第19話 オービタル・クラウド作戦
ここまで頼りない様相を見せていた課長が力強い口調で指示する。
「宇宙ならスプリアス放射は気にしなくていい――――撃って、撃って、撃ちまくれ!」
遂に巨大ジャマーは信号を発している衛星の前に到達し女性オペレーターが報告する。
「四〇キロ、二〇、ゼロ!」
鬼塚課長は静かに合図を出した。
「――――――――撃て」
地球に近い複数の低軌道衛星が一八〇度反転して巨大ジャマーの背後から狙い撃ちにした。
パラボラアンテナから嵐のように光線が放たれ命中する。
ゲイン砲の波状攻撃を受けたジャマーは悲鳴のような鳴き声を上げた。
ゲイン砲の光線に押されジャマーが食い付いたビーコン送信衛星を横切ると今度は、その衛星から強力なゲイン砲が放たれ、巨大電波怪獣は宇宙の彼方へ飛ばされて行った――――…………。
「……軌道衛星、東京上空を通過。巨大ジャマー、尚も地球から離れて行きます。――――都市機能回復」
女性オペレーターからの報告を聞き室内の緊張は一気に解け、その場に居る職員が安堵の声を漏らした。
やがて取り巻きを含め室内から喜びを分かち合う声が聞こえて来た。
そんな中、安曇は不安げに課長へ聞いた。
「ジャマーはどうなりますか?」
「恐らく宇宙を漂う電波や紫外線の流れに乗って空間をさ迷い太陽の電磁波に飲まれ消滅するか太陽系を離れ長い旅の果てにブラックホールへ飲み込まれると思われます」
「地球に戻ってくる可能性は有りませんか?」
「どうでしょうなぁ……ただ」
鬼塚課長は神妙な顔付きになり言った。
「あの巨大ジャマーが最後の一個体とは思えない。電波のように人間は一度便利な物を覚えると止めることは出来ません。文明が発展する限り未知の脅威は永遠に続くのですから」
その言葉を聞いた安曇は肝に銘じるように頷く。
そして、もう一つの不安要素を口にした。
「しかし、今回の騒動をどう発表していいのか……」
「太陽が活発化した事による電磁フレアが地球に降り注いだ太陽風による自然災害とするのが望ましいでしょうな」
安曇は楽観的に提案する冴えない中年職員を
「…………随分と慣れていますね」
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走り疲れ立上る体力を失った縁司は本城と共に皇居前の広い十字路で人目をはばからず大の字に寝そべっていた。
二人は気力を使い果たしながらも大業をなした事に清々しい気持ちで一杯になった。
縁司は夜空に目を向け歓喜の声を上げる。
「本城さん見て! 流星だ!」
「あぁ……大気を飛び交う電波が見えているのよ」
彼女は力無く言った。
無数の輝く矢が無秩序に飛び交い光りのレールを次々敷いて行く。
夜空の星々と同じくらい輝く少年の瞳を見ながら本城は思わず表情を綻ばせ言った。
「綺麗でしょ? 電磁波、放射能、粒子、微生物、反物質……人にとって見えない物は脅威なの。でも、そこにある性質やサイクルを知ると私達が知らないもう一つの宇宙が見え人間を魅了する――――見えない物は脅威でもあり神秘でもあるのよ」
少年少女は時間が許す限り目に見える全ての光りをいつまでも見ていた。
飛び交う光りの矢は何重にも重なり合い“fin”と言う文字に見えなくもなかった。
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