異世界生活は突然の様々な理由とともに

朝比奈なつめ/帰宅部部長

第1話 カズヤラプソディー

異世界に来て1か月、始まりの町ロジリアにて俺は冒険者として・・・


「んなのは夢だったんだよ!てか異世界で労働とかっ・・・聞いてないぞ!!」


俺はつるはしを石に打ち付けながら愚痴ると、親方が「働け!」とやらなんやら叫んでくる。


「俺はまだ15歳だぞ、労働なんて無理だろっ・・・」


現実世界では労働基準法に反しているのだがここは異世界なのでその決まりはない、俺は汗を流しながらも2週間以上つるはしを石に打ち付けている。そして思いっ切り石につるはしを打ち付けると俺のつるはしの棒の部分がバギィ!といいながら折れた。


「や、やばいっ!」


俺は上の部分がないつるはしを見て顔を青くする。


「貴様、俺たちの工具を壊したな・・・?」


その声に俺はゆっくり振り向くと額に血管を数個浮かび上がった親方が居たのであった・・・。


* * * *


結果、壊れたつるはしの弁償代は俺の給料から引かれることになり、俺はいつかこの街から旅立とうと決心した、そして約8時間に及ぶ仕事の帰りに俺は銭湯に寄り、風呂につかっていると脱衣所からなんか悲鳴が聞こえてきた。


「なんだなんだ?」


もう疲労で立ち上がるのも辛いので脱衣所まで行かなかったが誰かが言ったある名前で俺は顔を再び青くした。


「お、親方・・・!お、お疲れっス!」


・・・はぁ!?親方だとぉ!?


確かに先程から脱衣所の電気が見えなかったのは親方の闇のオーラだったんだなと俺は察し、いつの間にか俺は何故か姿勢を正座に直して親方を待っていた。


「おう、明日も頑張れよ」


その渋い声と共に浴場のドアが開き、男性のプライベートゾーンを隠しながら親方が入ってきた。


「お、親方!お疲れ様です!!」


上司に敬意を払え、と父親に耳に胼胝ができるほど聞かされていたため、俺は風呂から上がり、空いている席に親方を誘導する。


「お、おいカズヤどうしたんだ気持ち悪いぞ」


・・・お前が怖いからなっ!


でも何故だろう、親方に反抗しまくっていたのにいきなり親方に対しての対応が変わるというのはちょっと俺も気持ち悪いと感じた。


「まあまあいつものお礼としてお背中流させてください」


と、言うと親方の風呂セットからタオルなどを取り出し、桶でお湯を掬うとそこにタオルを浸して親方の背中を擦り始めた。


「き、今日の事でだろ・・・?こんなになんか・・・」


顔を赤く染めた親方が何か言い出すが、俺は何も言わずに擦りまくった・・・日々の恨みと共に・・・そしてその結果。


「親方!奇麗になりました!」


親方の頭の髪の毛を一本残らず奇麗にし、親方を「ハゲ」にした俺はタオルを親方の頭に乗せるとそそくさと脱衣所に向かう。


「おお、流石カズ・・・ぎゃぁぁぁぁ!」


親方の悲鳴、そしてその悲鳴に何故か笑顔になる俺。


「上司に敬意を払え?そんなん親方にするわけないだろう?」


異世界に来て2週間以上、親方の理不尽な要求に抗いながらも頑張ってきた、それだけでも表彰がないのは少し悲しい。


「よし、金も溜まったし、さっさとこの街からずらかるぞ」


俺は馬小屋にある自分の寝床に行き、俺の履きなれたジャージを着て出ていこうとした瞬間


「カズヤ・・・何してるの?」


と、後ろから聞こえた声に俺は振り向く。するとそこには白いキャミソールを着て馬小屋の窓から射す月光に反射して光る白髪を後ろに結んだエレミアが居た。


「エレミア・・・これは」


その姿に俺は足を止め、現在の状況を話そうとした、だがそれより先にエレミアが口を開く。


「カズヤ、まさかここから出ていくつもりなの・・・? ううん、カズヤなら違う理由だよね」


「いや、ごめんエレミア。もうこの町から出て冒険者として俺は生きていくんだ」


エレミアの言葉に首を左右に振る俺にエレミアは小さくため息を吐いた後


「・・・そっか」


と言って俺の目の前まで寄り、次の瞬間俺の唇に熱い感触が。


「なっ・・・!?」


今の状況に俺は最初は意味が分からなかったが、すぐにエレミアのキスだと分かった。


「カズヤ、たとえ私を忘れたとしても私は何があってもカズヤを忘れない、約束する」


俺より先に立ち上がり顔を赤くしたエレミアの声は震えていた、たしかにエレミアと離れるのは少し寂しいがこれからのためだと自分に言い聞かせると俺も立ち上がり、エレミアに背を向けて外に走っていった。


「くそ・・・こんな別れも聞いてないぞ」


俺は目から出る涙を拭きながら夜の町中を走る俺はエレミアとの出会いを思い出す。 異世界転移後に街中で彷徨っていた俺をエレミアが見つけてくれて夕飯と寝床を提供してくれた、結果的にエレミアが居なければ俺は死んでいたというわけだ、だからいつか立派な冒険者になってここに帰ってくることがエレミアに対しての恩返しだろうと俺は思っていた。


「じゃあ馬車を手配しなきゃな」


と、俺はポケットに入っているお金を見ているとおじさんが路地裏から出てきて俺を見ると「その金の半分で好きなところに行かせてやる」と言ってきた。


こうして俺は第二の都市エルグランドに向かうことに。

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