第三幕『鴉たちの井戸端会議』

 港に向かう足で、途中にあった甘味屋で干菓子を二つ買いました。これは僕からの差し入れです。

 さて、港近くには必ず灯台が存在します。灯台守も情報屋たちの網を紡ぐ者たちの一人です。灯台の管理扉の前に立って、手にした鍵を使います。中に入ってもそこは変哲もない灯台の内部で、管理室には難しい顔をした老人が一人ロッキングチェアに揺られていました。

「こんにちは、海猫に鴉からの届け物です」

 言って手にしていた鍵を近くのテーブルに置くと、老人は難しい顔のまま上を指差しました。

「ありがとうございます」

 金貨一枚と一緒に干菓子を渡せば、ようやく老人はほんの少し微笑みました。

 管理室から梯子を上って灯台の天辺に行き、今は火の灯されていない燭台の横を通り過ぎると、そこで足音の違う響き方をする床を踏みました。

『此処ですか?』

『うん』

 隠し扉を見つけ、僕はそこから長い梯子をゆっくり地下に向かって降りて行きます。降り切ったそこにある扉を開いた先に、情報屋たちの秘密の会議室が待ち構えていました。既に五人ほどの男たちが顔を寄せてひそひそと情報交換をしているところでした。中に居た全員が、扉の開いた気配に此方を振り返りました。

「こんにちは」

 言って僕は部屋に入ります。途端に男たちは破顔しました。

「おぉ、お前死弾のところの情報屋だな?」

「よう影踏み坊主。達者にしてたか?」

 皆口々に僕の渾名を呼びます。顔見知りの情報屋たちが揃っていました。

「皆さんもお元気そうで何よりです。本当に何処の灯台にもいますね」

「そりゃあ神出鬼没が情報屋の特技だ」

「今日は何の情報を探して来たんだ?」

「特にコレと言った情報が欲しい訳じゃないです。いつも通りですよ」

「金環蝕の瞳の民の情報か」

 ええ、と笑いかけつつ、どうぞ、と買って来た干菓子を広げて、情報屋さんたちとの歓談の開始です。

 ある情報屋さんからは古い手記の紙束を、ある情報屋さんからは一枚の地図をそれぞれ金貨五枚で買い取りました。僕の持つ情報を同じように金貨で取引して、あとは他愛の無い世間話に花を咲かせました。

 人魚の輸出禁止条例が発令されてからと言うもの、他国への密輸で多くの地方の豪族が財を成したとか。人魚の歌封じに風の魔法を使って声帯を切るやり方で闇医者が儲けているとか。

『何処かで聞いた話のような』

『うん……』

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