招かれざる男 1

レッドスターズのオープン戦が始まった。


初戦は坂之上が先発のマウンドに上がったが、4回を被安打2、無失点と持ち前の安定感を十二分に見せつけた。

打線も、まだ仕上がりきっていない印象ながらも要所でタイムリーヒットが生まれ、8安打5得点。まずまずの出来だった。


「坂之上、どうだ?違和感はないか?」


試合後、ロッカールームの入り口で森国が坂之上に声をかけた。


「ええ、痛みも全くありませんし、スピードもコントロールも自分のイメージ通りに投げることができています」


「そうか。だが、違和感があったらすぐに言ってくれ。今年のチームはお前がどうしても必要なんだ。無理はさせたくない」


坂之上は苦笑いしながら頬をポリポリと掻く。


「出来ることなら、私が居なくなっても大丈夫なように、若手が台頭してきてくれるのが一番良いんですがね」


坂之上の言うように、一人ではどんなに頑張っても20勝にしかならず、他の投手の踏ん張りが不可欠だ。森国は他の選手に話を聞かれないように、坂之上を廊下の隅に呼んだ。


「あのな、坂之上。実は明日から一人、一軍に合流する」

「そうなんですか。それで誰を?」

「藤堂だ」


坂之上の呼吸が一瞬、止まる。


「藤堂、ですか」


「ああ、そうだ。確かにあいつは今、一軍に上げるべきではないのかもしれない。ただ、ローテーションにはどうしてもあと一人ピッチャーが欲しい」


坂之上は眉間にしわを寄せながら不安げに声を出す。


「でも、藤堂を呼べば投手陣そのものが崩壊し兼ねませんよ」


「確かにリスクはある。だが、そこを坂之上になんとかしてもらえないかと思ってな」


坂之上はしばらく思案したあとで、「やってみます」とだけ答え、ロッカールームへと向かった。


森国にとっては坂之上に賭けるしかなかった。これまでも投手陣をまとめ上げてきた実績があり、人格的にも優れている。


森国は期待と不安を共に抱きながら、球場を出ると二軍のグラウンドに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る