45話「賢者の石6」

「ボウヤ、ライティング使える?」


 セフィアさんに促され俺は改めて『ライティング』を発動させると、暗闇を照らすに十分な光量を持つ球体が出現した。


「上に居た時と変わらないわね」


 どうやら、この前来た時に生じていた魔力減衰はなくなったみたいで、賢者の石が奪われた可能性が極めて高いと考えられる。


「ふむ、報告で伺っていた事と状況が変わってますね、先に進みましょう」

 

 以前と比べ何か変化が無いかと意識しながら賢者の石が安置されていた部屋までやって来たが、魔力減衰効果が無くなった以外特に変わる事は無かった。

 

「さて、賢者の石が安置されていた部屋がここですが」

「あら? 部屋の入り口が空けられてるわね? 私位のレンジャーなら誰でも空けれるけどね」


 そういうセフィアさんであるが、ルッカさんの言葉を受けて力業で何とかしたと言う話をルッセルさんの前でするのは多分止めた方が良いと思う。

 この部屋の入り口が開けっ放しと言うのは少々気になるところだけど。

 肝心の部屋の中はと言うと、報告通り賢者の石は無いし以前訪れた時に展開されていた魔法陣も消えていた。

 ただ、4人のウィザードがこの部屋の中で地面に突っ伏していると言う異常な状況が確認出来た。


「ふむ、これは何があったのでしょうか?」

「って、ちょっと、マスター冷静過ぎやしない?」


 この状況に対するならセフィアさんの反応が正しいと思うけど、ルッセルさんはギルドマスターだけあってこの状況でも平静が崩れる素振りすら見せない。


「す、すみません、ルッセルさん……」


 俺達の姿を確認した一人のウィザードが声を振り絞りルッセルさんの名前を呼んだ。

 緑色のとんがり帽子も特徴なエリクさんだ。


「カイルさん、ヒーリングを」


 俺はルッセルさんに言われ、エリクさんに『ヒーリング』を掛けた。


「あ、有難う御座います……出来れば彼女達にもお願いします」


 俺が掛けたヒーリングの効果が現れたのか、エリクさんはゆっくりと立ち上がり地面に突っ伏したままの3人のウィザードを指差した。

 その3人の中には以前ジャイアントゾンビの一件で関わったセリカさんの姿もあった。


「分かりました」


 俺が地面に突っ伏している3人のウィザードに対しても『ヒーリング』を掛け、しばらくするとその効果が現れたのか彼女達もゆっくりと立ち上がった。

 

「それで、何があったのでしょうか?」


 4人が体力を取り戻した事を確認したルッセルさんがエリクさんに尋ねた。

 

「ある役所の人よりここに来いと言われました。この部屋に入って暫くするとまるで僕が来るのを待っていたかの様にダストと彼女達がやって来ました。ダストは彼女達に命令をすると半ば無理矢理魔法陣の中に彼女達を押し込めました。すると、魔法陣が彼女達の魔力をみるみると吸出し、魔力を奪いつくされた彼女達はその場に崩れます。それでも魔法陣が消えなかった為、今度は僕が無理矢理その中に押し込まれ、魔力を奪い取られました。そして最後はダスト本人の魔力を魔法陣に与えた所で魔法陣が消え去りました。結界を壊したダストはそのまま賢者の石を奪って逃げました」

「ふむ、上層部への報告が必要ですが、エリクさんに指示をした役所の人間が怪しいですね、ダスト殿の事ですから彼女達はそう言う事でしょう」


 ルッセルさんの言う、そう言う事がどういう事なのか分からないけども、多分ウィザードの人達に配慮してるんじゃないかって思う。


「ひとまずこれを」


 ルッセルさんがエリクさんに魔力回復アイテムを手渡した。

 受け取ったエリクさんはお礼を言い、それを飲み干すと安堵の溜息を付いた。

「どうですか?」

「その、魔力が戻りきらないって言いますか……」

「ふむ、例の魔方陣の力で魔力の最大値が削られてしまった感じでしょうか?」

「恐らく……」

「彼女達は?」


 ルッセルさんが、3人のウィザードを指差しながら尋ねた。

 

「ルッカさんに近い魔力か下手したらそれ以下かも知れません」

「ふむ、新人冒険者以下の魔力ですか……」


 ルッセルさんが腕を組みながら少々思案した。


「ふ、ふざけるな犬っころ! このあたしが新人冒険者以下になるわけねぇだろ!」


 自分が新人以下という言葉を聞いたセリカさんが大声で叫んだ。

 しかし、既に大きく体力も消耗しているせいでその直後肩で大きく息をする事になってしまう。

 

「ちょっと!」


 その様子を見て、俺は再度『ヒーリング』をセリカさんに掛けた。


「ちっ! またアンタかよ! あたしに情けを掛けて何がしたいんだ!」

「威勢は良いみたいですね、この分なら問題ないでしょう」

「お前は! ヴァイスリッターのギルドマスターか!」

「私がヴァイス・リッターのマスタールッセルですが、貴女方はシュバルツ・サーヴァラーのウィザードでしょうか?」

「ちっ! だから何だって言うんだよ!」

「ふむ、ダスト殿の性格を考えるところ、あなた達は用済みでしょう」


 ルッセルさんは彼女達に配慮してる訳じゃないみたいだ。

 でも、ルッセルさんの言う通りなら、ダストは幾らアーティファクトの入手とは言え同じギルドの人間を使い捨てたと言う事になる。

 酷い奴とは思っていたが、こういう現実を見せられると胸糞悪くなってくる。

 

「丁度ウィザードチームを編成したいと思っていましてね、宜しければどうでしょうか?」


 新人レベルの魔力しか保有出来ない彼女達に対し、ルッセルさんはギルドメンバーの勧誘を行う。

 俺が知る範囲だけでも、ルッカさんにエリクさんが居るしアリアさんだって攻撃魔法を覚えてるから十分居ると思うけど?

 あ、待てよ? 魔力そのものは失っても覚えた魔術までは失ってないのかな? それならこの人達を加入させる意味はありそうだ。


「グッ、何であたしがお前何かに!」

「そうですか、では残り御二方は如何いたしましょう」

「……お願いします」


 セリカさん以外のウィザードは、ここからシュバルツ・サーヴァーラーへ戻ったとしてもルッセルさんが言った通り自分達が用済みと現実を突きつけられるだけと予想出来たのだろう、素直にルッセルさんの申し出を受け入れた。

 

「あの……」


 エリクさんがセリカさんを説得しようと声を掛けたみたいだが……。


「何よ! 犬っころの分際で!」

「すみません……」


 物凄い速度で遮断されてしまった。


「みゃーお……」


 セリカさんの肩に乗っかっていたみー太君が、ストン、と地面に降りるとトコトコとエリクさんの方に近付いた。


「ちょ! みー太君!」

「みゃーお」


 エリクさんに近付いたみー太は、しっぽをふりふりさせながら瞳をうるうるとさせセリカさんを見つめている。


「チッ、勘違いするなよ! みー太君がどうしてもつってるから従ってやるんだからな!」

「ご好意に感謝致します」


 ルッセルさんがセリカさん達にサッと一礼した。

 

「あら? 良かったわね、エリク君?」

「ななな、なんの事ですか!?」


 セフィアさんの茶化しに対してエリクさんが身振り手振りで惚けた振りをする。

 それじゃ何の事かバレバレに思うけども。


「チッ、犬っころの分際でそんなにみー太君が良いのかよ!」

「いえ、その、そ、そうです、はい」


 どうやらセリカさんはエリクさんがみー太君と一緒に居られる様になった事を嬉しく思っている、と思っているみたいだ。


「フフッ、これからが楽しそうね」


 セフィアさんはそういうが、ギルドハウス内でセリカさんの罵倒が響くと思うと少しだけ気が重くなる。

 ルッカさんは多分大丈夫だと思うけど、ルミリナさんとか大丈夫かなぁ? なんて心配になってしまう。

 

「それでは、一旦ヴァイス・リッターに戻りましょう、エリクさん、転移魔法を使う魔法力は有りますか?」

「はい」

「それではお願いします」

「分かりました」

 

 兎も角、エリクさんが無事なのは良かった。

 後はダストと言う奴が賢者の石をどうするかが気になるところだけど……。

 どう考えたってロクな事が起こらないってのは分かる気がする。

 俺達は、ルッセルさんの転移魔法の力によりヴァイス・リッターギルドハウス内へと帰還した。

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