4章.賢者の石

35話「遺跡調査1」

「カイルさん、起きましたか? 床で寝たら駄目ですよ? 眠くなったら休息室で休んで下さいね」

「は、はい……」


 少なくともアレを美味いと言ったエリクさんの前で、今回の件がルミリナさんのせいだと言うのはどうも気が引ける。

 仕方ないがここは黙っておくしかないみたいだ。


「えっと、ルッカさんから聞いたと思いますが……」


 ここから明日の調査についてエリクさんから説明を受けた。

 なにやらこの遺跡から強力な魔力を感知したらしく、その要因を調べてくれとの事だ。

 俺達の仕事は、その要因が魔物であるか道具であるかを調べるだけでよく、討伐や回収と言う作業は別との事だった。

 で、明朝ここへ集合し、目的の遺跡へ向かい調査をするとの事だ。

 うーん、遺跡から発せられる強大な魔力、ねぇ? 1000年前の何かとかが原因だったらどうしよう? って気にはなるかなぁ。

 まぁ、どうせ大した事無いんだろうけど。


 翌朝。

 

 何か知らないけどやっぱり今日もルッカさんが俺の家に押しかけて来て……。

 朝ごはんを確保して、そのまま一緒にギルドハウスにやって来て……。

 ギルドハウス入り口のドアを開けるとそこには、遠足当日を向かえてウッキウキな子どもでも見てるかの様なエリクさんと、それを見て呆れるセフィアさんが居て。

 

「おはようございますカイルさん……はぁ、朝から態々非モテの僕に見せ付けるなんてひどいじゃないですか……」


 俺とルッカさんを見るや否や深い溜息と共に、急にバスの運転手が『やっぱり時代はバイクだ!』と書かれた辞表を提出したせいでバスの運転手が居なくなって遠足が中止になった事を聞かされ、地の底まで落胆する子どもの様な素振りを見せられた。

 さて、そんなものを見せられてしまったら一体俺が何をエリクさんに見せ付けたんだろう?

 と心の中で自問自答せざるを得ない。

 

「ルッカさん、分かる?」

「それ、今ここで私に聞く?」

「じゃ、セフィアさん、分かる?」

「ウフフ、今日はエリク君をいじりたい気分じゃないのよ」


 うん? 今聞いたらまずい? よく分からん。

 で、聞いたらエリクさんをいじる事になる?

 ますます分からん。

 

「学校で君がトップだった理由がホント分からない」

「あら? トップだからこそじゃないかしら?」

「……そうかもしれませんね」


 うーん、この二人が何を言いたいのか俺にはさっぱり分からないが……。

 なんとなくここは黙っていた方が良さそうな気がする。


「うぅ……僕も学生の頃可愛い女の子ともっと触れ合いたかった」

「別に俺も学生時代女性と接して無いですけど……」


 あ! やばい、エリクさんにつられてついついうっかりしゃべってしまった。


「そうねッ! カイル、君は勉強熱心だったからね!」

「あら? エリク君も勉強熱心だったじゃない?」


 って思ったけど別に問題なかった、ふう、よかった。


「うぅ、そうですけど……」

「ボウヤと同じなんだから気にしたって仕方無いわよ、ギルドマスターから小言貰う前にさっさと行きましょ」


 セフィアさんの合図の下、俺達はヴェスト・タウン近郊にある遺跡の調査へ出発した。

 

 セザールタウンから南に向かって伸びる街道を歩き続けると、景色が緑溢れる平原から黄色く包まれる砂地へと変貌する。

 そこから更に南へ進むと、砂漠のオアシスと言わんばかりにヴェストタウンの入り口が見えてくる。

 今回の調査対象である遺跡は、そこから広がる砂漠地帯を更に進んだ場所にある。


「さすがね、エリク君」

「いえいえ、僕位のウィザードになればこれ位朝飯前ですよ」


 セフィアさんに褒められて得意気になるエリクさんだ。

 俺達は移動だけでも本来なら1ヶ月近く掛かるだろう道のりを転移魔法の力を使って一瞬で来た以上、やっぱりハイウィザードってすごいんだなぁと改めて思う。


「それにしても暑いわねぇ」


 セフィアさんが服をパタパタとさせながらぶっきらぼうに言い放った。

 確かにこの砂漠エリア一帯は日差しを遮る物が全く無く、太陽の光が容赦無く俺達を襲い掛かる。


「そうですか?」

「そうですよ、エリク君?」

「ハハハ、アイス・バリアを展開してるからですかね?」


 そうだね、俺もここに着いた瞬間に『アイス・バリア』の魔法を掛けたよ。

 だって、鎧着てる俺がこんなカンカン照りな日差しを受けたら脱水症状で死んじゃうからね。


「こんなんだから女の子からモテないのよ? ねぇ? お嬢ちゃん?」

「私もそう思います」


 ルッカさんは、俺にべったりとくっつきながらしれーっと答えた。

 

「お嬢ちゃん?こんな暑い中良く、くっつけるわねぇ?」

「カイルですから、まさか、カイルが女の子に対してわざわざ気を遣ってくれる訳ないですよ、どうせ自分にだけアイスバリア掛けてるに決まってますから、それでも魔法の範囲内に入れれば涼しいですよ」

 

 ルッカさんは、セフィアさんも試してみたら? と言いたげに説明をした。


「フフッ、それもそうね、たまにはこう言うのも悪くないわね」


 セフィアさんがフフッと笑みを見せエリクさんの腕を組もうとした所で、


「アイスバリア! これで皆さん涼しくなれますよ! カイルさんにも掛けてあげましたから! 僕の方が効果が高いと思いますよ!」


 エリクさんがみんなに対して『アイス・バリア』を掛けてくれた。

 本来ならエリクさんの厚意に対して皆が感謝をすると思うんだけど……。

 

「あら? 若い女性じゃなくてごめんなさいね」

「セフィアさん? 僕はセフィアさんも魅力的で素敵な女性と思ってますって!?」


 いやーまぁ、魔法の発動タイミングが悪かったしこれはセフィアさんがからかってるだけだと思うけど、その事に気が付いてないのかエリクさんは妙に慌てた素振りを見せている。

 で、それはそうと、未だに俺にべったりとくっついているルッカさんが気になるんだけど。

 今さっきまで自分達にしか使ってなかったのなら分かるけど、エリクさんがみんなに使ってくれたんだからその必要はなくなったんじゃ?

 

「ねぇ、ルッカさん?」

「なぁに~?」


 ルッカさんは嬉しそうな顔をしながら振り向いた。

 いや、ここまでご機嫌そうなルッカさんに下手な事を言って機嫌を損ねて『ライトニング』なんか食らいたくないな。


「いや、何でもない」

「ふ~ん? そう?」

「クスクス、相変わらずボウヤは鈍感ねぇ?」


 近くに居たセフィアさんが小声で呟き、


「うぅ……カイルさんばっかり……」


 エリクさんはがっくりと肩を落として口から魂が排出されているかの様にうつむき黄色い砂地に落書きを始めた。


「エリク君、アリアちゃんよ!」


 セフィアさんが虚空を指差した。

 

「え? え? どこ? 何処ですか!!」


 その僅か0.3秒後、エリクさんはセフィアさんが指差した先をキョロキョロ眺めアリアさんを探し出した。

 いや、待って? どう考えてもこんな砂漠の中アリアさんが来る訳無いじゃない?


「嘘よ、嘘、さっ、気を取り直して先に行きましょう」

「はぁ……酷いですよセフィアさん、別に良いですけど……」


 エリクさんは深いため息をつくと、ズボンに付いた砂を払いながら立ち上がった。

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