―ツトム― 転生話とか、召喚話とか、馬鹿にしてた僕が異世界に召喚された件③
「っ!! 何だ……!!!」
明らかに異常な平和とは程遠い爆発音に起き上がる。そして窓を開けて外を見る。
「!! アレは……!」
それほど遠くない所で炎が舞い上がっている。同時に人々の悲鳴も聞こえる。
「た、助けてくれーーー!!!!」
「魔物と盗賊が手を組んで襲ってきたぁーーー!!!」
「だ、誰……ぎゃあぁぁぁっっ!!!!!」
「ひぃぃぃぃ!! 火がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おい! 早く町の人を非難させろ!!」
「他の治安部隊はどうなっている!!!」
「くそっ!! 盗賊め!! 魔物達と手を組み…がっ!!」
「なっ! ぎゃっ!!」
「……っ!! ううっ……!!」
何だよ……コレ……! 地獄絵図じゃないかっ……!!
「そんな……。盗賊と……魔物……?!」
「盗賊、と、まも、の……!」
「はい! さっきの人の声の通り、気配から魔物の気が感じます!」
「でも盗賊って……。」
「魔物の他に人の気配がします。……おそらく、手を組んでいるのものかと……。」
「…………っ。」
おいおい……マジか……! 早速、そんなものと出くわすなんて……。
「何でここに……?」
「わかりません……。けど、推測ですが……魔物の目的は私達ではないかと……。」
「え……?」
「魔物達には私達は驚異でしょうから……。」
……それもそうか。僕たちは「勇者」なんだ。人間や天界の住人を良く思ってはないだろう。
何せ、あいつらは僕たち「人間」を――それどころか世界を支配しようとしているかもしれない。
もしそうなら「治安維持」が目的の「勇者」や「天使」達と相容れる訳が無いだろう。
現に今、罪のない人を襲っているわけだし……。
…………僕の読んでいた異世界物のように魔界の住人とも仲良く――なんて出来ればよかったのに……。
「じゃあ、盗賊たちは……?」
「……これも推測ですが、魔物たちが唆したのではないかと。ここはある程度規模は大きいので、先ほどの治安部隊が居ますから、盗賊だけなら対処ができますが……。魔物と一緒なのは……!」
「くっ……!」
クソっ……!! 同じ人間なのに……。
「リーベ、一体どうする……」
「逃げましょう!」
「え?」
意外な返答だった。てっきり「戦いましょう!」とか「立ち向かいましょう!」とか言うと思っていた。
「い、いや……でも……!」
「盗賊も大所帯でいます! 魔物に加えて、そんな数相手に……。それに魔物の中に怖ろしい気が感じます! 恐らく魔族の中でも強敵に違いありません! 盗賊は退けても私達でも太刀打ちできるかどうか……。」
「怖ろしい気って……。」
「……この町は強力な結界が張られているんです。」
「結界?」
「はい。……ここは私達の拠点の一つです。それと同時に勇者様の始まりの地の一つです。ですから、人々を守るのと同時にこの地を守る為に張られていたのですが……。」
「が……?」
「本来、結界は一般的な魔物は破れるわけがないんです。それなのに、今魔物達が入ってきている……。そして、感じた怖ろしい気……上位の魔物に違いありません! 恐らく、その物が結界を破ったのでしょう。そのような相手……今の私達じゃ、とても……。」
「で……でもさ! 僕ら、「勇者」だよ?
「駄目ですっ!! 殺されてしまいます!!!」
「……っ!」
あまりのリーベの迫力に僕はたじろいだ。
「こ、殺されるって……そんな大げさな。」
「……大げさじゃ……ないんです……。」
リーベの顔を見ると、目には涙が潤んでいた。
「リ……リー、ベ……?」
「お願いです……。逃げましょう……。」
何故、ここまで頑なに戦闘を避けようとするのか分からない。……僕には
(リーベは言っていた。魔族の中に強い敵がいる、って……。)
それは、僕の力でも叶わないということだろうか……。そうかもしれない。この町の結界がどんな物かわからないけど、かなりの物なんだろう。
そんな奴に挑むなんて、確かに無謀にもほどがあるだろう。
……そんな事はまだしも、「殺される」事が大げさではないと言ったのだ。
(……殺される事が怖いのは分かる。)
誰だってそうだろう。現に僕は記憶を思い出す時に見た、トラックに轢かれるシーンは今でも忘れられない。
でも僕は、とある思い込みがあった。「殺されても、蘇生できるのでは?」と。
僕の見ていた異世界小説でも大体そうだ。死んでもギャグ補正かの如く――実際そういう作品もあったが――蘇生していた。
だが――この世界はどうなんだ? 僕はそういう事を聞いたか? そもそも、神様は
もし仮に
一体、この世界の天界の人たちは僕をどうするつもりなのか――
疑問や不信感がどんどん湧いてきた時――
「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
「「っ!!」」
――近くで悲鳴が聞こえた。この声は……子供っ?!
「ツトム様……ここも持ちません……! 早く……」
「…………ごめん、リーベ。」
「え?」
「……子供の悲鳴を聞いて「逃げろ」って言われて逃げる人間じゃないよ。……僕は。」
そう言って、僕は駆け出す。
「っ! ツトム様!!」
はっきりいって僕はこの時騙されたというか、隠し事をされている事に怒りを感じていない訳ではなかった。
それに僕は、この現実離れした事――というか創作物(特に異世界もの)のような事――は嫌いだ。何故だか分からないけど嫌いだ。そう言える。
(それでも……!)
僕はこの状況で人を助けるという選択肢以外無かった。僕は、逃げたくなかった。それも何故だか分からない。分からない事だらけだ。
――でも。
――分からない事だらけであっても。
――この先に死の危険が迫っていても。
――たとえ「もう一度死ぬと、もう生き返れないかもしれない」という事実があったとしても。
逃げたくなかった――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――時は少し戻る。
そこでとある子供が二人の盗賊の男に挟み撃ちにされていた。
「うぅ……ううぅ~……。」
「はははぁ!! こんな所にガキがいるたぁなぁ!」
「へへへへへ……ちょうどいい……奴隷商に売りゃ高くつくかぁ?」
下品な笑い声で盗賊たちは子供を見る。子供は十になるか位の少女だった。
この世界には奴隷というものが存在している。
現在ではそういった制度は無く、人々からは快く思われてはいないものの、そういったものは扱われていた。
人間は勿論、比較的人間に害しない魔物までも扱われている。
その中で「子供」は人間魔物共に扱われている。
力等が弱い子供は、扱いやすさ、躾けやすさもあって重宝されている。
無論、それを糾弾するものもいるが、その子供のほとんどは貧困等が原因で売られた物だった。この世界は「そういう世界」なのである。
しかし、そうでもない子供がいる。それが今現在の少女がその状況になりつつある。
そう――誘拐、人さらいである。
(こわい……! こわいよぉっ……!!)
少女は後悔していた。
明日も早く起きれるように早く寝たはずが急に叩き起こされて何かと思えば、盗賊と魔物の同時襲撃である。
ある程度の荷物を持って少女は両親と共に、逃げていたはずだった。
しかし、ふとした拍子にはぐれてしまう。
「おかあさん、おとうさん!! どこなの!!!」
少女は叫ぶが両親は返事をしてくれない。
「おい!! ガキの声がしたぞ!!」
「何ィ?! どこで聞こえた!!!」
気づくと盗賊達が近づいて来ていた。少女の大きな声で気づいたらしい。
(つかまったらころされるかもしれない……!)
少女は怯えながらも足を動かし逃げようとする。しかし……。
「おい!! いたぞ!!」
一人の盗賊に見つかってしまう。さらに後ろからもう一人の盗賊が来てしまった。
「へへ……見つけたぜ。」
そうして先ほどの状況になった。
「やだよっ……おかあさん……おとうさん……。」
「「お母さん、お父さん」だってよ?!」
「ひゃはははは!! パパとママに会いてぇってか?」
「残念だなぁ? もうどっちもお空の上に逝ってるかもなぁ?!」
「いや、母親の方は奇跡で会えるかもしれねぇぜ? どっちも奴隷としてだがなぁ?」
先ほどよりも下品な笑い声で盗賊達は嘲笑う。
(おかあさん……おとうさん……たすけて……。)
少女はそう心の中でそう願う。しかし、現実はうまくいかない。
「さぁてと、ガキを捕えて俺たち二人はずらかるか?」
「ああ、ガキ一人でも大物だ。」
そう言って盗賊たちは、少女に手を伸ばす。
「っ!! やだっ!!! だれかっ!!! おかあさん、おかあさん!!!」
「おいっ!! 大人しくしろ!!」
「たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
少女はさらわれたくないと抵抗をする。
「なっ!! おい!! くそ、このガキ!!」
急に暴れたことにより盗賊達は一瞬怯む。だが……。
「チッ……!! おい! 暴れるんじゃねぇ!!」
一人の盗賊が少女に武器を向ける。
「ひっ……!!!」
「大人しくしろよ。でなきゃ、腕を切り落とすぜ。」
少女はそれを聞いて、涙目になりながら首を振る。
「大人しくしてりゃあいいんだ。いいなっ!!」
そういって盗賊は少女を連れ去ろうとする。
少女は願った。
(だれか……! たすけて……。かみさま……!!)
しかし、そう願っても神様は来てくれないだろう。
「神様」は――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
上空から咆哮するかのような雄叫びが響く。叫び主は男だった。
「あぁ? なん――」
盗賊の一人が上を向いた時――
―――ザン!!―――
雄叫びを上げた男の得物――槍――で切られていた。
「なっ……!!」
片方の盗賊が驚愕する。その隙に男は、切った盗賊を払い、片方の盗賊を押しのけ、少女の手を掴み後ろへと退いた。
「がっ……!!」
押された盗賊が唸り声を上げる。それと同時に先ほどの一瞬の出来事に目を疑った。
(な、何が起きた……!! 男、が……上から……!!)
盗賊が驚愕している頃、男――青年は、助けた少女と話をしていた。
「ふぅ~…………危な、かった……。」
「ぇ…………だ、だれ?」
「…………ん、え?!」
「おにいさん……だれ? わるい、ひと……?」
少女は涙目になりながらも、勇気を振り絞って質問をする。
「……え~と……僕、は……その……。」
青年は困ったように頭を掻く。しかし表情を引き締めた後、こう言った。
「僕は――「勇者」、だよ。」
そう、来たのは「神様」ではなく「勇者」であった。
これが、彼――勇者「ツトム」の最初の活躍である。
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