ミミック美少女を助けろ

ちびまるフォイ

ミミック美少女、出てこいや!!

ミミック美少女が届いたけれど、どうしたものか。


「あの、顔を見せてくれないか?」


「…………」


玄関先に鎮座する大きな宝箱。

そのふたはぴくりとも動かない。


中にはミミック美少女が入っているはずなのだが

顔を拝むことはもちろん、声を聞くことすらできない。


「俺が気に入らないとか?」

「………」


「この家がいやだとか?」

「…………」


「実は誰も入ってないとか?」


「……入ってます」


宝箱からはぼそっと小さな声が聞こえた。

かぼそい女の子の声にますます顔が見たくなる。


そうだ。ミミック美少女とはいっても同じ人間。

お腹が減るに違いない。


俺は腕によりをかけて自慢の料理を作って宝箱の前に置いた。


「もう宝箱に入ってから何も食べてないだろ?

 毒とか変な薬とか入ってないから出てきて食べてくれよ」


作りたてのパスタから1本をちゅるりと食べて安全であることを見せた。


「…………」


「ダメか……」


効果なし。

ミミック美少女は出てきてくれない。


いったん、食事を下げて戻ってみると宝箱はからっぽだった。


「あれいない!? 宝箱から出てきたのか!?」


トイレの鍵が閉まっているのがわかったので行き先はすぐに特定できた。

それから1時間待ってもトイレから出てこない。


これじゃあ隠れている場所が宝箱の中から、

トイレの中へと場所を変えただけじゃないか。


「なぁ、もうトイレの用は済んだだろう? 顔を見せてくれないか」


「……だめ……はずかしいもん……」


内気をこじらせた人間は宝箱の中に入ってミミックとなる。

それだけにミミック美少女は警戒心が強いんだろう。


「まあいきなりは難しいよね。まして、俺は知らない人なわけだし」


「ちがうのっ」


「え?」


「ちがうの……私のお兄ちゃんが……言ってたから……」


「兄がいるんだね」


「私のお兄ちゃん……いつも私についてきて……心配性なの。

 でも、私もミミックとして自立しなくちゃって思って……」


異性の兄妹となれば、兄も過保護になるんだろう。

そんな自分を変えるためにここに来たんだな。


「お兄ちゃんが見てなくても……男の人と……普通に話せて……。

 できれば、宝箱の外の姿を見せて……自立したいの……」


「……そっか。まあ、俺は別の場所に行くからトイレから出てきてくれ。

 俺もそろそろトイレに入りたくなったから」


「うん……」


俺がトイレの前から移動したのを確認してから、

ミミック少女はおそるおそるトイレから出てきた。


そのまま宝箱に入ろうとするがフタが開かない。


「あれ……!? なんで……宝箱が開かない……入れない……!」


計画通り。俺は宝箱から出た。


「やっと顔が見れてよかったよ」


「わ、私の……宝箱に入ってたの……!?」


「こうでもしなくちゃ、君の顔を見られないかと思って」


ミミック少女は忘れてたのか、あわてて自分の顔を隠す。


「み、見ないで……! 私、かわいくないっ……からっ」


「そんなことない。それにこれで自立の一歩ができたじゃないか」


「あっ……」


ミミック少女は気付いて嬉しそうな顔になった。


「私……ミミックになって自分の顔を隠し続けてた……。

 でも、これで普通の人として……自立できた、かな……」


「きっとミミックのお兄さんも喜んでるよ」


「……うん。お兄ちゃんはどこでも隠れられるエリートミミックだから。

 きっと私の自立も見ていてくれた……と思う」


「それはそれで怖いな」


冷蔵庫開けたらミミックがいたらビビる。

なにはともあれ、自立の手助けができたことが俺も嬉しい。


「慣れるまではまた宝箱に戻るかもしれないけど、

 これから少しづつ外の世界にも慣れていけるといいね」


「うん……がんばる……」


ミミック少女と握手をした。

いろいろあったけど結果オーライ。


安心したとたんにお腹がぐるぐると音をたて始めた。


「うっ……ちょっとトイレ!」


トイレに入って蓋を開けた。




「ミミックの妹は渡さないぞ!!!!」


ミミックの兄は便器の中からものすごい眼光でにらんでいた。

なお、そのことに気が付くのは俺が用を足してからだった。

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