度まで下る程度は運行が可能になっている筈だ。なんなら試してやろうか?」


 どうやら口上を担当する男こそ、覆面スーツ一団におけるリーダーのようだ。彼の他、数名からなるハイジャックグループは、何を口にすることもない。


「わ、分かった、アンタを信じる。だから確認は止めておいてくれ」


「……さっさと自分のシートへ戻れ」


「くそっ」


 小さく悪態をついて、太郎助は身体を正面に向けたまま後退る。


 すると、そんな彼に対して、すぐ脇から声が届いた。


「太郎助、アンタに銃の取り扱い方を教えてやる」


「……え?」


 西野だ。


 不意に名前を呼ばれて、当人の視線は出所へ向かう。


 その正面、彼を威嚇していた覆面男もまた同様だ。


 いいや、乗客全員が注目する。


 皆々、声源が十代の少年と理解したところで、コイツは何を言っているのだと言わんばかり。犯人のみならず人質一同、どうして今この状況で格好付ける必要があるのだと、疑問を表情に浮かべている。


 更に彼の振る舞いはと言えば、この状況にあっても両足を組んでフットマンに乗せた上、背中は大きく倒されたリクライニングシートにベッタリと。何処からどう見ても寛いでいる。非常にリラックスしている。


 まるで南国のリゾート施設、海辺のサマーベッドにでも横となったようだ。手にはオレンジジュースの注がれたグラス。これを何気ない調子に口元へ運んでは、ゴクリ、小さく喉など鳴らしてみせる。


「……おい」


 太郎助の胸に銃口を当てていた男が小さく呟いた。


 あまりに苛立たしい光景から、流石にカチンと来たようだ。


 当然の訴えである。


 両者は距離にして二、三メートルばかり。一歩を踏み出して手を伸ばせば触れられる間隔だ。彼は太郎助を正面に置いたまま、銃を突き出していた腕を九十度ばかり脇にずらして、その照準を西野に改めた。


 だが、銃口を向けられた側は、なんら構うことなく淡々と続ける。


「いいか? まずはレッスンワンだ」


「お、おいっ、西野っ……」


 呟いておもむろに立ち上がるフツメン。


 グラスはシート脇に設けられたサイドテーブルへ。


「銃口を対象の身体に触れさせた時点で、相手はアンタを侮っていると判断できる。この時点で次に何を行うべきかは決まったも同然だ」


 動じた様子のないフツメンを正面において、男は動いた。


 今し方、太郎助に対して行った際と同様、拳銃を西野の腹部へ突きつける。


「おい、死にたくなければ静かにしていろ」


 腹の内側から唸るように絞り出された低い声だ。本来であれば、銃の存在と相まり、誰もが怯えそうなもの。事実、一連のやり取りを傍目に眺めて、ヒィとどこからともなく悲鳴染みた声が上がった。


 けれど、このフツメンは少しばかり勝手が違う。


 取扱注意だ。


「確かに腹部は頭部と違って面積が多い分、対応には技術を要する。しかし、要点は同じだ。如何に素早く銃口を逸らすか、この一点に尽きる」


「い、いや、西野っ……」


 流石の太郎助も気が気でない。


 しかし、フツメンは人の話を聞かない。


「また、今回は他に大勢の乗客がいる。一番に注意すべきはこの点だろう。万が一にも流れ弾が他人に当ったのなら、その時点でゲームオーバーだと思え」


 ペラペラと良く喋る。


 一方的に振舞われる、酷く自分に酔った言動を受けて、周囲からは迷惑そうな視線が集まった。誰だよ、子供に酒を飲ませたの、そう言わんばかりの表情だ。痛々しくて見ていられないとは、カップルで搭乗したその片割れである。


 年の頃は二十代。どうやら経験者のようで、固く手を握り悶えている。


「このガキっ……」


 早々に苛立ちが限界へ達した覆面男が、銃を持つのとは別の腕を上げる。フツメンの頬へ向けて、拳骨を振るおうという魂胆。一発、痛い思いをすれば、すぐに静かになるだろうと考えたようだ。


 その瞬間、西野は動いた。


「相手の意識が他へぶれたところで、こうする」


 グルリとその場で身を捻るよう半回転。


 同時に両手を拳銃の下へ滑らせる。右手はスライドを握るよう。左手は相手の手の上からグリップを握りに行く。そして、トリガー部分を中心として、時計回りに銃本体を勢い良く回転させる。


 引き金に添えられていた男の指が、無理な方向への与圧に悲鳴を上げる。手首から先を巻き込んでの姿勢変更は、各関節を逆に捻る形となり、受ける側は堪らず膝を曲げて直立姿勢を崩した。


「っ……」


 銃の握りが甘くなる。


 西野はスライドを奪いに行った右手で、トリガーガードごとこれを掴み取った。大した抵抗もなく拳銃は男の下から離れる。もう一方の手にグリップを握り直した時点で、対象は完全に持ち主を入れ替えていた。


 奪い取って即座、西野は相手の頭部に一発を撃ち込んだ。撃たれた男は悲鳴を上げる間もない。自分の身に何が起こったのかを理解することもなく絶命した。ドサリと西野の足下へうつ伏せに倒れる。


 次点、間髪を容れずに一発、銃声が鳴り響く。


 これもまた西野の手元から上がった。


 今度は何だと乗客一同が見守る先、フロア前方から人の倒れる音が響いた。ドンガラガラガシャンと機内備品を巻き込んで、派手な音が上がる。フツメンに向けられていた皆々の意識が、音の発する側に移った。


 倒れたのは同グループのリーダーと思しき男だった。眉間を打ち抜かれている。こちらもまた太郎助を威嚇していた彼と同様に即死であった。銃を構えながら、一発として撃つことなく事切れていた。


「行け、レッスンツーは実地演習だ」


 幾分か語調も強く西野が吠える。


 同時に手にした銃を太郎助に向けて放り投げる。


「人質を回収して残りを処理しろ」


「マ、マジかっ!?」


「俺がサポートする。好きなようにやればいい」


「っ……」


「安全装置はちゃんと外せよ?」


 銃は上手い具合にイケメンの手元へ収まる。


 太郎助は自身が思う以上に、素直に頷いて演習へ向かった。


「お、俺を殺すんじゃないぞっ!?」


「誰にモノを言っている」


「へへっ……」


 拳銃を正面に構えた姿勢で駆けるイケメン。咄嗟、その脳裏に蘇ったのは、いつだか自分のピンチに駆けつけた、西野五郷という少年の姿。神々しいまでに美化されたフツメン。これに自らを重ねるよう、太郎助はトリガーに指を掛ける。


 続けざま、パァンパァンと銃声が鳴った。


 計十七発。内十発は残る二名、覆面スーツたちから放たれたものだ。これらは全て西野と太郎助に照準されていた。内七発は着弾コース。けれど、どれもは両者の肉体へ触れる直前、運動量をゼロにして床に落ちた。


 当人にも原理の知れない西野マジック。バリアー的な何か。


 一方、太郎助が撃った七発の内、一発が残る覆面スーツの一人、その腹部へ命中した。かなり痛いところに当ったらしく、両手で腹を抱きかかえるよう、床に膝を突いて背を丸めて蹲る。悲鳴も相応。


 足下に落ちた拳銃は、カップルの片割れ、女性客が飛び出して無事に回収だ。


 イケメン有名人の英雄的活躍に影響されたのだろう。向こう数年、彼女が酒の席で自慢する話は、今日この瞬間の出来事に決定である。その脳裏では既に手持ちのソーシャルサービスのアカウント上、自身の活躍を伝える文面の構築に入っている。


 ハイジャックなう。


「残り一人だ。落ち着いて腹を狙え」


「お、おうっ!」


 四人中三人を打倒して、残すところ一人。


 一騎打ち。


 フロア前方でイケメンと覆面スーツとが相対する。


 後者は同グループにおいて紅一点。スーツのジャケット越しにはち切れんばかりの胸が窺える。丈の短めに作られたスーツスカートから覗くムチムチとした太股は、これを眺める男性客にして、自然と目で追ってしまうほど。


 そんな彼女に向けて、けれど、まるで色香を気にした様子もなく太郎助は語る。


「悪いが、女だからといって遠慮はしないぜ?」


 西野の存在も手伝い、少なからず冷静さを取り戻したようだ。他に乗客や添乗員から注目されていることに気付いて、意気揚々と役者がかった振る舞いの上、ふっと小さく口元に笑みなど浮かべての問い掛けである。


「くっ……」


 互いに銃口を向け合ったところで状況は膠着。


 映画などでよくあるシーンだ。


「ところで西野、こういう場合はどうするんだ?」


 照準越しに覆面美女を睨み付けたまま尋ねる太郎助。


「そうだな……」


 問われて少しばかり、考える素振りを見せるのがフツメン。


 ややあって、言葉少なに回答を伝える。


「本来であれば、そうなった時点で終わりだな」


「そ、そうなのか?」


「もう疲れました、これ以上動けません、いい加減に休みたいです、そう相手に伝えているようなものだ。そこの女みたいな素人相手でなければ、既に三度は殺されている。これは大きな減点だな」


「…………」


 一方的且つ圧倒的な上から目線。傍目に眺めているだけでも、苛立ちが募ること請け合いの語り草である。事実、フロアを共にする客の多くは、あの子供はどうして彼に対してタメ口を利いているのかと、疑問が絶え間ない。


 曰わく、見ててマジでムカつく。


 しかしながら、太郎助は与えられる教示を大人しく受け取り、自らの置かれた状況に戦いていた。日常から一歩をはみ出した今の状況が、イケメンを素直にさせていた。どうやらこういうのが好きらしい。


「演習は五点といったところだな」


「ちなみに聞くが、何点満点だ?」


「千点満点だ」


「……そ、そうか」


 これを良いことにカッコ付けまくる西野。


 最高にシニカル決めている。


 本人は一連の振る舞いが、自身の普通だと考えているので、至って素面だ。何気ない調子で自らのシートに戻り腰を下ろす。大仰に組んだ足をオットマンへ投げ出すと共に、サイドテーブルへ放置されていた飲みかけのオレンジジュースを手に取る。


 果たして、その行為にどれだけの意味があるのか。いいや、まさかある訳が無い。ゴクリ、語るに乾いた喉を湿らせる。度の高いアルコールでもストレートに舐めるよう、存分に勿体ぶって飲む天然果汁百パーセント。


 そして、口の中が心地良くなったところで、彼は太郎助への教示を続けた。


「レッスンスリー。これで最後だ」


 当然、受ける側からは疑問の声が上がる。


 拳銃を構えた姿勢のまま、西野からの指示に応える。


「今度は何をさせる気だよ」


「俺が指示するタイミングで横に飛び、女の頭部を狙って撃て」


「この状況でか?」


「こうした状況で当ててこその技術だ。緊張は適度に保て」


「えらくハードなレッスンだな、おい」


 一連の指示は太郎助の銃口に狙われる側、覆面スーツな彼女にも聞こえているものだから、周囲からすれば気が気でない。下手をすれば彼が撃ち殺されるのではないかと、乗客添乗員一同、顔色を悪くして思える。


 唯一、当の本人だけが、自らの安全を西野の存在から理解する。いつだかホテルの一室、雨あられと降り注いだ弾丸の全てを無効化したフツメンを目の当たりとしているから、今回もまた大丈夫なのだろうと判断したようである。


 とはいえ、生まれて初めて人を撃ったことで、その緊張は大したものだ。額には脂汗がジワリジワリと浮かび、膝はガクガクと今も尚、絶えず震え続けている。正面に構えた銃は、先端が小刻みに震えて覚束ない。


「横に飛んで、狙いを定めて、引き金を引く、たったそれだけだ」


「アンタって人は毎度のこと、やたら簡単に物事を語ってくれるよな?」


「だってそうだろう? 簡単なことだ」


 素っ気なく語り掛けた直後、チラリと西野の視線が移ろう。その先には太郎助の席付近に置かれたギターケースがあった。値打ちモノとあって、機内にまで持ち込まれたロック野郎の商売道具である。


 これをつまらなそうに眺めたところで、フツメンは再びオレンジジュースをチビリ、チビリと舐めるように飲む。ややあって、ありったけのウザさを発揮すると共に、太郎助に向けて言葉を続けた。


「FだのGだのと、バレーコードを掻き鳴らすのに比べたら容易なものだ。凡そ人の指で押さえるように出来ちゃいないな、このギターっていう楽器は」


「俺ならどんな曲でもオープンコードだけで綺麗に弾いてやれるけどな? なんならこの後で教えてやってもいいぜ、ギターのいろはっていうやつを」


「分かった、そこまで言うなら優しくしてやるよ」


 半分ほど残っていたオレンジジュースを一息に飲み干す西野。


 そして、空になったグラスを眺めながら呟いた。


「その女の銃だが、もう弾は入っちゃいない。安心して掛かれ」


「っ……」


 西野の言葉を受けて、覆面美女の顔が強ばる。どうやら真実であったようだ。即座に彼女は駆けだした。向かう先は数メートル、今し方に倒れた仲間の下。そこには回収されずに転がった拳銃が一つ。


 覆面美女の手が伸びる。


 しかし、その指先が触れる直前のこと、背後から飛んで来たグラスがこれに当たり、数メートルばかりを弾き飛ばした。つい先程まで天然果汁百パーセント、オレンジジュースが入っていたグラスである。


 予期せず飛んできたガラスの割れる様子に慄く覆面美女。


 一方で飛ばされた拳銃は、カラカラカと回転しながら床の上を滑った。やがて辿り着いた先には、カップルの片割れ、先程にリーダーの拳銃を確保した女性客の姿があった。彼女は今し方に同じく、これを大慌てで確保する。


 都合、右手と左手で二つを構える羽目となる。


 二丁拳銃なう。


「それを寄越せっ」


「っ……」


 覆面美女が唸るに応じて、咄嗟、女性客は手にした二つの拳銃を構えた。数歩の間隔をおいて、相手の頭部に二つの照準をピッタリと。共に安全装置は外され、指先はトリガーへと掛けられていた。表情は真剣そのものである。


 一連の光景を目の当たりとして、ヒュゥ、西野が口笛を吹いた。


 フロアを共にする乗客及びスチュアーデス一同、イラッとした。


 どうやら、状況は決したようだった。


「アンタよりそっちの彼女の方が素質がありそうだな?」


 太郎助をからかうようフツメンが言う。依然として自分のシートに腰掛けたまま、酷くリラックスして見える。オレンジジュースを飲み終えてしまった為か、手持ち無沙汰に端末などいじり回しながら。


 他方、これに答えるイケメンは悔しそうな表情だ。


「つ、次は上手くやるさ……」


「もう終わりだろう?」


「他に仲間がいるかもしれないだろ?」


「これだけ騒がしくしても、他に様子を見に来る手合いが居ないあたり、四人グループだったんだろう。確認は十分に行うべきだが、これ以上の面倒はないと思う。アンタも次の仕事に向けて英気を養うべきだ」


「そ、そうかよ」


 嬉しいような悲しいような、なんとも言えない表情となる太郎助だろうか。


 時間にして十数分ばかり、騒動は無事に収められた。




◇ ◆ ◇




 ハイジャック騒ぎから数時間後、当初の予定通り、西野たちを乗せた便はガトウィック空港へ到着した。犯人の身柄引き渡しも現地警察との間で滞りなく行われた。とはいえ、全てが全て容易に片付くということはない。一連の面倒を巡るあれこれは、居合わせた乗客にまでしわ寄せが向かった。


 空港近隣のホテルに移動して行われたのは、同国の警察機関による事情聴取だ。


 西野はここぞとばかり太郎助の活躍を推して、これを早々に切り上げた。相手は伊達に文化人をしていない。乗り合わせた客からの支持も然り。結果、イケメンが根掘り葉掘り状況を尋ねられている間に、西野は所定の書式に幾らかの問答を埋めたところで、同所を抜け出すことに成功した。


 彼にとっては当初の予定通りである。


 人様に言えない仕事を受けている為、目立つ訳には行かなかった。


 後々に西野の行いが話題に上がったところで、しかし、関係者一同が気付いた時には、既にその姿はホテルになかった。太郎助が一生懸命に身元を保証したことで、事なきを得た次第である。そうでなければ、或いは逮捕状が挙っていたかも知れない。


 そんなこんなで当初の予定から一時間遅れで、フツメンは新たに便を乗り継いで目的地へと向かった。


 他方、これより更に遅れること二時間ほど。着陸から三時間ほどを経て、ようやっと解放されたのが竹内君たちである。


 与えられた時間差はチケットの価格差。


 本来であればロンドン観光で過ごす筈だった数時間を、ホテルでの事情聴取の待ち時間に過ごし、気付けば次の便への搭乗時刻が十数分後に迫っている始末。タクシーを用いて大慌てで空港まで戻って来た面々であった。


「まさかこんな経験するとは思わなかったわな」


 ほとほとくたびれた様子で竹内君が言う。


 彼の他にはローズ、志水、松浦さん、鈴木君、リサちゃんも一緒だ。


 皆々手に大きなバッグを提げての移動である。


「だよなぁ! でも、これはこれで割と凄い経験じゃね!?」


 唯一、元気なのが鈴木君。


 飛行機の中では離陸直後から延々と寝ていた為だろう。


 恐らく今がテンションの一番に高いところにある。


「ところで、志水さん、ちょっと良いかしら?」


 男二人の語らい合いを遮るようローズが言った。


 その視線が見つめる先には、誰にも増して疲弊の窺える委員長。グッタリと頭を下げて床を見つめる様子は、少なからず気分が悪そうだ。機内では碌に眠ることもできず、更に長らく慣れない場所で延々と拘束された為、精神的にも参っているのだろう。伊達に東京外国語大学を目指していない。


「……な、なに?」


 答える調子も覚束ない。


 そんな彼女へ、ローズは追い打ちを掛けるよう続ける。


「少しお願いがあるの。二人で話せないかしら?」


「…………」


 ローズの何気ない物言い。これを受けて、ピシリと場の空気が少なからず緊張に強ばった。男子は男子の思惑から、女子は女子の思惑から。各々の求めるところが、この小柄な金髪ロリータの一言から大きく揺れる。


 少年少女の恋愛事情。


 唯一の例外は語り掛けられた側の人間。


 目の前の変態ブロンドが抱えた真実を知る志水は、勘弁してくれとばかり。


「あ、あの、私少し疲れてるから……」


「時間は取らせないわ。離陸もすぐでしょうし」


「……飛行機に乗ってからじゃ駄目なの?」


「今でないと難しいのよ。ねぇ、お願い。協力して貰えない?」


 表面上、腰も低く取繕って。


 しかしながら、爛々と輝く瞳は見る者が見れば、獲物を前にした獣のそれと分かる。縦に長く伸びた、凡そ人間らしくない瞳孔と相まって、彼女の本性を知る志水は身体をブルリと振るわせる。どうにも断れない。


「ねぇ? お願い」


 伊達に弱みを握られていない。


「え、えぇ……そこまで言うなら」


「それじゃあ、ちょっとこちらへ」


 二人、連れ合って移動するローズと志水。その背を眺めて、あれやこれや推測を交わす同級生。旅行中に一波乱ありそうだとは、参加者の誰も彼もが期待する。ただ、まさかローズが西野に狂っているとは夢にも思わない。


 その声が十分に聞こえなくなったところで、ラウンジの片隅、ローズが志水を振り返る。いつだか屋上に眺めた、なんら取繕うことのない表情を向けての問い掛けだ。


「端末を借りたいの」


「端末って、あの、まさか私のを?」


 何の前振りも無くローズは語り始める。


「さっきの便には彼も乗っていたの」


「彼?」


「西野君に決まっているじゃない」


「……え?」


 キョトンとする委員長。


 ただ、それも僅かな間のことだ。


「ちょ、ちょっとっ、それって本当に?」


「恐らく欧州で仕事なのでしょうけれど、行き先を追えたのはロンドンまで。次の便で何処へ行くのかまでは調べられなかったわ。だから、先程の話をネタにして、彼が乗るだろう次の便を確認したいのよ」


「でも、え? ど、どうしてそんなことをローズさんが知ってるのよ? っていうか、仕事ってなに? なんで海外にまで行って仕事って、そもそも西野君は学生でしょう? 意味が分からないのだけれど」


「貴方は馬鹿? 彼に聞いたからに決まっているでしょう」


 相手の事情や理解に構うこと無く、ローズは強引に話を進めて行く。


 志水には何が何やらサッパリだ。


 一連のやり取りはまるで説明になっていない。


 でも、それで構わない。


 兎にも角にも志水の端末が欲しい変態ロリータだった。


「し、質問の答えになってないような気がするんですけどっ」


 いきなり馬鹿扱いを受けて、カチンとくる委員長。


 しかし、多分に弱みを握られる彼女だから、碌に反論も続かない。


「それ以上は貴方の知るべき事柄ではないわ」


「なによ、それ……」


「貴方からの連絡であれば、彼も少なからず情報を漏らす筈だわ」


「私、西野君とそんなに仲良くないわよ?」


「彼にとってはそうではないの。ええ、非常に腹立たしい事実だけれども」


「え? あ、いやあの、そ、そんなこと言われても……」


 少なからず慄く委員長。


 伊達に上の第一臼歯と下の第一臼歯を、自らの手でへし折っていない。


 未だ拳に当時の感触を覚えている才女だ。


「いいから端末を貸して頂戴? 嫌だと言うのなら、全てばらまくわよ?」


「……わ、分かったわよっ」


 力技に出られては、頷かざるを得ないのが攻められた側だ。二人の間には学園カーストという絶対の力関係が成り立っている。渋々といった様子で、志水はスカートのポケットから端末を取り出した。


 これを受け取ったローズは手早い動作でメールの作成画面を操作する。


「メ、メールの受信履歴とか見ないでよねっ!?」


「安心なさい。全く興味ないから」


「ぐっ……」


 それはそれで苛立つ委員長だろうか。


 少なくとも彼女は、ローズのメールボックスの中身が気になる。


「過去に彼とメールをやり取りしたことはあるかしら?」


「な、ないわよっ!」


「そう、であれば適当な文面でも問題なさそうね。良かったわ」


 言うが早いか指先で端末を操作し始める金髪ロリータ。この手の機器の扱いには慣れているようで、初見にも関わらずてきぱきと文面を組み立てていった。


 曰わく、こんにちは、志水です。ローズちゃんから聞いたんだけれど、西野君も同じ便に乗っていたって本当? 大丈夫だった? っていうか、どこに行く予定なの? もしかして他に友達と旅行の予定だった?


「ちょ、ちょっとっ!」


 隣から文面を盗み見て、志水が声を上げる。


 当人からしたら、あまりにも近すぎる距離感だ。


「なに?」


「修正して欲しいのよっ! こんなの有り得ないわよっ!」


「そうかしら?」


 構わず、ポチリ、送信ボタンを押してしまうローズ。


「あ、あぁあああっ」


「いちいち五月蠅い女ね。静かになさい」


「そんなこと言うなら、じ、自分のを使ってよぉ……」


 絶望する二年A組の委員長。


 まさか志水の端末に西野のアドレスが入っている筈がない。宛先もまた文面と同様にローズの手打ちである。いつだか女を紹介してやると法螺を吹いて手に入れた、愛しい彼のプライベートな連絡先である。


「それが可能であれば、貴方に相談なんてしないわ」


「ど、どうして……」


「私が連絡を入れたところで、彼は決して返信をしないわね」


 きっぱりと言い切ってみせるローズだ。


「いや、それこそどうしてって意味なんだけど」


「貴方も見ていたじゃない」


「でもローズさんだよねっ!? ありえないじゃんっ!」


 まさかローズからの便りを無視できる男がいるなど、志水は信じられない。西野などフツメンもフツメンの凡人極まるダサ男だ。相手が女であれば、穴さえ空いていれば、誰の元にでも飛んでいくだろうとは、同委員長の勝手な評価である。


 そんな彼女の物言いだから、我慢ならぬといった様子で金髪ロリは応じる。


「彼という存在を貴方の知る有象無象と一緒にして欲しくないわね」


「な、なによ、それ……」


「西野君は見た目の出来不出来に人の評価を左右するような安い男ではないわ。下らない価値観に囚われて、大切な部分がまるで見えていない盲人たちと、同じ土俵に比べるなんて、貴方はなんて失礼な女なのかしら」


「…………」


 心の底から嫌そうな顔をする志水だろうか。


 実際の西野はと言えば、文化祭の最中、もろに外見的好みから松浦さんへ声を掛けた次第である。そうした事実は、けれど、ローズの中では無かったことにされているのだろう。淀みなく答える様子はまるで自分のことのように誇らしげ。


「とりあえず、これは連絡が返ってくるまで預かるわ」


「えっ!? ちょ、ちょっとっ!」


 有無を言わさず、志水の端末を自らの懐へしまい込む。相手の意志などまるで介さない振る舞いは、学内に眺める優等生然とした彼女とはまるで別人だ。


 これには流石の委員長も頭にきたよう。


「私のなんだから返してよっ!」


 手を伸ばす。端末を取り返せと。


 そうした瞬間、ローズの懐から早々、賑やかな音が流れ始めた。


 タイミング的に考えて、恐らくは西野からの返事だろう。


「っ……」


 まるで熱いモノにでも触れたよう、ビクリと身体を震わせて、咄嗟に反応するローズ。仕舞ったばかりの端末を取り出して、凄まじい勢いで画面を操作する。血走った眼で届いたばかりのメッセージを確認だ。


 そこには数行ばかりのメッセージが並ぶ。


“あぁ、彼女の言うとおりだ。こちらは少しばかり騒動となったが、乗り合わせた乗客が上手い具合に立ち回ってくれたおかげで、事なきを得ることができた。おかげでアテネ行の便に乗り遅れずに済んだ。旅行の件は急なキャンセルを申し訳なく思う"


 酷く淡々とした文面だった。


 けれど、今のローズにとっては他の何にも代えがたい文面である。


「あぁあぁああああああああああああ!」


 これを目の当たりとして、その口からは咆吼が上がった。


 凡そ少女らしくない野性的な響きだ。


 更に腰を入れて本格的にガッツポーズなどしてみせる。


「えっ……ちょ、ちょっと、ローズ、さん……」


 委員長はどん引きだ。


 周囲からも何事かと視線が集まる。


「ねぇ、堪らないわっ! 見たかしら!? ねぇ、志水さん?」


「いきなり大きな声を出さないでよっ! 貴方ただでさえ目立つんだから! っていうか、竹内君たちの方まで聞こえちゃったらどうするのよっ!? 今の絶対に聞こえてたって! フロア中に響いてたよっ!?」


「最高よ、あぁ、最高なのよ、西野君。私たちの出会いは前世より定められていたに違いないわ。二人が離れることなどあってはならないと、この世界が望んでいるの。そう、本当に大好き、大好きなの。愛しているの。西野君、私は貴方のことが大好きです」


 ローズは周囲に構わず、今度は甘ったるい声で語り始める。無我夢中に思うがまま。その口から溢れるのは意中の相手の名前と、これを褒め称える言葉がツラツラと。他者からの視線など構うこと無く、西野を大絶賛である。


「愛しているわぁ、西野くぅん……」


「キ、キモっ……」


 二の腕に鳥肌を立たせる志水は、心底から気持ち悪がっていた。ブツブツと浮かび上がった発疹を指先に掻いては身震いを一つ。見た目麗しくあっても、一連の振る舞いは同性的にアウトだったようだ。


 ややあって彼女は、メールの本文を盗み眺めたことで、とある事実に気付く。アテネ行の便。彼女たちが搭乗を予定する便と同一の目的地だ。なるほど、この変態は意中の相手と同じ地域へ向かえて嬉しいのだと理解である。


「あぁ、だからか……」


 その一点に関しては分からないでもない志水だ。


 彼女だって今まさに、竹内君と共に在る旅行を楽しんでいる。


「西野君を想ってオナニーがしたいわ」


「は?」


 ただ、彼女を脅す相手は少しばかり頭の具合がおかしい。


「ちょっとトイレでシてくるから、先に行っていて頂戴」


「貴方、な、な、なに狂ったこと言ってるのよっ!?」


「荷物は頼むわね」


「ちょっとっ! ちょっとちょっとぉっ!」


 志水が止める暇もない。


 ローズは駆け足でトイレに向かっていった。


 そこで彼女は更に気付く。


「あっ、っていうか、ねぇっ! 私の電話持ってかないでよぉおおっ!」


 声も大きく吠えたところで、しかしながら、その背は早々に人混みへ紛れた後だ。白人圏に在りながら、それでも人目を引くほどに特徴的な、長く艶やかなローズの金髪。それが視界にちらついていたのも僅か間のこと。すぐに隠れて見えなくなってしまう。


 後に残されたのは二人分の荷物。


 そして、予定の便まで十数分というギリギリの残り時間。


「……勘弁してよぉ、もぉ……」


 今にも泣き出しそうな表情となる委員長だった。

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