小雨の想い日
お題『限界を超えた小雨』
消化出来る訳がなかった。むーん。
雨が降っている。
激しい雨ではない。細い雨、所謂小雨という奴だ。
風もなく、空を覆う雨雲からそのまま落ちてくる雨はしかし、やむ気配はない。
その状態が既に一週間以上は続き、たまに見かけた雨にはしゃぐ子供の姿すら遠い過去のように思える。
仰ぎ見る曇天、雨に煙る街並み、まるでモノクロ写真のような雰囲気に包まれた世界。
その中をたった一つだけ、別の色が通り過ぎていく。
赤だ。
それはまるで薔薇のような、もしくは血の色のように鮮やかな赤色だった。
赤色の傘を差して歩くのは、近くの学校の制服を着た少女だ。
制服は黒く、彼女の短い髪や目もまた黒く、手に持つ鞄すら黒い。ただ、アンダーリムの眼鏡だけが赤かった。
それはまるで、暗い街並みに浮かぶ赤い傘のように、アクセントとなって少女の魅力になっていた。
まだ、登校するにしても早い時間帯だ。
雨が傘に当たる音と、自らの足音をBGMに彼女は学校に向かっていた。
静かだ、と彼女は思う。
街が目覚めて喧噪に包まれる前である。遠くの車が走る音も、この雨音が消してくれる。
今日、この音の連続が心を落ち着かせ、穏やかな気持ちにさせてくれる。
彼女は静かに、しかし胸の内いっぱいにこの安寧を受け入れていた。
同じ雨の音でも、明日聞けば嫌な気持ちになるかもしれない。それでも今、この時の幸福をかみしめる。
そこまで考えて、まるで脳がお花畑のみたいだと自嘲した。
ポエムとか詩のような事を考えるなんて、らしくもない。けど、たまには雨音を楽しんだって悪くはないだろう。
彼女はそう結論付けつつ、学校に向かっていった。
勿論、こんなに早く学校に向かうのには目的があるのだ。
誰もいない学校。
態々人目を避けてまでして、やらなければならない事があるのだ。
秘密、隠し事、絶対に他人には知られてはいけない事。
誰よりも早く、確実に成し遂げなければならない。
そんな決意を持って、彼女は家を出たのだ。
鞄を軽く揺らして、勉強道具以外の、本命の感触を確認する。
なんていったって、今日は乙女の決戦日なのだから。
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