超新星爆発

 いろんな男と寝た。女の子とも試してみた。だけど心は深くは満たされない。まるで焦らされるようにわたしの中心にはだれも触れてくれない。だから貪るしかなかった。いろんな男と寝た。女の子とも試した。

 どうしたら、満たされるだろう。朝、目を覚まし、孤独な自分を見つける。毎日交換しなければならないサテンのシーツから抜け出て、シャワールームに向かう。シャワールームの中に、姿見を置いてある。わたしは生まれたままの姿になった彼女――鏡の中の自分を丁寧に磨き上げる。

 わたしがだれの心も理解できないように、だれもわたしの心を理解できない。いつか頭蓋骨を丸く切り取られて、脳髄を切り分け並べられて、すべての人の心が白日のもとにさらされるだろう、と彼は言った。しかし、それまでは、テレパスでさえ、人の心を完全に知ることはできない、とも。

 わたしを理解し、満たしてくれるのは、わたし以外にはいない。そういうことだ。湯気でくもった鏡にシャワーをあてる。ギリシャ神話のナルキッソスのことを思い出し、それと自分を重ねてしまう。鏡の上を流れる水は、わたしの姿を屈折させている。

 割れ目をなぞり、突起を引っ掻いてみる。自分の感じ方は、自分でよく知っている。こうして、ああして、男にいろいろ命令したこともあった。男たちのだれもが要領をえなかったから、わたしは散々なじった。それに比べて、わたしはわたしを完璧になぞり、引っ掻くことができるのに、感じることができない。

 この奇妙さについて、彼はこう言った。脳みそがふたつあればいい。

 そのとおりだ、とわたしは思う。予知がわたしと快楽とを遠ざけている。

 彼は、わたしの美しさを愛し、憐れんだ神なのだろう。色欲を禁じている現代の神ではありえない。きっと密かに蘇った古い神々のひとりなのだろう。

 金属が擦れ軋む音、シャワーをとめると、鏡はまた湯気でくもり、わたしを隠した。

 濡れたまま廊下を歩き、ベッドルームに戻る。

 サテンのシーツはなぜか新しいものに取り替えられていた。

 ベッドの上で女の子が眠っている。見たことのある女の子だと素朴に思う。

 彼女が寝返りを打って、かすかに喉が鳴らす音色を聞いて、ようやく気づく。彼女はわたしだった。七年前のわたしだった。まだ処女で、耐え難い欲望の乾きを知らなかった頃のわたしだった。

 ある種の嫉妬とともに、わたしはわたしに欲情する。覆いかぶさっても処女のわたしは目を覚まさなかった。割れ目をなぞり、突起を引っ掻いてみる。打てば響くかねだった。彼女は熱い吐息をもらし、それでいて目を覚まさない。

 わたしは七年間の経験を集結させ、処女を犯した。

 行為は七日間にも及んだ。七年前のわたしはその間、一度も目を覚ますことはなく、眠ったまま純潔を失くした。今日のわたしはその間、一睡もせず、犯し続けた。

 それで、わたしの心は深く満たされるはずだった。しかし七日目、ついに耐えきれず意識を手放しながら、わたしは知った。心とは喰らわせれば喰らわせるほどに膨らんでいくブラックホールなのだ、と。

 七年前、目を覚まし、昨日まで処女だったわたしが娼婦と化した理由だけが、はっきりとした。彼女の小さな心が破裂する音が、叫び声となって、昏睡したはずのわたしの脳髄をも激しく震わせる。思い出す、あれは、まるで、超新星爆発のようだった。

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