ゆめのはなし
鬼塚 はなこ
祀られる場所
気づけば、見慣れた森を、山を歩いていた。
よく来る場所なのだが、いまだにどちらなのか私は知らない。
ただ木々が覆い茂る道を上へと目指すのである。
しばらくすると道が開け、その先には立派な鳥居と、奥にはこれまた立派な社が見えた。
到着したその場所…―神社は、まだ真新しい風貌で社の入り口にはしめ縄と大きな垂れ幕のようなもので覆われている。
私はおもむろに鳥居をくぐり、幕を開け、薄暗い社の中へと入っていった。
目の前には祭壇と、床に穴が空いており、そして十数人の人々が静かにそこに座っていた。最後の客は私のようだ。
皆の横を通り抜け、最前列の端へ座る。と、同時に祭壇の横から狩衣姿の男たちが数人現れた。
どうやら神職たちのようだ。穴を囲むように移動し座った彼らの顔は、黒子のように布で覆われていた。
さらに現れたのは…やはり狩衣を着た男に連れられた、私の母だった。
重々しい彼らとは裏腹、母はいつものジーパンスタイルで、何やら大きい風呂敷を抱えていた。
儀式が始まる。
男の一人が何かを言う。聞き取ることはできない。
すると母が風呂敷を広げた。
中から出てきたのは…祖母の首だった。
それは肥大し、土気色になっていたが、元気なころの祖母の顔そのものだった。
なんとも言えぬそれに呆気にとられていると、不意に隣に座っていた老婆に話しかけられる。
「あんた、あれ見てどう思うん?」
金切声のようなかすれた言葉に、再度祖母の顔を見る。
「私は…なんか安心した」
そうだ。私は心底ホッとした気持ちでいたのだ。
どうしてだかは分からない。でも、嫌悪感は一切なかったし、悲しくもなかった。
儀式が進み、母にこちらに来なさい、と呼ばれる。
言われるがまま移動し、母の横に座った。
穴が目の前に迫る位置になり、その中を少し覗き込んでみる。
床下にはさらに穴が掘ってあり、むき出しの土に申し訳程度にピンクの布が敷かれていた。
「あの布のところに、投げるからね」
母が言う。どうやら祖母の首を穴の中に放り込むようだ。
神職の合図により、二人で祖母の首を投げる。
布の上へと落ちたそれはなんとも呆気なく、私はすごすごと元いた場所へと座りなおした。
それと同時に先ほどの老婆の金切声が問いかけてくる。
「あの首の下からは、どうするか知っとるか?」
行事中に出すような声量ではないその声に戸惑いながらも短く、いえ…と答えた。
すると老婆は続ける。
「死んだらな、すぐに捌いて売り飛ばすんよ。時間が経つと鮮度が落ちるからなあ」
ギャッギャッギャッギャ
老婆の笑い声が響く。
死してなお鮮度など関係あるのだろうか…疑問に思いつつも、そういうしきたりのある地域なのだろう、とぼんやり考えていた。
汚い声で笑い続ける、その老婆もまた
骨と皮だけのような、亡くなる間際に見た祖母の顔そのものだった。
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