戦い

 命懸けの戦闘を行った結果、アリビーストの半数がどす黒いゲル状の物体に変わっていた。


「あぁ、もう……!」


 ミチルは、『ディバイドロッド』を支えにして、何とか立っていた。エドを含めた他の隊員は、片膝を突いていた。

 隊員達にアリビーストが襲いかかろうとするのを見て、ミチルは最後の力を振り絞って『ストライクパニッシャー』を唱えようとして――

 上から降ってきてアリビーストにのしかかった何かに驚いて、それを中断した。


「えっ……!?」


 ミチルは、上から降ってきた何かの正体を知って、驚いた。エドや他のスローレイダー隊員も、同様に驚いていた。

 上から降ってきた何かは、舞だった。


「ま、真野さん!?」


 ミチルの声に気が付いて、


「や、助けに……って訳ではないけど、来たよ」


 舞は、力が全く籠ってない声色で答えた。


「アリビースト百体って所か……。まあ、やれるね」


 舞はそう言って、自身がのしかかっていたアリビースト二体の頭を踏み潰した。


「さて……腹いせは、お前達にふっかけるとするよ」


 舞は襲い来る百体のアリビーストを睨み付けて言って、胸元から『エボルペンダント』を取り出し、蒼い宝石を親指と人指し指で挟んで、


「変身」


 静かに、はっきりと言った。

 舞の体を桃色と白が入り交じったオーラが包み込み、同時に高熱と突風で構成された爆風が路地に充満し、アリビースト、スローレイダー隊員関係なく吹き飛ばした。


『Intellect and Wild!』


 奇妙な低い音声が鳴り、オーラが消滅した。オーラの中から、赤と黒を基調とした姿の舞が現れた。

 その直後、舞はアリビーストの群に猛然と突っ込んでいった。


「っ、援護だっ! 援護っ!!」


 エドは立ち上がり、ポケットからビーフジャーキーを二つ取り出しながら言った。一つを自分の口に放り込んで、もう一つをミチルに駆け寄ってその口の中に突っ込んだ。ビーフジャーキーを飲み込んだ瞬間、ミチルとエドの全身に活力が戻った。



 舞はアリビーストの一体に駆け寄ると、腕の一振りで首を薙ぎ、後ろから襲ってきた兵隊アリビーストの首を回し蹴りで撥ね飛ばした。

 舞はそのまま振り返って首がなくなった兵隊アリビーストの後ろにいたアリビーストの首を掴み、へし折った。

 その瞬間、背後から近付いてきたアリビーストが舞の首筋に大顎を伸ばそうとして、その顔面が爆散した。


「…………?」


 舞が首を傾げて振り向くと、


「援護します! 真野さんは気にせずに戦ってください!」


 ミチルが『ディバイドロッド』を構えて言った。『ディバイドランチャー』を待機させていた。


「…………」


 舞は無言で頷いて、再びアリビーストに襲いかかり始めた。



 数分後。


「真野さん、伏せて! 『ストライクパニッシャー』!」

『Strike punisher !』


 『ディバイドロッド』の先端に魔方陣が展開され、そこから極太の蒼白い光線が放たれた。

 『ストライクパニッシャー』が伏せた舞の頭上を飛び、残りのアリビーストと兵隊アリビーストを薙ぎ払った。


「……助かった。さて、後は、女王アリだけだね」


 舞の視線の先には、アリビーストより頭一つ背が高く、女性的な体つきの、女王アリビーストとでも呼べるようなビーストが、兵隊アリビーストを盾にして、一体だけ生き残っていた。


「……ハアァアアアァァア……」


 女王アリビーストは、女性のような禍々しい鳴き声を発し、舞に向かって悠然と歩き始めた。


「…………」


 舞も、無言で悠然と歩き始めた。

 お互いの腕が届く距離に入った瞬間、


「シッ!!」


 舞が一瞬で女王アリビーストの脇を駆け抜けた。

 少ししてから、女王アリビーストの首筋からどす黒い鮮血が吹き出し、首が外れて、背中側に落ちた。


「…………危なかった」


 そう言った舞の声は、ほんの少し震えていた。

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