超能力少年、受難の始まり
お題『めっちゃ超能力』
めっちゃの消化不足
彼は超能力者である。
分類でいえば念動力やサイコキネシス等と呼ばれる能力を持っていた。
但し出来る事と言えば、スイッチを入れる、掌大の物を動かせる、程度の事でしかないが。
大した使い道も見いだせず、今も気まぐれに授業中に周りから見えないように、ペンを動かして板書するくらいしかなかった。
十歳くらいの時にある日突然発現したその力は、彼を大いに喜ばしたが、七年程経った今でも殆ど成長もせず、彼を落胆させた。
ただ効果範囲は数十メートルにおよび、特訓の成果で板書できるくらいには精密に動かせるが。
ただこれを使って何かを成す気もないので、現状、あるとちょっと便利な能力でしかなかった。
そんな、人とは少し違うが、退屈で変わり映えのない日々を過ごしていたこの少年に、転機が訪れた。
ある日の放課後、教室から誰もいなくなるまで眠りこけていた少年は、起き抜けに辺りを見渡して現状を把握し、
「寝すぎた!」
と眠気覚ましに叫びつつ帰り支度を開始した。
夕焼けで茜色に染め上げられた、人気のない廊下を歩く少年。
誰もいないことをいい事に、自転車の鍵を超能力でくるくる回して遊びながらだ。
と、
「あなた。……それ、超能力?」
突如背後から声をかけられた。
咄嗟に超能力を解除して鍵を手に収めつつ振り向いて言い訳する。
「な、何の事かな? 見間違いじゃないか?」
そしてそこにいたのは、この学校のとは別の制服を着た少女だった。
竹刀袋を持っているせいか我の強そうな雰囲気を発しており、中々どうして面倒くさい事態になってきたと、少年は辟易する。
「とうとう見つけたわよ……!」
「はい?」
剣呑な雰囲気を濃くしつつ、目の前の少女は竹刀袋から中身を取り出す。
取り出し竹刀を斜め下に構え、こちらに斬りこんできそうな態勢をとると、その手に持つ竹刀に変化が現れた。
握った部分から光が放たれ、竹刀全体を包み込んだと思ったら別のものに変化した。
真剣だ。
テレビや社会見学で行った博物館くらいでしか見たことのないソレ。
夕日の光に照らされるその輝きは、十二分に本物の気配を漂わせた。
こちらを殺傷するに足るものであるという事だ。
「いやいやいやいや! 何物騒なもん取り出してんだ!? 人違いです俺は悪くありません!!」
竹刀が真剣に変化した事については、驚愕に値するが人の事も言えないので置いておくとして、襲われるような事は何もしてない筈なので、必死に捲し立てる。
「問答無用! 観念しなさい!」
「うおおおお、あっぶねえ!?」
こちらに突撃してきた少女による、刀の一撃を無様な格好でギリギリ回避し、そのまま逃走する。
これが彼の、受難の日々の始まりであった。
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