合間の中で

 ファウストが襲来した翌日。


「……平和だ」


 ソファーに座り、テレビを見ながら、舞は、ボンヤリと呟いた。


「……舞ちゃん、急にどうしたの?」


 舞に抱き付いている心咲が、首を傾げて言った。


「いや……平和だけど、変だな、って思って」

「どうして?」

「だって、あれだけ派手に暴れてる筈なのに、ビースト関連のニュースがひとっつもないんだもん」

「あー、確かに……」


 舞はそれなりにニュースをチェックする方なのだが、ビースト関連のニュースを見た事がなかった。心咲も見た事がなかったので、舞の意見に同意していた。


「何でなんだろうね?」


 心咲が言ったが、


「さあ……」


 舞は答える事が出来なかった。

 冷蔵庫から三人分の缶ジュースを持ってきた椋は、舞と心咲を見て呆れた表情になった。


「あのねえ二人共、仲睦まじいのはよろしゅうございますけど……、流石に冷房効いててもちょっと暑苦しいから止めて」


 椋はそう言って、二人に缶ジュースを手渡そうとして、


「あれっ?」


 何かに気が付いた。


「……どしたの、椋?」

「いや……心咲ちゃん、ちょっといい?」

「? どうかしたの、むっちゃん?」


 心咲はキョトンとした様子で言ったが、椋の表情は真剣そのものだった。


「ごめん、ちょっと」


 椋は一言ことわってから、心咲が履いていたスカートを太股ふとももまで捲った。


「ひゃあ!? ちょっと、何するの!? そういうのは舞ちゃんにしか許してないよ!?」


 心咲は慌てて言ったが、


「…………え?」


 自分の太股を見て、言葉が止まった。

 心咲の右の太股には、真っ直ぐな切り傷が走っていた。


「スカートの端っこから見えて気になったんだけど、これ、どうしたの?」


 椋は心配そうに言った。


「あれ? これ、どこで作ったんだろ……」


 心咲は、本当にわからないといった様子で言った。


「心当たりないの?」

「うん……」


 椋の言葉に心咲は頷いた。


「ん? これ……」


 舞が首を傾げて言った。


「え、何、心当たりあるの?」


 椋が怪訝そうに言った。


「いや……心当たりというか……どっかでこれと同じような切り傷を見たような……? ……ごめん、やっぱりわからない」


 舞は何度か首を捻りながら言ったが、答えが出なかった。


「…………まあ、これは後で手当てするとして、だ。お泊まり会、いつにする?」

「舞ちゃん、流石に話題替えが唐突過ぎない?」

「そうだけどさ、わからない事をいつまでも考えても仕方ないよ、心咲。それよりもさ、何か楽しい事考えようよ」


 舞は、少しだけおどけて言った。


「まあそうだけどさ……まあいっか。それなら、来週からでよくない? 服とかパジャマとかの準備あるだろうし」

「お、椋、その位でいいと思うよ。心咲は?」

「うーん、舞ちゃん、私が滅多な事で舞ちゃんに反対意見を申し立てると思う?」

「そうくるかあ……」


 舞は苦笑して言った。

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