第13話 我が家の猫は耳がいい

猫は耳がいいという。ネット情報によると人間に比べて8倍も耳がいいとか、高音域が特によく聞こえているらしいとか。そう言われても、どのくらい耳がいいのか見当がつかないと思っていた。


うちの猫は、体重は3㎏の小柄なキジシロ猫。


胸元が真っ白で、両手はかわいい白手袋。お座りや待ても覚えたので、比較的賢い猫だと言えるのではないだろうか。住宅街に突然現れた保護猫で、不思議な縁を感じて引き取った雌猫だ。


我が家では、外を眺めるのが好きな猫のために窓際に寝床付きの展望台を作っている。引っ越してきて1か月、猫も新しい部屋に馴染んできて寛いだ様子を見せてくれるようになった。


朝のカリカリ餌を食べた後、うちの猫は展望台に陣取って出勤する人々を眺めて毛繕いをする。以前住んでいたマンションは5階だったけれど、新しい住まいは2階。建物のすぐ前は住民の駐車場。


駐車場前の通りを下ると最寄り駅へ向かうバス停があるので、人通りも多い。猫が人間観察をするにはちょうどいいらしい。午前9時を過ぎると人通りが減って退屈するのか、丸くなって寝るのが日課のようになっている。


駐車場から2階を見上げると、レースのカーテンの隙間から猫の展望台がちらりと見える。愛猫がそこにいる時には、こちらを見下ろしているのが見えて可愛い。

だから、外出先から帰ると愛猫がこっちを見ているかどうかが気になって、つい窓を見上げてしまう。


今日も外出先から帰って駐車場に車を停め、無意識に2階の窓を見上げた。レースのカーテンの隙間から愛猫の耳と丸まった背中が見えた。愛猫はぐっすり寝ているらしい。


それを見て、私はここから愛猫の名前を呼んだらうちの猫は気が付くだろうか、と思った。


ほんのいたずら心で、私は車のドアを開けて小さな声で愛猫の名前を呼んだ。繰り返すが、部屋は2階でガラス窓が閉まっている。聞こえるわけがない。


「りあん。」


名前を呼んだ途端、愛猫は飛び起きて私を見下ろした。文字通り、飛んで起きた。驚いたように身を乗り出して私を見下ろす愛猫。私は手を振った後、急いで階段を駆け上った。


玄関のドアを開けると、ペット用脱走防止の白い柵の向こうで愛猫が白い手をお行儀よく揃えて座っていた。そして、早く餌をおくれと言わんばかりに鳴いた。私は愛猫の頭を撫で、特別な御馳走を開封した。かわいい猫よ。いつまでも私の傍に居ておくれ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る