賭け 2

三人目の打者と対峙した藤堂に、もう迷いはなかった。


肩のウォーミングアップも終わり、あとは全力で投げるだけ。



「もし、ここで肩が壊れたとしても良い。元々、右で投げられなくなった時点で、野球を辞める決意はしていたのだから」


覚悟は、藤堂を奮い立たせた。


少し汚れたプレートに左足を掛ける。


それまでの二人の打者に対してのフォームとは明らかに違う、大きな振りかぶりを見せると、ゆったりとしたモーションで右足を引き上げる。


静まった心の中で、少年時代の自分のフォームと、今の姿を重ね合わせながら、その右足をホームの方へ踏み出す。



上手く体重が右足に乗り、そのまま、力が左腕に伝わっていく。

しなやかで長い腕が、ギリギリまでボールを保持しながら、最後に強烈なスピンを掛けて、そのボールを放つ。



0.4秒後。



その白球はキャッチャーミットに収まっていた。




レッドスターズの誰もが、そのボールを見て言葉を発することができなかった。



スピードと球威。申し分がないほどのボール。



当の藤堂はマウンドで左肩を気にしながら、無表情で首を傾げている。


森国は慌ててタイムを掛けて、マウンドに駆け寄った。


「左肩は、大丈夫…なのか?」


藤堂は苦笑いを浮かべて左肩をさする。



「はっ、ははっ。す、すいません。あんまり良いボールが行ったから自分でも驚いてしまって…」


「痛みは、どうだ」


ようやく安堵した様子に戻った藤堂は「痛みもありません」と報告した。


その返事を聞き、森国はその場で飛び跳ねたくなるほど、喜びが湧き上がったが、もちろんそんな事を出来るわけがなく、冷静を装いながら藤堂に一言だけ伝えた。




「ベンチで待ってるから、早くこのピンチを切り抜けて来い」



小さく頷く藤堂もまた、溢れんほどの喜びを隠しているかのように、森国は感じていた。

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