砂を腹一杯食いたい

@hanamitsu0819

第1話 挙動不審

描いたら描いたで不審な現実世界の間で消えかける情熱。

「死をもって体現せよ」

彼女は卑屈な笑みを浮かべそう語る。しかしいつからか世界の深淵は極端に黒くなった。

「わかるだろう?この気持ちが」制裁の中を感情がうねっては消える。

 ただ単に傷つくことを恐る俺はマクドナルドで高いコーヒーを飲む。気の触れるいじらしい感覚、必然性を感じられないドラマ。血のついたハンカチを大事そうにもっている。効き目を確かめる簡単な作業、俺は自殺した偉人たちのロープで道路を舗装する。憤慨せよ、憤慨せよ、憤慨せよ。メロディックな公的権限の畑。

 最低で鈍感で緻密で情けない。俺たちの友達がその度胸を隠蔽する理由。知ってはいけないと思いつつ、触れてしまう。暗示的ダークヒーローの登場。みんなが待ち望んでいた、この瞬間。

「笑わせるな」

彼はそう言い放つとドアを閉めてどっかに行ってしまう。短い命だろうが高等な生命だろうが、この「死」というやつに閉じ込められるんですよ。

 視察団は若気の至りで、意味深な歌を歌い始める。ロッカーを閉めても、悲鳴は鳴り止まない。空間に隔たりを感じる、実験室に繋がる非常階段。

 事実関係に沿って彼らは壊れた橋を渡り始める。4番目の娘が谷底へ向かって羽ばたいて消える。苦笑する暇もないほどどこか俺は抜けている。シーズンオフのパプリカの瓶詰めを棚に置いている。

「忘れちゃいないが、確かにこりゃ大作だ」

「偶然轢き殺しても、事件性がないと俺たちは退屈」

不可逆的な愛情で窒息死する、俺はバンダナを腰に貼り付けて、いつものコンビニへと足を運ぶ。誰だって受け付けないような絶景のさなかで、ワイングラスに水晶を入れて眺めている。ノートに開いた穴を凝視している。

「気分はどうだい?随分寝てたね」

「記憶する装置はどこだい?君に甘えてもいいかな」

ワイルドドッグスたちが頻繁に公道で暴走している。汚れたワイシャツにワインを滴らせて、動くのを遠慮する。気分が変わる瞬間に、漂う宇宙は点在する。

「身動きが取れません。先生」

焦った彼は右手の包帯を破いてしまう。悲しいシチュエーションを期待していたのにこのざまか、貴様とはもっとよく遊べただろうよ。銅線が絡まって、闇の中をうごめいている。静かにベルを小さく鳴らし、自分の所在をアピールする。

 どんどん異様に成り果てる廊下の端っこで彼女は泣いていた。

「どうしたの?こんなところで早く家に帰らなきゃ」

彼女の目は青く滲んでいる。湿疹ができた手足から闇が映し出される。

「みんな私が食べちゃった。なんで食べちゃったの?私が」

彼女は記憶できるものすべてを記憶しようとする。市電の明かりがモヤモヤと空間を汚している。ただ単にインスピレーションを受けながら生活する気がなくなるのだ。

「どうして、そんな可愛いものを君は怖がるの?」

「あれよ、あれが、いけないんだわ」

廊下の端と端が衝突する。彼女は笑いながら、クマのぬいぐるみを真っ二つに切り裂く。

「気が小さいうちに贅沢しなくちゃ」

「それがだめだったら次はないのよ」

俺はライオンの眠る墓へ、ゆっくり歩いていく、赤い階段を降りていき、専用の鍵でドアを開ける。テーブルの上のミシンでさっきのぬいぐるみを元に戻す。

「こんなクマのぬいぐるみ、私何個ももっているのよ」

「でもこいつはこいつの世界で生きてる」

俺は仕方なく、ぬいぐるみをゴミ箱に入れる。ライオンは眠そうにこちらを見ている。

「お安い御用ですよ、お兄さん」

誰がお兄さんなのかわかんなくなった俺が答える。

「そういえば昔あなたのお母さんにあったことがありますよ」

サラダ油のプールで、みんなで横になって眠った。

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