36話「遺跡調査2」

 セフィアさんの掛け声を受け俺達は調査ポイントへ向かって歩き出した。

 暫く歩いた所で砂漠特有の昆虫型の魔物が姿を現した。

 が、魔物を見るや否や、セフィアさんが颯爽と魔物を狙撃し、エリクさんが魂の抜けた表情で魔法を完成させ攻撃、一瞬の内に魔物達を魔石へ変化させた。

 

「相変わらず凄いですね!」


 流石ベテラン冒険者の二人だ。

 俺が魔物を見つけて攻撃を始めようと思った頃には殲滅が終わっていたのだから。

 

「そうねぇ、この辺の魔物はただの雑魚狩りとも言えるけどね」


 俺の言葉を受けて余裕を見せる返事をするセフィアさんと、

 

「ル、ルッカさん? 見てました? 是非ともお友達に僕の活躍を広めてください……」


 魂の戻らないエリクさんが半笑いしているエリクさんだ。


「善処致します」


 それから暫くの間砂漠の道を歩き続けた。

 『クイック』のお陰で比較的快適に移動する事は出来たが、時折見かける空飛ぶ鳥達を眺めながら自分達も空を飛べたら快適だろうなと思っていた。

 それにしても、ルッカさんは相変わらずくっついたままで、エリクさんに至っては延々とネガティブワードを垂れ流しながら魂が戻ってないみたいだ。

 

「見えたわよ」


 セフィアさんが半ば呆れながら指差した先には巨大な石造りの神殿があった。

 それは小さなお城位の広さがあり、4階位の高さであり建物の形状は一般的な家と同じ四角形だった。

 

「ははは……こんなところに女の子が居る訳……す、すごい建物ですね!」


 絶望の果てに幻覚でも見てるのだろうかと言いたくなるようなエリクさんだったけど、目的の建物を見た瞬間子どもの様にはしゃぎだし、駆け足で近付いた。

 

「ま、兎に角中に入りましょうか」


 セフィアさんが呆れながらも先導し、俺達は神殿の中へ入る事にした。

 中に入ると、 光が入り込まない構造なのだろう。 中に入ると以前俺が入った洞窟と同じ様に漆黒の闇が広がっており、とてもじゃないけど周囲の情報を把握する事が出来ない。


「暗いですね」


 エリクさんがそっと呟くと『ライティング』を完成させると、手のひらサイズの光体を頭上に移動させた。

 流石はエリクさんだ、彼の作ったライティングは広範囲に光を届かせられ、視界を確保するには十分だ。


「凄いですね!」

「はっはっは、任せてくださいよ!」


 神殿探索に対してテンションが上がったのだろうか? 道中までの様子とは違い得意気な様子を見せたエリクさんは溢れる気持ちを抑えながら奥へ先導した。

 暫く探索を続けたところで俺は足で何かを蹴ってしまう。

 それが何だったんだろうと気になって視線を下ろしてみると、


「うわ!?」

 

 その先には何かの骨があり、思わず驚きの声を上げてしまった。

 ちょ……ほ、骨? え? でも魔物は力尽きると魔石になるじゃん? 骨で残ってるって事は……ゲッ!? これってもしかして冒険者の奴なのか!?

 そう思った俺は改めてその骨を見てしまい、それが人間のソレであると分かると同時に少しばかりの吐き気を覚えてしまった。

 

「この神殿に宝物があると踏んで無謀な装備で探索した冒険者と思います」


 エリクさんは、元冒険者が身に付けていたと思われる装備品を指差しながら推察をした。

 確かにそんなに強そうな装備品じゃない。


「ば、化けて出てこないですよね?」


 ははは、無いよね? そんな事? 幽霊系のアンデッドも居るけどこの中にそれらを召喚する人間はいないし大丈夫だよね? ね? ね?

 あれ? 何か少し暗くなって来たような?

 

「フフフ……カイル君……実はヴァイス・リッターの裏では夜な夜な……」


 エリクさんが頭上にある光体の出力を絞り顎の下へと移動させ、不気味でゆっくりした声でまるで怨霊かの様に呟いた。


「ぎゃーーーー、俺、悪い事してないから許してぇぇぇ!?!?」


 エリクさん!? そんな所に光体置いたら本当に怨霊に見えるじゃないですか!?

 

「カイル? 君は幽霊が苦手なの?」


 ルッカさんが、何か良いモノを見つけたと言わんばかりに、ニヤニヤしている。

 

「ま、まさか、セザール学園トップの俺が幽霊如き怖いワケ無いって!」


 うん、大丈夫、邪術以外で幽霊系のアンデッドは出ないから、大丈夫、大丈夫だ。

 おりょ? ルッカさんがエリクさんに耳打ちしてるぞ?

 あれ? 何か少し暗くなった様な……?


「ねぇ~カイル~?」


 だから何だよルッカさ……。


「わ!? なになに、何だよ!? ルッカさん!?」


 振り返ると、そこには先の光体を顎の下に移動させたルッカさんの姿があった。

 おまっ、ふざけんな!


「へっへっへ、良い事見付けちゃった~♪」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら物凄く楽しそうにしてるルッカさん。

 クソッ、これなら『ライトニング』ぶっ放される方がマシだ! 食らいたくないけど!

 

「その辺にしておいたら?」


 セフィアさんが呆れながら仲裁をした。


「す、すみません、カイルさんがあまりにもモテてるのが羨ましく思ってちょっと仕返ししちゃいました。 ま、まぁこういう事は稀に良くある事で、安全対策を怠った末路ですから気にしても仕方がありません」


 人間の白骨死体を目の前にしても特に臆する事無く説明するエリクさんだ。

 やっぱり冒険者を長い事やってるとこういう事は見慣れてしまう物なんだろうか?

 

「エリク君の言う通りね、この人はレンジャーを連れずに宝箱の開錠したら罠に掛かって死んだみたい、そんな自業自得で死んだ人間の事を気にしても意味は無いわね」

 

 セフィアさんの言った通り、白骨死体の周囲を眺めて見ると近くに開かれた宝箱が置かれていた。

 残念ながら他の冒険者が罠を解除して回収したのか、中身は空っぽだった。


「カイルさん、持っている武器は鉄製でしたよね? この冒険者の鞘に収められている剣を確認してみます、おそらくもっと良いものでしょう」


 エリクさんが真面目な口調で言っているけど、ちょっと待って! 彼の言い分だとこの死体が身に着けていた剣を俺が身に着けろって事になりませんか!?

 常識的に考えたら死体が身に付けていたモノなんか怖くて使えないって! それこそ怨霊が取り付いてて呪われてるかもしれないじゃないですか!


「Dランク冒険者みたいね」


 セフィアさんは、白骨死体が持っていた冒険者カードをそれとなく確認した。


「ある程度魔物も討伐し、実力も付き始めて少し調子に乗り始めた頃でしょうか? おそらく無鉄砲な方だったんですね、この人だってこんな結果になるって分かってここに来た訳ではないでしょうが……」


 セフィアさん!? 何やってるんですか!?

 

「フフ、こういう事を教えるのもベテランの仕事よ」


 セフィアさんは、まるで俺が考えている事を分かっているかの様に言った。

 うぅ……確かにそうだよな……。

 Dランク冒険者かぁ、俺より一つ上のランクなんだよなぁ、だとしたら俺よりももう少し剣術か魔術か技術を会得した位。

 うーん、もう少し俺が強くなったとしてこんな砂漠にある薄気味悪い神殿の探索なんてやりたいとも思わないなぁ。

 いや、でも、ルッカさんだったら或いはこんな無謀な事もやりそうだよなぁ。


「回復薬も解毒薬も持っている形跡がないわ、これじゃ死にに来たものじゃない? 誰か忠告してくれる人は居なかったのかしら?」

「分かりません、この手の人達は例え冒険者ギルドの人達、ギルドメンバーの人達が忠告をして止め様としても聞き入れないと思います。 逆に周りに止められるような無謀な冒険を成功させたことを悦とする人達も居ますから」


 エリクさんは、元冒険者が持っていた剣を鞘から引き抜きざっくりと鑑定をしている。


「そうなのよね、私達も過去の経験から命を落とすかもしれないと忠告は出来るけど、私は親で無ければそんな権限も無いから以上干渉する筋合いは無いのよ、忠告無視して突撃して生還されたらいよいよもって私達の話は聞かなくなるのよ、けど、遅かれ早かれそういう冒険者は命を落とす事になるわ」


 セフィアさんがルッカさんを見ながら言っている辺り、これは彼女に対しての忠告なんだろう。

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