考え

 夕方、蒸し暑さが未だに残る時間帯。

 舞、心咲みさきむくの三人は、駅前の家具屋から出てきて、ロータリー広場に向かって歩いていた。


「いやー、椋、ごめんね。家具見てもらうの手伝ってもらっちゃって」


 舞が椋に言った。


「んー? 別に大丈夫だよ。なんせ二人の愛の巣の家具を選ぶんだから、友人としては手伝わない理由はないのよ」

「愛の巣って……。否定はしないけどさ」


 舞は軽く苦笑しながら言った。


「ま、舞ちゃん……」


 心咲が顔を赤くして言った。


「ん?」

「そ、その……い、今まで否定してたのに、どうしたの?」

「……ああ、そっか、そうだよね」


 舞はそう言って少し考えてから、


「あんな事があったからさ、もっとちゃんと守らなくちゃって思ったんだよ。あれは完全に、見抜けなかった私の落ち度だから」


 舞が目を伏せて言った。


「いや、普通見抜けないって。病院の運ばれるまでいつも通りだったんだから」


 椋が手を『ないない』と軽く振って言ったが、


「だとしても、だよ。私が甘かったんだ」


 舞の後悔したような表情は晴れなかった。


「……舞ちゃん、私が生きてるからそれでいいじゃない?」

「心咲。心咲が生きてるからいいって訳じゃないんだ。一度殺されているんだから……」


 舞がそう言った時、一人の女性が舞達に駆け寄ってきた。


「あ、ごめんなさい、これ、号外です!」


 女性は舞達にそれぞれ新聞を押し付けるように渡すと、別の人に同じようにして渡していった。


「…………」「…………」「…………」


 三人は、顔を見合わせた。



 三人はバスに乗って舞の家まで向かうと、リビングのソファに座って新聞を広げた。

 その内容は、総じて『魔法を使える女性は男性より優れている、女性は今以上に社会進出すべきだ』といった物だった。


「…………何コレ」


 椋は呆れた様子で言うと、新聞を畳んだ。


「当事者に配る物じゃないよね……」


 心咲が苦笑しながら言った。


「まあ、子ども騙しもいいところだよね。男でも魔法使える人知ってるし、何より男の人を蔑むような内容が気にくわないね」


 舞が軽く溜め息をつきながら言った。


「こういう考えの人って、どうなんだろうね? 主義主張は否定はしないけど、人を蔑んでまでそれを人に押し付けようとするのがわからないよ」


 椋が難しい表情をして言った。


「椋、私には難しい事はわからないけど、たぶんその人にとってはそれが正義なんだよ」

「そんな物なのかな……?」

「だと思うよ。実際問題、私をビーストにしたあの人達だって『もっと良くなりたい』って考えての行動だったんだから」


 とても誉められた物じゃないけどね、と付け足しながら、舞が言った。


「そんなモンなのかな……?」

「そんなモンだと思うよ。それに、私が使ってる力はね…………みたいな物なんだよ」

「ごめん舞ちゃん、もっかい言って?」


 心咲が肝心な部分を聞き取れずに言った。


「わかった。私が使ってる力はね」


舞は、その先を口にする。


「呪いみたいな物なんだよ」


 

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