第十話 思い上がり

家族

「ん、んんー……っ」


 ミチルは目を覚ますと、ベッドから降りて体を伸ばした。


「昨日の疲れがまだ残ってるかな……」


 ミチルはそう言うと、薄手のパジャマから手早くシャツとそでの短いズボンに着替えて、階下のリビングに向かった。



 ミチルがリビングに向かうと、そこにはテーブルについて新聞を読む父親の三橋みつはし光夫みつおと、キッチンでせわしなく動き回る母親の三橋みつはし真来まきがいる、いつもの光景が広がっていた。


「おはよー」

「お早う」「おはよう」


 ミチルが挨拶をすると、二人から挨拶が返ってきた。


ミチルは光夫の向かい側の席に座って、リモコンを手に取ってテレビの電源をつけた。ニュース番組が行われていて、ビースト関連のニュースが流れていた。ミチルが昨日倒したオオカミビーストについてだった。


「…………」


 ミチルが無言で――当事者なので感想も何もない――見ていると、リベラル派を名乗る女性が、得意顔で語り始めてた。内容は、魔法少女という存在が、女性がもっと社会に進出するべきという証拠だという物だった。


「…………」


 ミチルは、それを見て口をへの字に曲げた。


「……魔法、なあ」


 不意に、光夫が口を開いた。


「どうしたの、お父さん?」

「いやな、俺が子どもの頃も流行ったなあ、ってな。魔女っ子とか魔法少女とか」


 光夫はどこか懐かしい物を見たように言った。


「魔法、ねえ。私も使えるのかしら?」


 朝食であるご飯を運びながら、真来が何か期待するかのように言った。


「いや、十代までにビースト細胞に感染してないと駄目みたいだな」

「あら、あなた、詳しいのね」

「村松総理の記者会見を見たからな」


 光夫は軽く肩をすくめながら言った。


「あ、それじゃあ、私ご飯運ぶの手伝うよ」


 ミチルはそう言って立ち上がると、キッチンに向かおうとすると、


「ミチル、少し待ってくれ」


 光夫がそれを呼び止めた。


「どしたの?」

「…………何か隠してないか?」

「…………どうして?」


 ミチルは表情にこそ出さなかったが、内心ではドキリとしていた。


「いや、何となくだが、ニュースはあまり見なかったのに、夏休みに入ってからは勉強以外はずっとニュースを見てるからな。そう思っただけだ」

「い、いやあ、ほ、ほら、国語のテストで時事問題とか出たら焦るからさ、情報を、ってね」

「…………」

「ほ、本当だよ?」


 光夫は少しの間ミチルの瞳を覗き込んで、軽くため息をついた。


「そうか。まあ、そう言うなら、そうなんだろう。ただな、メディアの言う事全部鵜呑みにするなよ?平気で嘘ついたりヤラセとかやるんだから」

「そ、そうなの?」

「ああ。メディアって意外と適当で嘘つきな所があるからな。…………さ、この話は終わりだ。食事にしよう。俺も運ぶの手伝おう」


 光夫はそう言って立ち上がると、キッチンに向かった。


「あ、うん」


 ミチルは返事をすると、同じようにキッチンに向かった。

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