護衛探偵社のきままな日常

@yumekano20240815

第1章 1話 新しい場所

「ここが……新しい仕事場……?」

私は古びた洋館のような建物の前でそう呟いた。煉瓦造りの建物にワインレッドのような色の扉。ドアノブは錆び付いており、建物には大量のつるが巻き付いている。まるで廃墟のようだ。

「あのー……。誰かいますかー……?」

コンコン、とドアを叩く。強く叩けば崩れそうなくらい脆い。現に、下の方は塗料が剥がれている。

「出ないし。」

何度、ノックしても人が出てくる気配はない。なにかチャイムのようなものがないか、あたりを見回す。すると、それが目に留まった。

「なんだろ、あれ。」

ドアの前にしゃがみこみ、落ちていた赤い欠片を拾う。塗料の欠片のようだった。ドアの色とよく似ている。けれど、少し明るい色だ。まわりにこの色はない。

「て・こ・と・は……。」

再び立ち上がり、ドアをなめ回すかのように観察する。一ヶ所だけ、何故か色が違う。落ちていた塗料と同じ色だ。そこはあとから板が嵌め込まれたようだ。その上、回りの部分は木でできているというのに、その一部だけ鉄板のようなもので出来ている。疑うには十分すぎるほどだ。

「この、タイプの装置なら……。」

鉄板の角を右上、左下、右下、左上の順番に指でつつく。これで、装置は開く、はずだった。

「あり?」

鉄板にはなんの変化も起きない。

何故だ。間違っているはずがない。このタイプは他に開ける術などないはずなのだ。

ならば、この装置はフェイク。他になにかがあり、そちらがドアを開ける鍵になるのだろう。

「なーるほどねぇ~。なかなか、手の込んだお出迎えだ。おもしろいじゃない!なら、ここはどぉ?」

赤い帽子を被った、黒髪少女はニヤリと笑い、ドアノブをつついた――――――そう、彼女は伝説のエージェント


「うっそ、開かない……。」

ではなく、ただの探偵小説好きの新入社員である。

「なんで、働きに来たのに、職場の前で足止め喰らわなきゃならないのよ!ちょっとー!中に誰かいるんでしょー!?開けてー!」

地団駄を踏みながらドアノブをガチャガチャと回し、ドアを叩きまくる。すると、何かが崩れ落ちる音がした。

「え……。」

思わず目の前のドアを見たがドアは崩れていない。ということは音の正体はこの中であろう。ドアノブの鍵穴から覗こうとしたその時、

「ぶっ!?」

ドアが突然開き、額にドアノブが激突してきた。思わず、後ろに倒れる。

血は出ていないが痛い。すごく痛い。

「ん?お前誰?」

開かれたドアから出てきたのは、随分とドスの効いた声をしている金髪ショートの少女だった。フリルや刺繍の美しい装飾が施されたブラウスに裾にレースが縫い付けてある黒いサスペンダー付きのショートパンツとガーターベルトがついたニーハイソックス。まるでどこかの名家の一人息子を想像させるような服装だ。

「あんた、依頼人?」

「い、いや、私は、「じゃあ…………吹っ飛べ。」

「え、」

反応する間もなく、彼女のハイヒールが腹部にめり込む。体はその衝撃に耐えきれず、足が浮き、体が宙を舞って、全身を向かい側の建物の壁に打ち付けた。

「よし、不審者退治完了。」

彼女の声が聞こえる。なんでこんな目に会わなきゃならないんだ、自分はただ働きに来ただけなのに、そんな思いで頭の中をいっぱいにしたまま、意識を手放した。

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