4巻発売記念ショートストーリー

イントロダクション

○前置き

これは14話~16話(4巻収録)の扉絵のサイドストーリーです。

基本4巻のネタバレはありません。時系列はぼかしているので、「こんなこともあったかも?あるかも?」くらいな気持ちで読んでいただけると嬉しいです。


* * * * * *


「じゃ~ん!」


 と、千晃が効果音をつけてテーブルに置いたのは、一本のワインだった。


「格付け第一級のシャトー・ラトゥール。しかも入手困難な当たり年」

「どうしたのそれ。買ったの?」

「知り合いからもらったんだよ。どう? 興味ある?」

「ある!!」

「…………」


 葉介は身を乗り出して答え、蛍はバッと勢いよく手を伸ばした。それを千晃は、するりとかわす。


「おおっと。そういう直接的な手段はどうかと思うなぁ? 呑みたいならそれなりの態度を見せないと」

「今すぐ呑ませろ」

「いやーずいぶんな物言いだね。ヨウ君、手本を見せてあげて」

「呑ませて下さい、千晃様!」

「よし、いいだろう。ほらほらケイ君、次は君の番だよ」

「くっ……」


 千晃が蛍よりも優位に立つのは珍しい。一花はそっと冬陽に尋ねる。


「そんなに美味しいんですか? その、シャトーなんとかって」

「さぁな。酒狂いにとっちゃうまいんじゃねぇの?」

「あれー、一花ちゃんとハル君は興味ない? シャトー・ラトゥール」

「私はお酒まだ呑めないし。ブドウジュースの方がいいです」

「同感。ワインだけはうまいと思えねぇ」

「まったく2人ともノリが悪いなぁ」

「高級ワインにテンションが上がる女子高生は嫌だろう」

「それは確かに」

 

 蛍の常識的なツッコミに、千晃は頷く。


「残念だけど僕らだけで楽しむとするか。ケイ君、美味しいおつまみよろしく」

「チーズは必須だな」

「肉も! 生ハム、牛肉。あとパスタもいいよね」

「…………」


 盛り上がるワイン組。それを冬陽と一花は白けた目で見つめる。


「いいよな、呑めるヤツはそういう楽しみがあって」

「そうですね……私も生ハム食べたい」

「おつまみだけでも食べたらいいよ。ワイン飲めなくたってさ」

「そんなこと言って、子供は早く寝ろって言うじゃないですか」


 葉介のにこやかな誘いに、珍しく一花は反論する。


「大人はいいですよね。いつまででも起きてられて、お酒もお菓子も自由。でも私には早く寝ろって言う。平日は、学校や仕事で一緒にいる時間が少ないのに」

「それは……」

「ベッドに入ると、楽しそうな騒ぎ声が聞こえてくるんですよね。どんな話をしてるのか知らないけど。私の父親を名乗って現れたくせに、夜は自分たちだけ楽しんでて。それって何だかなぁ……」

「い、一花ちゃん……」


 一花の不満に、大人たちはたじろく。

 確かに時間が合えば、よく居間で酒盛りをしている。同世代なので共通の話題は多く、話も合うのだ。呑めない冬陽も同席し、男同士で盛り上がる。それについて一花が意見するのは、これが初めてのことだった。


「よし、今夜から君も一緒に呑もう!」

「そんなことダメに決まってる。俺たちが呑むのを控えればいいだけだ」

「寂しい思いをさせてたんだね……添い寝しようか?」

「どさくさに紛れて何言ってんだこのボケ」

「じょ、冗談ですよ」


 一花は慌てて釈明する。


「全部冗談です、言ってみただけ。呑むのを控えて欲しいなんて思ってません。皆さんが楽しそうにしてるのは、とっても嬉しいんですから。……でも、私も大人になったら混ぜてくださいね」

「……………………」

「何で皆さん嫌そうな顔するんですか」

「ええっと、嫌ってわけじゃないよ? 俺も一花と呑めたら楽しいだろうなーって、思うんだけど」


 言いよどむ葉介。それに対し、蛍ははっきりと懸念を口にする。


「ここにいるヤツらは酒癖が悪いから。一花を不快にさせてしまうんじゃないかと心配なんだ」

「それケイ君が言う!? 君が一番荒れるくせに!」

「あと、冬陽はビール1杯で泣き上戸だし……」

「いきなり脱ぎ出すヤツよりマシだ」


 どうやら、相当酷い呑み会らしい。たまに子供っぽい言動をすることはあるものの、大人の男としてスマートな振る舞いの彼らが、荒れたり泣き出したり脱ぎ出したりする姿は、あまり想像したくない。


「あ、そうだ!」


 葉介は目を輝かせる。


「ね、皆でパーティーしようよ。昼間、ワイン以外の飲み物や料理を準備してさ。夜じゃなきゃ、一花も一緒に楽しめるでしょ?」

「へぇ、それはいいね」


 葉介の提案に皆賛同する。


「じゃあガーデンパーティーはどうかな? せっかくこんな立派な庭があるんだから」

「いいですね! いつにしましょう? 今週の土日、皆さんお仕事は」

「俺はいける。葉介は……聞くまでもねぇな」

「うん。365日いつでもいいよ」

「僕は土曜が仕事だなぁ。日曜ならいいよ」

「土曜にやろう」

「よーし、決めたぞ。シャトー・ラトゥールを使って、ケイ君をひざまずかせてやる」



* * * * * *


橘家パパズの酒盛りの模様は、『Home, Honey Home』シチュエーション&ドラマCDで垣間見ることが出来ます。

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