骸骨堂のヨーク

安芸咲良

エピローグ Requiescat in Pace

「ねぇ」

 少女の呼びかけに、返事はありませんでした。

 顔を上げると、ソファで寝ていたはずの彼の胸は、もう上下していませんでした。

 暖炉の薪がぱきりと爆ぜ、我に返った少女は立ち上がります。ソファの傍まで行くと跪き、そこに横たわる彼の栗色の髪をそっと撫でました。

「ねぇ、起きて」

 返事はありません。

 少女の肩が震え出しました。部屋には少女の嗚咽と、薪の燃える音だけが響きます。

 どれくらいそうしていたでしょうか。窓の外が白み始めています。ようやく少女は顔を上げました。

「もう、会えないんだね」

 少女は目元を強く擦ると、立ち上がりました。暖炉の上のランタンを手に取り、彼の元へと戻ります。

 少女はランタンの火を彼へと近づけます。するとどうでしょう。翡翠色の炎が、彼だけを包みます。

 口をきゅっと結んだまま、少女はそれを見下ろしていました。

 やがて炎は小さくなり、あとには毛布の掛けられた骸骨だけが残ります。

 少女は頭蓋骨をそっと手に取ると、胸に抱え込みました。

「ずっと、一緒にいてね」


 それは三度目の始まりの日でした。

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