秋風に誘われて外伝 亜美の真実

剣世炸

第1話 望まない告白

「鳳城先輩!」

 いちょう祭りも終わり、高須山の木々がようやく色づき始めた11月の終わり。

 少し薄暗くなった校門までの道の途中、私は呼び止められた。

「…」

 一瞬振り返ろうとしたものの思い留まり、何事もなかったかのように校門へと足を進める。

「鳳城先輩!!」

 後輩の声に、その場に立ち止まる。チラッと周囲を見渡すと、私たちは部活帰りの生徒たちの注目の的となっていた。

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえているわ!あなたと話すことなんて、私には無いわよ…」

「私が煉先輩の彼女になったからですか!?」

『煉の彼女』という言葉に、一瞬だけ顔に影を落とす。

「やっぱり先輩は…」

「あなたには関係のない話よ!早く彼の元に帰ったら!?」

 校門の方向へ向き直り、再び足を進める私。

 刹那、右手を後輩に握り締められ、体の自由が奪われた。

「そういう訳には行きません!私の彼氏に、何であんな酷い仕打ちをしてきたのか…それに、彼氏がいる鳳城先輩が、なんで煉先輩のことを想い続けているのか…私は知りたいんです!」

「それを知ったら、煉を私に返してくれるの!?」

「そんな訳ないって、分かってますよね!?」

「嘘よ…そこまで言うなら話してあげるわ。何故私が、煉にあんなことをしてきたのか」

「…あれは、高校1年の文化祭後のことだったわ…」


「亜美!お前の事が好きだ!付き合ってくれ!!」

 高1のとき、私と煉は同じクラスだった。

 その年の『けやき祭』で私たちのクラスは展示での出店となり、部活でも選手とマネージャーという関係もあってか、準備を通して煉との距離は一気に縮まった。

 しかし、当時の私は煉を男性として見ることができず、それでも煉と一緒にいること自体は、むしろ心地良かったため、想いが私に向けられていることを知りながら、多くの時間を共有した。

 そして、煉は私に告白してしまった。

「…返事は…」

「…」

「亜美…」

「ちょっと、考えさせてもらえないかな…」

 本当は、私が煉に出すべき答えは、はっきりと分かっていた。

 でも…

『煉といると心地良い』

『煉は部活のエース』

『煉は精神的に発展途上で、今それを崩すと部活の成績に影響が出かねない』

『私は部のマネージャーとして、選手の精神を崩す訳にはいかない』

 後半は、最初の理由の言い訳かな…

 とにかく、そんな思いが私の頭を駆け巡り、煉に断りを入れるのを躊躇わせた。

「分かったよ亜美。俺、待ってるから…」

「煉…」

「(本当は、あなたに恋愛感情なんてないのよ…私の返事なんか待たないで、他の人を好きになって…)」

 そう言うと、煉はかばんを手に校舎を出ていった。

「(あぁ…私は一体これからどうすれば良いの…きっと、今までのような関係を維持できるはずがない…煉を私から遠ざけるには、やっぱりあの方法しか…)」

 私は踵を返すと、自分のクラスへと走っていった…

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