お立ち台

この日のヒーローインタビューは、勝ち越し本塁打を放った栃谷だった。

「どうだった? 初めてのお立ち台の感想は?」

鮫島に茶化されるように問われると、栃谷は満更でもないような顔で胸を張った。

「うん、気持ち良かった。多分うちの家族も見ててくれたと思うし」


栃谷からすれば、ようやく結果を残すことができ、嬉しさよりも安心感の方がずっと大きかっただろう。


「だが、やはりもうちょっと身体を絞らないとな」と森国が栃谷の肩を叩くと、栃谷は照れ臭そうに「すいません」とだけ言った。


ロッカールームには病院から帰ってきていた坂之上の姿もあった。

相沢は坂之上に近寄り、具合を確認した。


「坂之上さん、大丈夫でした?」


坂之上は苦笑いで「ああ、ちょっとした疲労だと。ベテランにもなると、年齢との戦いも出てくるからなあ」と返す。


その表情から相沢は本当に大したことはなかったのだと感じ取り「何ともなくて良かったです」と本心を告げた。


大阪スラッガーズに一勝できた事は大きな意味がある。森国はそれを知っていた。

チームの歯車は噛み合う時もあれば噛み合わない時もある。ただ、この日の勝利は開幕戦のダイヤモンズ戦と同様に、初戦をものにできた。そして、このような区切りの試合からチームの勢いは生まれていくのだと。


ここまでは敗戦が混んでいたレッドスターズだったが、チームの雰囲気にも「波」のようなものが生まれつつあった。


そんな中、ある大きな壁がチームに立ちはだかる事になったのである。

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