かみさまとむにゅむにゅ
小鳥屋エム
001 かみさま、誕生
突然、何もない空間にポンッと音を立てて煙のような光が生まれた。
何かを形作ろうとするもやもやとした光の動き。
そこへ淡い光のようなものがふわふわっと近付いて、弾かれるはずのそれがくっついてしまった。
驚いたのは見ていた神達だ。
のんべんだらりと会議なるものをやっていたら、いつものように勝手に新たな神が生まれてきた。
こんなところで小さく生まれる神だから、きっとどこかの偉大な神が眷属にでもするのだろう。だから誰もが気にしていなかった。
ただ、神であるがゆえにその存在を見ずとも、把握していたに過ぎない。
普通なら、小さな小さな神の誕生で、会議が中断されることなどなかった。
けれど、別の存在が紛れ込み、新たな神にくっついてしまった。
え?
みんなが動きを止めて、その存在がどうなるのか見つめた。
くっついたふたつは、やがてぐるぐると混ざり合い、光り、落ち着いた。
神様達が見守る中、新しい神はよたよたと立ち上がる。
見た目は人型。
4、5歳ほどの子供の姿で、白い肌に白っぽい銀色の髪。赤に近い茶色の瞳を持つ、凡庸な顔をしている。
よくよく観察すれば将来はさぞや美人になるだろうと思わせる美貌なのだが、どこか間が抜けて見えた。丸みを帯びた子供特有の顔や体付きだからだろうか。
いや、眠そうな目つきにじゃっかん垂れ目の様子がそうさせるのだ。
それからオーラ。
いくら生まれて間もない神とはいえ、神聖な気配がどうにも見えない。
まるで、ただの人間の子である。
神様達は互いの表情を覗い、これどうする? と目で語り合う。
念話で語り合わないのは、曲がりなりにも新たな神に伝わると感じたからだ。
ある神は、
「美しくないので却下」
と伝える。
ある神は、
「わたしの世界観にあいませんね」
と拒否反応。
別の神は、
「こちらは悪神との対応で手一杯です」
だから面倒見きれませんというお断りの視線。
今回の会議の議長をしていた神様は、ううむ、と声を上げた。
新人の神様はどこかで引き取って育ててあげないといけない。
もちろん、稀に生まれた時から素晴らしい出来で、ひとつの世界を治められるほどの神もいる。
自らもそうであった。
が、それは非常に珍しい。
議長だとて、今では多くの神々を従えていた。
いつかは、この神の世界を束ねる創造神様の元で働きたいと考えているから、積極的に受け入れてきた。
しかし、そろそろ飽和状態なのだ。
ううむ、と皆で視線を飛ばし合っていると、1柱の神が手を上げた。
「どうしたね?」
「うちで引き取りましょうか」
なんでもないように、笑顔で語る。
が、それを聞いていた隣り合う神々が、驚いて立ち上がった。
「君ねえ、また神を拾うのやめてくれないかな!」
「そうだよ。君のところ、神が多すぎるんだ」
「いえ、それはですね――」
「眷属だからって言い訳、もう聞かないからね? 結局神に昇格したじゃないか」
「そうだそうだ。おかげで、そっちにわたし達の信仰が広がらないったらない」
「拒否してないんですけどねえ」
「むしろウエルカムでやってくれてるけど、ちょっと君のところ、いい加減すぎるんだよ」
「まあまあ、同じ地球の神同士で争うのはやめましょうよ」
誰が誰とは言えないが、手を上げたのはまた地球のある地域から代表してやってきた神の1柱である。
あそこは神が多くて、揉めないのが不思議なほどだ。
神の間でも度々話題に出る世界なので、議長もよく知っていた。創造神でさえ、あそこ面白いよねえ、と笑っていたらしい。
「ですが、くっついた魂は、どうやらわたしどもの世界の、人間のものらしいのです」
通常、生物の魂がここまで浮遊してくることはない。
なくもないが、自然へと還っていくのだ。
くだんの魂は、本来行くべき輪廻の渦に乗れず、ここまで飛ばされて浮遊していたのだろう。
徳を積んだわけでもないただの生物の魂が、神とくっつくというのは珍しい。
「こちらの世界で引き取るべきかと思ったのですが、みなさん、どうでしょうか」
引き取り手がないからしようがない、といった顔の神に、周囲も渋々頷こうとしていた。
が、別のところから声が上がった。
「あのー」
おどおどとした声に、振り向くと、まだできたての世界の神が手を上げていた。
「わたしのところではまだ神が少ないですし、世界も安定してません。どうでしょう、共に学び育つということでやっていくというのは」
議長を含めた、神々の中でも実力のある古い神々は、ふむと考えた。
新しい神の武者修行場所としては大変かもしれないが、確かに良い案のように思える。
先程の、神としての力を発揮できるかどうかも分からない狭い世界へ行くよりは、良いのではないだろうか。なにしろ、他の世界の神々も不思議がるほど、その世界は神がいっぱいだ。仕事なんて、見付けられないに違いない。
「そうだの。我はそれがいいのではないかと思うが、皆の者はどうか」
「わたくしも賛成です」
「良いんじゃないか。俺だって原初の地で頑張ったのだ。できぬことはないだろう」
「あなた様は器が違うではありませんか」
「いや、この神は案外上手くいくよ。見ろ、こうして話しているのに、堂々としている」
堂々としているのではなく、ぼんやりと観察している、が正しいようにほとんどの神は思ったが、黙っていた。
原初の地で頑張った男神は、じゃっかん、知力が足りないのである。
ともかくも、議長は決をとった。
世話役であり、上役ともなる先輩神が、新たな神に近付いた。
「あなたはこれから、本物の神となるべく頑張っていくのですよ。今はまだ見習いですが、いつかあなただけを信仰してくれるような、神としての力を得ることが出来ると信じていますからね」
慈愛に満ちた、母神として君臨する先輩神に、新たな神は首を傾げつつ頷いていた。
◇◇◇
あなたはまだ見習いなので神とは名乗れません、そう言われてようやく冗談じゃなくて本当の話なのだなあと思った。
とりあえず気になることを質問してみた。
「……わたしは、神モドキですか?」
美しい女神様は絶句して、それから困った子をどうすればいいのかと、憂いのある表情で見下ろしてきた。
「見習い神です。そうね、新神、ううん、お使え、眷属、どれも違うわね」
悩ませているようなので、提案してみた。
「かみさま、でもいい?」
「は?」
「えと、かみさま、みたいな感じ」
言いたいことが伝えられずにもどかしいが、そのもどかしさがつたない言葉となって、女神様に理解してもらえた。
女神様は目を丸くして、それから困ったように笑った。
「かみちゃま、はダメかしら?」
「おこちゃまっぽくて、恥ずかしい」
「ふふふ。分かりました。では、かみさま、ね。そう呼びましょう。見習いが取れて、本物の神として認められたら、あなたはわたし達と同じ神の1柱となります。また神への道を辿るのだから、しっかりと生きるのですよ」
生きてるんだ、と内心でツッコミをいれたかみさまだったが、口には出さない。
でも女神様は分かったらしい。
メッ、と可愛らしく睨まれてしまった。
「まずは、わたし達の世界を存分に知りなさい。見識を広げ、あなたの力の源となるしっかりしたものを、作るのです。良いですね?」
「はい」
「その前に、あなたにはこの世界の一般的な知識を与えておきましょう」
手のひらで頭に触れて、今まで何も知らなかった新たな世界のことを教えられた。
一度に迫りくる知識を受け入れるのにめまいがしたものの、なんとか耐えきれたのは、かみさまが、曲がりなりにも神として生まれたからだ。
「さあ、分かったでしょう? では、今から転移をします。あなたは人型だから、この世界で知能のある生物の多数者と接触し易いでしょう。同じ人型として親しみが持たれやすいのは、良いことよ。頑張りなさい」
「はい。ありがとうございました」
お礼を言い終わったと同時に、かみさまの景色は変わったのだった。
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