023 今後の相談
お屋敷に戻ると、皆がホッと安堵の様子。
事情を話すと、かみさまは怒られなかった。ちょっぴり、仕方ないなーって視線はあったけれど。
そんなことぐらいでエラスエルや弟子たちの、かみさまへの愛は揺るがないのだ。
でもシルフィエルはとっても怒られてました。
うんうん、分かるよ。だって、相手を泳がすつもりだったものね。いくら、かみさまが襲われそうになったからって、やり過ぎだよね!
男達の怪我はエラスエルが魔法でチョチョイのチョイと治してあげていた。
その代わり、可愛いかみさまを誘拐しようとしたという罪で、騎士に連れて行ってもらうことに。
久しぶりに見るダメダメ騎士五人組がやって来て、連行していった。
でも去り際に、
「可愛い子供を攫おうとした、って理由で捕まえるんじゃないからな」
「ゼロが
「王都で見目良い子が攫われている事件があるしな」
「騎士のフリした奴が犯人じゃないかって言ってたから、それでだぞ」
「自分で、自分のことを可愛いなんて言ったら、ダメだからな?」
なんてことを言う。なんだか、まともそうなことを言ってるけど、君ら偽者騎士に間違えられていたからでしょ?
あとね、かみさまは大人なので怒ったりしないけど、むにゅ達が抗議活動の準備運動始めたので気をつけるがよいのだ。
去っていく騎士達に、むにゅ達はしばらく付いていったようである。
髪の毛を一本ずつ丁寧に毟るという、地味に嫌な攻撃をして……。
とりあえず捕まえた男達のことは、この国に任せすることとして、当面の問題がある。
逃げた男もいるし、何よりもこの国が他国のお家事情に手を貸してくれるかって話だ。
真面目な顔でエラスエルがクリスに話している。
シルフィエルは自ら反省するらしくって、壁際で空気椅子をやっていた。
かみさまが冗談で教えたら、「修行ですね!」と張り切ってしまった。
……楽しそうだから、いいかな。
むにゅ達も並んでやっている。
……待って、むにゅ達。君達、空気椅子はできない構造じゃないかな。
やれてるつもりになっているので、かみさまはソッと視線を外して見てないフリをした。
「このままでは、あなたの国の大使が権限を使って乗り込んでくることも考えられる」
「わたしを差し出すか」
「そのようなことは、致しません」
「だが、相手は大国の大使だ。断りきれぬだろう?」
大国とか言っちゃったよ!
ユー、もうバラしちゃいなよ、レベルだよ!!
かみさまは、エラスエルとクリスの会話が気になってしようがないので、参加することにした。
「そこで、逃避行なの! ゼロがついていってあげるよ! 任せて!」
「……ゼロ様?」
「お、お前は、何を」
わなわな震えるクリスに、かみさまは「きまったな」とポーズを取った。キメ顔なら、任せてほしい。なんだか遠い昔のどこかの記憶にあるんだもの。
指でL字を作って、顎に当てるっていう……。
あれ、古い?
ううん、気の所為だよ。そうだヨ。キットソウ。
とにかく、かみさまは想像してみた。
美少女を助ける旅を。
男装だけど、クリスは女の子だからね! それをちりめん問屋風に旅して守るというわけ。すると、どうでしょう。
かみさま、素敵!
かみさま、大好き!
かみさま、抱ry(自主規制)!
ええと、つまりこうなのです。
きっと、
うん、アリです。
「ゼロはねえ、まず、スイランって国に行くんだー」
「ゼロ様、ゼロ様、少しお待ちください。いつ、ここを出られる話をされてましたか?」
エラスエルが結構、慌ててる。珍しいこともあるもんだと、かみさまは小首を傾げた。
「今、言ったよ」
壁際でシルフィエルがドタッと倒れていた。
空気椅子、随分と保ったものだけどタイミングがいい。やっぱり彼女は「持って」いる。ダメなやつも持ってるけど。
「いえ、ですが、そのような」
「そっそうですよ~。ぜーぜー。わっ、わたしを置いて出ていかないでくださいぃぃー」
息も絶え絶えなシルフィエルが恨めしそうに言うので、それもそうかなと納得した。
「んじゃ、シルフィエルも連れてってあげるね」
「やったー!」
「あ、いや、それならば――」
ちょっぴり嫉妬心が見える顔でエラスエルが手を挙げかけたので、かみさまは皆まで言わさなかった。
かみさまは思いやりのある、神(一歩手前)なのです。
「エラスエルも一緒。ねー?」
「あ、ありがとう、ございます」
「うふ」
「ちょっと、待て! お前達、何を勝手に話を進めている!!」
せっかく良い話になってたのに、クリスが立ち上がって指差してきた。仮にも神であるかみさまに向かって!
でも、かみさまは心が広い。
許してしんぜよう。
「君の話をしているのだよ!」
どや。
でもなんだか、いつぞやのような雰囲気になりかけたので、かみさまは慌てて続けた。
「大使が来たら、断れないんだよね? ね?」
「……ああ、そうだが」
「いくら
「……そうだ」
「それを指を咥えて見てなきゃならない、ここまで君を守ってきたエラスエル達の気持ち、考えてみた?」
「そっ、それは!」
かみさまの正論に、クリスはぐうの音も出ない様子だった。
可哀想だけど、言ってあげるべきなのだ。
「命が狙われているんだよね?」
「……そう、だ」
「だったら、ひとまず逃げるしかない。よね?」
「……ああ」
「そして、力を蓄え、形勢逆転!! 満塁本塁打!!」
『『『『『『『ひゅー どんどん ぱふぱふ!!』』』』』』』
「ありがとう、ありがとう!」
さすが、持つべきものは眷属である。
いつの間にか空気椅子を止めて戻ってきていた。
むにゅ達はかみさまの心が読めるのか、ちゃんとバットを振って遠くを見る、というところまで全部やってくれた。
もちろん、バットはないし、そもそも球もない。
すべて、パントマイムです。ありがとうございます。
で、意味の分からなかったらしい三人の視線に耐えきれなかったかみさまは、知らんぷりして話を続けた。
「というわけで、逃避行なの。分かった?」
決して、王都で暮らすのに飽きたから、ではない。
渡りに船って思ったとかでもない。
ないったら、ないのだ。
『『『『『『『どんどん ぱふぱふー』』』』』』』
むにゅ達は空気を読まずにパントマイムをまだ続けていたので、シュールな絵面となっていた。かみさまも参加したいなーって思ったのは、ここだけの秘密なのである。
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