裏をかく
「ホーム…スチール」
またしてもレッドスターズに裏をかかれた。
灯明寺はベンチの中にあった長椅子を思い切り蹴り上げ、苛立ちを露わにした。
そもそも昨年までのレッドスターズとはベンチ内の雰囲気が大きく変貌を遂げていた。
声も無く、誰かがヒットを打ってもそこまで盛り上がるわけでもない。投手が打ち込まれても誰もマウンドに駆け寄ることもない。
それが今は、たかが1点を奪っただけであの喜びようだ。
「点の奪い方が上手い」と唸ったのは他ならぬ灯明寺だった。
おそらく、レッドスターズ側からすれば、あの状況での選択肢で一番成功率が高かったのがホームスチールだったのだろう。
外角に変化球を投げた大八木を責めることは出来ない。あれは言ってみれば、投げさせられたとも言える。
奇襲を仕掛けられると、選手なら必ず冷却期間を求めるものだ。混乱している脳内を一度整理し、落ち着く時間がどうしても欲しくなる。
ただ、攻撃側からすればそこが隙。圧倒的チャンスとなる。
普通なら選択できないホームスチール。それが偶然にも最も信頼できる作戦であり、それをきっちり成功させたのだ。その力は認めざるを得ない。
「それじゃあ、こちらも攻めさせてもらいますか」
灯明寺の表情からは、余裕や傲慢といった感情は一切無くなっていた。
ーーーーーーーー
レッドスターズのベンチへ戻って来た石川を他の選手たちは大手を振って出迎えた。
「よくやった!」「お前、やっぱり速えな!」そんな事を言われながら、石川はヘルメットごしにバンバン頭を叩かれていた。
「あ痛たたたっ!あ、でも、無事に生還できて良かったです」
もしも、石川でなければ、ホームスチールという選択肢は無かったかもしれない。
「お前だから成功したんだ。一軍に上げて正解だった」
そう言いながら森国は相沢に感謝していた。あの時、相沢が石川の存在を知らせていなければ、この一点は無かった。
「さあ、もう一点奪いに行くか!」
森国はそう鼓舞し、再びグラウンドの方を向いた。
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