007 微妙なお年頃

 ――カンカンカン!


 耳をつんざくような、甲高い音が辺りに響く。屋根の周りに住み着いていた鳥たちは、距離を置いて用心深く眺めている。

 屋根の上に登り、作業する真堂しんどうさんを。


「雨漏りすんのはここだけか?」

「はい」

「原因は、屋根の瓦が割れてるせいだな。隙間が出来ちまってる」


 真堂さんは30分くらいここを離れ、ヘラと瓦パテという屋根修理の補修剤を買って戻って来た。

 そして道具を一式抱えて、屋根に上がった。私もその後ろに続く。

 

「危ないから下にいろよ。ついて来んな」

「でもここは、私の家ですから」

「そうかよ。怪我しても知らねぇからな。……あー、瓦は張り替えた方がいいか。パテだけじゃ追いつかねぇ」


 素人目でも分かるくらい、真堂さんの手際は良かった。無駄がなく、とても綺麗な所作で、思わず見入ってしまう。

 作業が終わり、私たちは屋根から下りた。そして真堂さんは、見積もり書と、この家に関する気づきをまとめた紙をくれた。走り書きながら、几帳面で細かな文章は、彼自身を表しているような気がした。


「今日はありがとうございました。それで、見積もりして頂いた費用と、直してもらった屋根の費用は、どこにお支払いしたらいいですか?」

「はぁ? いらねぇよ」

「え、でも」

「見積もりは金とらねぇし、屋根もちょっといじっただけだ。直したわけじゃねぇ」

「でも、修理のための道具代は……」

「しつこい。いらねぇっつってんだろ」

「あ、ありがとうございます」


 私は深く頭を下げる。すると真堂さんは苦々しく顔をしかめた。


「お前さ、全然ガキらしくねぇな」

「え?」

「まだ16のくせに、家とか金のこととか、普通考えるか? 遊びたい盛りだろ。つか見積もりも屋根のことも、黙っときゃいいのに」

「そういうわけにはいかないです」

「ガキに頭下げられんのは気持ち悪ぃんだよ。礼なんかいちいち言うな」


 お礼を言って怒られるのは、生まれて初めてだ。真堂さんには真堂さんのルールがあるらしい。私が今まで守ってきたものと、対極のルール。


「ありがたいと思ったことは、言葉にする方が普通だと思います。それに16歳は、子供じゃないです。……大人とも言えないとは思いますけど」

「おっさんの俺から見たら、ガキだよ」

「真堂さんも、おっさんという年には見えません」

「だからって、お兄さんでもないだろ」


 確かに真堂さんは、お兄さんと言うには少し年齢が上過ぎる気がする。


「お互い微妙な年だな」

「……はい」


 最後の最後に、共通点が見つかった。

 少しは仲良くなれた気がしたけれど、真堂さんはザッと踵を返した。


「けど、自分には家しかないって言うとこは、やっぱガキだ」


 哀れみのような忠告のような言葉を残し、来た時同様、不機嫌そうな顔で帰って行った。


「……あ」


 ふと、小さな疑問が浮かんだ。

 真堂さんは、どうして私の年を知っていたんだろう。

 ロク先生から事前に聞いていたから? あの人が不必要なことを話すとは思えないけれど、それ以外考えられない……。


「……まぁ、年なんて大したことじゃないか」

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