―ツトム― 転生話とか、召喚話とか、馬鹿にしてた僕が異世界に召喚された件②




「はぁ~~~…………。」

 僕は深くため息をついた。

 

「まさか……僕が「勇者」だなんて……それに」

 僕はその事実に現実味を感じなかった。

 

 

 

「僕が……「死んでる」だなんて……。」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――






『どういう事なんですか……? 僕が、死んでるって……。』

『……その言葉通りじゃよ。』

『言葉通りって……。』

『お前さん、記憶が混乱してるじゃろ? ほれ、じっとしておれ。』

 そう言われて、頭に杖を当てられる。一体何を……?

 

 その瞬間、光に包まれ……

『え……?』

 僕は、自転車に乗っていってそして――

 

 

 

 ――横にトラックが迫っていた。

『わあああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!』




『…………はっ!!』

 目を開くと元の場所にいた。今のは……。

 

『……刺激が強すぎたようじゃが……記憶はある程度戻ったようじゃな。』

『え……? あ……。』

 そう言われて気づく。そうだ。

 

 僕は武井 努たけい つとむ。16歳。高校一年生……だった。

 両親と僕の3人暮らし。一人っ子。誕生日は5月6日。血液型はA型。

 そうだ、そうだった。僕はあの時塾の帰りで……それで何らかの拍子でトラックに……。

 

『そうだ。僕は……。』

 トラックに轢かれて「死んだ」。それが僕の最期の生前の記憶。

『お主の体はそりゃあエライ事になってたの。』

『どういう風に……?』

『そりゃまあ……肉片が飛び散ってるわ、手が吹っ飛んで『ああ、もういいです。すみません。』』

 聞くんじゃなかった。……待てよ。じゃあ今どうなって……!!

 

『ああ、安心せい。ほれ。』

 僕の心を読んだのか、ウルトラスさんは僕に鏡を見せてくれた。

『な、何にもなってない……。』

 体は血だらけになってない。それどころか五体満足だった。

 

『まあ、そのままだったら勇者なんざ出来んしな。きっちり修復させてもらったぞ。』

 神様スゲーッ!! そう思わざるおえない。流石、異世界。

 

『ん? でも、体を戻す必要あるんですか?』

『ふむ? どういう事だ?』

『いやだって、死んだって事は転生ですよね? 新しい体じゃないのかな……って。』

『ああ、それは……何だ……わしらの所が特例みたいなものだな。』

『特例?』

 何だそりゃ?

 

『新しい体よりも元の体の方が便利じゃろう?』

『はあ……まあ、そうですね。』

『そういう事じゃ。』

『本当は?』

『色々あるが、わしから言わせれば「めんどくさい」!! これに尽きる!!』

『何じゃそりゃぁ!!!』

 前言撤回。異世界のくせに……!!

 

『……というか? 記憶ある程度しか戻ってないんですが……。』

『ふむ。まあ、そこらへんはまぁ……時間をかけて戻せばよい。』

『完全に戻してくれないんですか!!』

『わしはそこまで優しくもないし万能ではない!! それにそれもめんどくさい!!』

 何だこのクソジジィ!! ああ嫌だ。アレだ。異世界系のよくあるろくでなしの神様に当たったぞコレ。畜生!

 

『あ、ああ、そういえば。』

 空気を戻すかのように女の子が喋る。……唯一、彼女が癒しと言っていいな。

『私たち自己紹介がまだでしたね? といっても先ほどウルトラス様から聞いていたと思いますが……。』

 そう言って女の子がこっちを向く。

 

 

 

『改めまして。私の名はリーベです。これからあなたのパートナーとなります。』

 そう言って彼女――リーベ――はお辞儀をする。

『よろしくお願いしますね? 勇者様。』

 そして彼女は微笑んだ。…………僕は……今もう死んでもいいかもしれない……。

 

 

 

『ふ……フヘヘ……。』

『おい……顔とセリフ。』

 そう言われて、ハッとする。ウルトラスさんももちろんリーベも少し引いてるような……マズイマズイ!!

『だらしなさすぎじゃろう……お主……。』

『べ、別に、いいじゃないですか!! 今までに、こんな可愛い子見たことないんですから……。』

『か、可愛い……はうぅ…………。』

 そう言うとリーベは顔が赤くなった。やっぱり可愛い。パートナーか……。結婚してくれないかな。うん。

 

『ええい、もういいわい! ほれ、お主も自己紹介をせい。』

『ああ、はい。……武井努です。ツトムでいいよ。リーベさん。』

『え……あの……「さん」はつけなくていいですよ?』

『え、でも……。』

『あんなに惚気てたくせに、今更「さん」付けせんでもいいわい。』

『なら……これからよろしく「リーベ」。』

『はい。「ツトム様」!』

 うん、もう死んでもいいや。

 

『そして、わしがブレイブシェルの神の一人、ウルトラス『ああ、神様――というか高尚ジジィはもういいです。』キサマァァァッッ!!!!!』




 そうして、なんだかんだで僕の旅が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「はぁ~~~…………。」

 再び深いため息をつく。僕は今、この世界――イルミネイトというらしい――の町の一つ、ビギングにいる。

 僕はその中央の広場の噴水の縁でボーっとしていた。

 リーベは、どうやら神様の所で用事があったらしく「先にこの町を回っててください。」と言われた。

 が、初めての町に一人で回る――しかも、別世界の町――のは……色々と分からないだらけである。例えれば、何の知識も無しに海外に行くのと同等である。しかも強制。ただただ、困った。

 

「リーベ……気付かなかったのかな。」

 優秀そうに見えたけど、おっちょこちょいなのかもしれない。ていうか、その片鱗が見えていたような……。

 

「はぁ~~~…………。」

 僕はもうため息をつく事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「お待たせしました~ツトム様……アレ?」

 待つこと数十分。リーベがやっと帰ってきた。

 

「どうなされましたか、ツトム様? この町を探索しているものとばかり……。」

 リーベは不思議そうに言う。どうやらこの天使、天然が入ってるようである。

 まあ、かわいいんだけどね、そこも!

 

「……あのさ、リーベ。」

 僕は何故ここにいたか、説明する。




「――というわけなんだけど。」

「ご、ごめんなさい!!」

 やはり、というかリーベは気づいていなかった。まあ、しょうがない。ミスは誰にでもあるさ。今回は致命的ではないし、良しとしよう。

 ……決して僕が、コミュ障だからとかそんな事は無い。むしろ喋れる方だが前述の通り、知らない世界を気軽に探索できる器量は持ってない。……ヘタレでも無い。決して。

 

「で、何してたの? 時間、少し掛かってた見たいだけど。」

「ああ、色々手続きのようなものです! コレとか!」

 と、リーベが何か袋を差し出す。

 

「コレは?」

「お金です!」

「お、お金?」

 どういう事だ? そう戸惑ってる僕に、リーベは「目的地に行くまでに説明しますね! ついて来てください!」と言った。

 

「も、目的地って?」

「道具屋です!」

 リーベはえへん、と大きな胸を揺らしながらそう言った。

 うん…………目福だ……。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 ――道具屋へと向かう間、この世界の事を聞けた。

 

 どうやらさっきの「お金」――見た目は硬貨――は勇者ならではのものらしい。

 主に勇者のやる事は、この世界の治安維持。つまり、警察とか自衛隊とかそういうものらしい。

 集団から個人になったもの……と言えば正しいのだろうか。

 とはいっても、勇者ごとに自由でパーティを組んでいる勇者もいれば、個人の勇者もいると言う。もちろんパートナーとなる天使もいるが、本当に一人でやっている勇者もいると。

 

 そしてその治安維持だが、主に依頼者――村長だとか貴族とか果てには王様だとか――の仕事を受けてやるらしい。

 それで依頼が完了すると、天界から支給という理由で「お金」が貰える、という訳だ。

 

 その他にも、魔物に出会い襲われた時に倒すこと――しかし、「凶暴な魔物のみ」らしい――で貰えたり、怪我や病気など特殊な場合でももらえる時があるらしい。

 ここまで来ると、会社か何かなんじゃ……と思う他ない。異世界って何……?

 

 ちなみに「この世界の他の人の金銭はどうしてるのか?」と聞くと、どうやら同じ「金貨、銀貨、銅貨」の硬貨だと言う。

 しかし僕は、それで大丈夫なのか?と聞く。この世界に錬金術があったりしたら、たまったものではない。僕らの硬貨も含めてそう思った。

 が、リーベ曰く「大丈夫です。」と言った。どうやら、硬貨を造っているのが錬金術師だという。

 

 どうやらこの世界は、魔術がほとんどだが科学もある程度進歩しているとの事。といっても魔術よりは劣るらしい。僕らの世界とも比べ物にもならない。

 だが、魔術は本物であり、その中で有名なのが錬金術……らしい。

 

 どうやら、この世界の錬金術は主に金属類を扱ってるとか。それで錬金術師が、硬貨を造ってるのだそうだ。

 しかし、かなり才能が必要らしく、硬貨を造るには僕らの世界でいう「国家資格」が必要だとか。

 ちなみに、もし無断で硬貨を造るのは勿論、錬金術を悪用したりすると、罪になる。当たり前だが。特に錬金術関連は場合によっては重罪レベルの物になる――というかほとんどがそう――らしい。

 

 でも、ばれるものなのか? とも聞くと、どうやら鑑定できる道具や人がおり、それらも「国家資格」だとか。

 硬貨も、微量の魔力を込めて形を整えたりと工夫をしているようだ。

 僕らの貰える硬貨も、同じ工夫がなされているらしい。

 

 そんなこんなで、この世界の事を聞いてるうちに目的地に着いた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 目的地の道具屋は案外広めの店だった。

 リーベはここで旅をする準備をしましょうとの事だ。

 

 僕は、旅に用意するものを買ってきますと言ったリーベと別行動で、今後の相棒となる武器を見ている。

 ちなみに一人なのは、その方が効率が良いのと、もう「一人でも行動出来る」からだ。

 

 どうやら勇者には、言語・文字認識能力が備わっておりあの時別に一人でも大丈夫だったそうだ。……それを早く言ってほしかった。いやでも、お金無かったしな……。

 

 さて、どうしようか。と、武器を見ている。

 この町、ビギングは大きな都市ではないにしても、ある程度発展している都市であり、この道具屋も前述の通り広く色々な物が揃えてある。

 武器だってそうだ。剣、槍、斧、弓、矛、等様々な物がある。

 

 この中から一つ選ぶ。一つなのは、まず武器に慣れるためなのと、そんなにお金が無いからだ。

 武器に慣れるというのは、一応武器は複数持てるらしいが、一つの武器に慣れてもらう、というのが良いから。

 たしかに複数武器を持ったとしても別世界から来た僕は慣れるのは大変だし、時間もかかるだろう。その点では良い案だろう。……お金が無いのはともかく。

 ……まあ、お金が無いのも一応制限というか、異世界に慣れるためというか…………ホント嫌に現実的だな! この異世界!

 

 実際の所、大量のお金を渡されたら僕はそのままここに居そうだ。……働きたくない、って事は無い。絶対に!

 

 話が逸れた。とにかく武器はどうしよう……。う~ん……………………。

 

 

 

「………………………………………よしっ!!」

 決めた! これだ! 僕はその武器を手に取った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「「槍」、ですか。」

「うん。」

 僕は選んだのは槍だった。僕のやっていたゲームで槍を使う主人公が居てカッコよかったから。それだけで選んだ。

 

「……だめだった?」

「い、いえ! 初心者というか、初めての人は大体「剣」を選びますから。めずらしいなぁ……と。」

「ふーん。」

 まあ、そうだろうな。大体の人は、「知ってるから」とか「扱いやすそう」だったり「カッコいい」から「剣」を選びそうだ。

 

 そして今、道具屋での準備の後、僕らは一日だけここで宿を取ることにした。ちなみに部屋は同部屋だった。

 「別じゃないの?」と聞いたがリーベには「?」といった疑問の表情をされ、説得したものの「私はツトム様のパートナーですから」と言われ、最終的に「嫌……なんですか……?」と悲しそうな顔されて僕は仕方なく同部屋となった。

 

 ……もちろん嫌で僕も説得したんじゃない。むしろ男としてはこれ以上ない幸運だろう。

 でも……家族でもなく恋人でもなく、ましては他人の男と一緒の部屋だなんて…………いや、待てよ。まさか、あんな顔してリーベは男慣れしてるのか? そもそも、僕に見せた表情も嘘で本当はそういう好色な人間なのか……?

 そもそも僕の事も、男として……「ツトム様?」「ふぇい?!」

 

 急に話しかけられて変な声を出してしまった。

「な、何だい?」

「急にボーっとしてたので……何か考え事でも……?」

「い、いや何でも。……ところで、この槍をどうするんだっけ?」

 僕は考えを切り替え、選んだ槍をどうするか聞く。

 

「この槍をいつでも出せるように、召喚魔法を施します。」

「いつでも……?」

「はい。手元に置いておくと邪魔になるときがくると思います。それに、もし何らかの原因で破損、紛失があったら不都合でしょう。」

「そりゃあ、まあ……。」

 状況が状況なら不都合というレベルじゃ済まされないよな……。


「そのために、召喚魔法を施すのです。」

「したら、どうなるの?」

「手元に置く必要は無くなるのは勿論、いついかなる時でも取り出せる上に、破損、紛失の心配は無くなるのです。」

「おお……。」

 なるほど、すごい。流石異世界。やっぱりこうでないと。

 

「それに、ツトム様の勇者の能力ブレイブアビリティも付加できますから。」

 勇者の能力ブレイブアビリティ。そう、これが旅立つ前に僕の貰った能力。勇者ごとに貰える所謂スキルだ。

 僕の能力は――

 

「ツトム様。では一緒に。」

「へ?」

「初めてでは不安でしょうから。」

 そう言って、リーベは僕の手を持った。……女の子の手の暖かさってこんなに……って違う違う。流石に自重しろツトム。

 

 脳内で下らない思案をどこかへやりつつ、僕は目の前の槍に手をかざす。そして目の前の槍に向けて魔力を込めた。

 その瞬間、目の前に炎が出た。そう、僕の手から・・・・・


 これが僕の能力アビリティ、火を操る能力だ。……といっても、大体渡される能力は決まってるらしく、四大元素+αだそうだ。

 そして、僕は呪文を唱える。




『我が身に力を与える槍よ。我が一部となれ。』




 リーベから教えてもらった呪文を唱えると、手の炎が槍に燃え上がっていく。

「おお…………。」

「集中してください! ツトム様!」

 あまりの光景に呆然としたが、リーベの声を受け立ち直った。やばいやばい。集中しないと……。

 切れてしまうと、失敗する可能性がある。しっかりしないと……。

 

 そうして集中する事数分、槍は炎に包まれ、消えた。焼けて無くなった? と思ったが床に焼け跡が無かった。

 

「はい、完了です。……お疲れ様です。」

「…………。」

 どうやら取り出せるらしい。試しに念じてみる。すると、炎に包まれ槍が出てきた。おおっ……!!

 

「すごいな……コレ。まさに異世界って感じだ。」

「ふふっ……。嬉しそうで何よりです。でも、気を付けてくださいよ? 集中を切らしてしまうとどこかに燃え移って大惨事になる可能性もありましたから。」

 そう、失敗すると魔力が暴発して怪我の可能性がある。本来は安全な場所でやるべきなのだが、このビギングには近くにそのような場所が無い事。そして、一応場所選ばないためにも一発本番のつもりでここの宿屋になったのだ。ちなみに許可もリーベが取ってくれた。

 

 一発本番という事実にプレッシャーを感じたが、「私が手伝いますから。」というのと、「失敗したらココでただ働きになりますが……。」という見事な「アメとムチ」(?)でなんとか乗り切った。

 いや、正確には「アメとムチ」というかアメ二割、ムチ八割(という名の無自覚であんまりなプレッシャー)なんだけど……。まあ別に成功したし……いいか。

 

「ところでさ。」

「はい。」

「もしさ、狭い所で武器を出そうとしたり、人に当たるような距離で出そうとしたらどうなるの?」

「と、言いますと?」

 僕はリーベが分かるように壁際に移動し、武器の後ろが壁に当たるようにする。

 

「ほら、こういう時後ろの方に壁が当たるじゃん。どうなるのかな、って。」

「ああ、そうですね。……では、一度出してみてください。」

 そう言われて、出そうとする。すると……

 

「……っ?!」

 炎が槍の形をしたまま、うごめいている。これって……。って、待て! 壁の方は……!

「アレ……?」

 燃えて……ない。どういう事だ?

 

「ツトム様、仕舞ってもらえますか?」

「え? う、うん。」

 リーベに言われて、僕は槍を仕舞う。

 

「これは一体……?」

「ツトム様の世界でいう、いわゆる安全装置というやつです。」

「安全……?」

「はい。もし、あのような状況の場合、魔力が反応してああいう事になるんです。」

「へぇ~……あ、でももし狭い場所で敵に囲まれた時とかさ、敵がさっきの壁みたいに遮られた時はどうすれば……。」

「そういう場合は、少し強めに魔力を込めるんです。そうすると、どのような状況でも槍が出せますから。」

「……それで、敵がそこにいた場合は……?」

「……何処かに穴が開きますね。」

「……マジで?」

「はい。ですから、周囲には注意してくださいね?」

 ……異世界のくせに。


「……それでさ。」

「はい。」

「もし、あのとき僕が壁に武器当ててさ、そのまま魔力を強めてたら……?」

「……弁償代が発生してましたね。」

 よかった。僕がまだ後先考えない馬鹿じゃなくて。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「さて……と。そろそろ寝てもいい?」

「あ……はい。明日は早いですから。」

「なら、寝ようか。」

 夕食も先に済ましていた僕たちは、寝る準備をする。……そういえば、着替えってどこにやったっけ? 寝間着は、もちろん明日の着る服やらは一緒に買ったはずだけど……。

 

「ねえ、リーベ――」

 僕が、リーベに声をかけようとした時――

 

 

 

 ――彼女は、衣服の上を脱いでいる途中だった――

 

 

 

「……あ……ぁ……。」

 幸い(?)にも後ろ向きだったが、リーベの眩しすぎる綺麗な肌色がこれでもかと見えていた。その光景に、僕は唖然とし見惚れてしまった。


「? ツトム様、何か言いましたか?」

 リーベが気づき僕の方の見ようとする。それはすなわち前のたわわな「アレ」が――

 

 

 

「っ!!! ストォップ!! ストォォォォォォォォッップ!!!!!! 待って!!!! 本当に待ってぇぇぇぇ!!!!」

「ふぇえ?!!」

 僕は何とか煩悩に勝ち、手でリーベの方を覆い目を背ける。まだ早いとはいえ時間は夜。明らかに迷惑の大音量の声が響いた。

 幸いにも隣は他に客はおらず、下もある程度喧騒の感じがする――食堂兼宿屋だからだろうか――ので、迷惑にはなってない……はず。

 

「ど、どうしました!! ツトム様?! 急に大声なんて……。」

 リーベが怪訝そうに僕に尋ねる。

 

「い……いやその……リー……ベ?」

「はい。」

「あの僕の着替えは? って言おうとしたんだけど……。」

「……ああ、すみません! ツトム様の着替えは……」

「ああ、ちょっと待って! 先にリーベ着替えてるでしょ? 僕の事は、良いから……は、早く。」

「え? ですが……私、ツトム様の事忘れてて……着替えを先に……」

「良いから!! 早く!!」

 先に着替えていた事を後悔しているリーベ。でも、そんな事より早く着替えてほしい。何故なら――

 

「……リーベ?」

「は、はい。」

「……僕さ……「男」だよ?」

「? はい。言わなくても、わかりますが……?」

「じゃなくて!! ……君は?」

「へ?」

「「女の子」! 女性だろ!!」

「はぁ……。」

 そう言って沈黙するリーベ。まさか僕の事……と思ったが、その考えは数秒も持たない内にその考えはかき消された。

 

 

 

「…………っっ!!!!! は、はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!!!!」

 どうやら気づいたらしい。良かった。僕、男と思われてて。

 

 

 

「しゅ、しゅみましぇん!! チュトムしゃま!!!! 私…………あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!!」

「お、落ち着いて、リーベ!! 僕、見たの……その……後ろだけだから……。」

「しょ、しょんな……後ろ姿を……ううううううううぅぅぅぅぅ…………。」

 どうやら見られた事自体がショックのようだ。……それはそれでこちらがショックだ。

 

「嫌、だった?」

「い、嫌というか……しょ、しょういうのじゃなきゅ……なくて……そ、その……私が、はしたないというか……。」

「はしたない?」

「と、殿方に見せれるものではないので……。」

「そんな事ないよ! ……とっても綺麗だった。」

「ふぇっ!!!!!!」

 お世辞抜きで芸術品かと思うくらいのものだった。それを「見せれるものではない」って……見るうんぬんはともかく謙遜し過ぎだと思った。

 

「あ……あの、とりあえず急いで着替えますから!! ほ、本当にすみません!!!」

 そういってリーベの脱いでるだろう擦れる音がした。かなり急いでいるようだ。

 ……後ろを振り向けば、それこそ……いやいや、そんな事をしてはいけない。僕はそんな男じゃない。

 女の子を可愛いといったり、自分でも恥ずかしい言葉をかける勇気があってもそういう不埒な事はダメだ! うん! 

 

 …………ヘタレなんかじゃない! 絶対!

 



「……お、お待たせしました。」

 着替え終えたリーベは、女性用の白の寝間着を着ていた。やはり可愛かった。

 

「それと……ツトム様の寝間着です。」

「ああ……ありがとう。」

 リーベが僕の寝間着を差し出す。

 

「じゃあ……着替えるから。」

「は、はい!」

 そう返事して、リーベは違う方向へ向いた。

 

「にしても、びっくりしたよ。」

「へ?」

「いや、その、リーベ。急に脱ぎだすから。」

「はううぅ……。」

 いや、ホントに。僕は着替えながら話す。

 

「…………久しぶりでしたから。」

「え?」

 「久しぶり」? どういう事だ?


「私、この使命は二度目なんです。」

「……二度目?」

「はい。……数年前、最初の使命を行ってたんです。」

 二度目。つまり、僕の前に勇者のパートナーとして一人誰かいたという訳だ。

 

「その勇者って…………男の、人?」

 僕はそう尋ねる。

「…………はい。」

 リーベは重苦しそうに答えた。男、かぁ……。

 

「……その人とは、どうしたの?」

 一番の疑問だった。こんな可愛い子をパートナーに外すなんて……。

「……っ! ……それは。」

「それは?」

「……一人で旅立たれたんです。「もう一人で大丈夫だ。」と。」

「……? ふ~ん?」

 若干の間を開いての答えに少し疑問に思ったが、まあそういう事なんだろう。

 

「そういう人いるの? 一人で旅したいとか。」

「ええ……まあ……というよりほとんどが、そう、ですね……。」

「え?」

「使命を行う天使があまり多くないんです……。普段は天界で過ごすのが天使ですから。大抵は、この世界に慣れたらお一人で……という事に……。」

「そ、うなんだ……。」

 そうか……。そういうのなんだ……。さっきから異世界なのに……変に現実的すぎるだろう……。

 

「……僕、は。」

「?」

「離れたくないな……なんて。」

「え……?」

「リーベと一緒に居たいな……って。」

「……ツトム様。」

「な~んて、わがままだよね……。」

 ははは……、と僕は無理やり笑い空気を変えようとした。しかし、リーベの表情は暗いままだった。

 

 どうやら、あまり前の人の事は言わない方が良さそうだな……。

「…………よし。もう寝ようか? リーベ。」

 着替え終わった僕は、再度空気を変えるためにそう言う。

「! そう、ですね。寝ましょうか。」

 そう言ってリーベはベッドに入った。僕もベッドに入る。

 

「……おやすみ、リーベ。」

「はい。……おやすみなさい……ツトム様。」

 そう言って明かりを消して僕は寝ようとした。

 未知なる世界への旅立ちの一歩を進めるために……。

 その時だった――

 

 

 

 ――外でとてつもない爆発音が響いた――

 

 

 

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