第六幕『悪人の定義』

 叩き起こした商船の船長は命乞いも程々に、確かに人魚は密輸の品だとあっさり白状した。


「コッチも人の事はとやかく言える立場じゃねぇけどよぉ、何だってこんな面倒な荷物乗せてやがんだよ」

「……条約で禁止されてから、バルツァサーラの貴族連中が見目麗しい人魚共に大金を積んでるんだよ。それで一攫千金を夢見て、ようやくコイツを捕まえたんだ。それなのにアンタらに船を狙われたなんて、オレもツイてねぇよ」

「そうやって金に目が眩んでると、ツキも逃げるってもんだぜオッサン」


 てめぇに言われたかねぇや、と叫んだ商船船長をうっかり撃ち殺しそうになったが、足下の甲板を射抜くに止めた。


「で、どうするよアレ。抱けねぇ女に用はねぇんだ。海に投げちまえば良いよな?」

「船長!」


 揃って俺を呼ぶ声が二つ。話を聞いていた船医マルトと料理長ジョンが揃って挙手までしていた。この二人が人魚を前にして言うであろう言葉と言えばなぁ。


「船長!ワシに人魚を捌かせちゃくれんか!」

「人魚は霊薬の材料にもなると聞きます。是非私も解剖したいです」


 ですよねー!好奇心旺盛と言うには度が過ぎるぞ。


「念のため、人魚の意見も聞いてみたらどうですか?」


 エトワールの慈悲深い一言で、俺とマルト、ジョン、エトワールは再び船倉へと移動した。


 船倉の更に下。いつものように船を沈めるための爆薬を設置しに行っていたクラーガ隊が、急遽取りやめになった爆破の後処理をしていた。設置した爆薬の撤去作業だ。その作業から離れた隊長のメーヴォが、人魚の居る船倉で俺を待っていた。


 メーヴォが微かに、シィ、と口元に指をやった。何だ?


「どうしたメーヴォ。お前までその人魚で何かしたいとか言い出すのか?」


 何事もない顔でメーヴォは俺に向き直った。


「そうだな、人魚の流す涙が極上の宝石になると言う検証実験はしてみたいが、それより僕が興味あるのはこの箱だ」


 人魚をどう処分するかは任せるので、残ったこの容器が欲しいと言うのだ。


「これだけの透明度で一枚板に削り出された水晶は珍しい。あと装飾の金や宝石も欲しい」


 お前は花より団子より皿か。箱も丁重に扱う事を約束して、メーヴォを作業に戻らせた。

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