10/5『桃太郎(20枚)』
桃太郎
人 物
岡山桃太郎(17)
桃姫(18)
団子屋店主
侍
鬼
シロ
◯団子屋・軒先
こぢんまりとした村の団子屋で侍(28)が団子を食べている。
侍と店主(45)が談笑している。
店主「それじゃお侍さんはあの鬼ヶ島を見に来られたので?」
侍「藩主様はあの島の鬼と呼ばれる無法者たちを恐れておられる……。私は討伐のための偵察に来たのです」
侍が茶を飲む。
侍「美味い団子だ。どれ、もう一皿いただけ ますかな?」
店主「はいはい。ただいま!」
にこやかに揉み手する店主。
店主「(店の奥に向かって)新入り! 団子一皿追加でい!」
店主の呼びかけに返事はない。
店主「新入り! 新入りー! ああ、もう!」
不満そうに頭をかき、店の中に入っていく店主。
◯同・店の裏手
箒を持ったまま掃除せず、小鳥と遊んでいる岡山桃太郎(17)。
桃太郎「……あはは。きみの歌声はキレイだねぇ、小鳥さんたち」
ドタドタと足音を荒げて店主がやってくる。
店主「掃除まだ終わってねぇのか! 新入り!」
桃太郎「す、すみません……」
桃太郎が驚き、周りの小鳥が飛び去る。
店主「とに使えねぇ野郎だな! 力だけが自慢ののろまめ!」
桃太郎、しょんぼり。
店主「おら! そこのだんご粉の袋を店に運んでおけと言っておいただろう! 掃除はもういい! 袋を先に運べ」
桃太郎、だんご粉の袋を見る。
米俵くらいの大きさの巨大な袋。
桃太郎、袋を片手で軽々と持ち上げ、店内へ運ぶ。
店主、呆れて、
店主「ったく、グズのくせに力だけは馬鹿み てえにあるんだからなぁ……」
◯団子屋・軒先
店主、桃太郎の耳をひっぱって侍の前に連れてくる。
店主「お待たせいたしました。すみませんねぇ、新しく雇った男がのろまでどうしようもなく使えないやつなんです」
侍「……先ほどの言葉、聞こえましたよ。ここの店員は力持ちなのですかな?」
侍が興味ぶかげに桃太郎のほうを見る。
店主「いえいえそんな。お侍さんほどでは……」
侍「わたしも腕っ節には少し自信がありましてな。都では力いちばんと謳われたこともある。そこのキミ、ちょっとこちらにきてわたしと腕相撲をしてみないか?」
桃太郎「いえ、私はそんな……」
桃太郎、店の奥へ引っ込もうとする。
店主「待ちな。お侍さんがああ仰ってるんだ。ほら、いきな」
店主に背中を叩かれ、しぶしぶ侍の前にくる桃太郎。
侍「それではいくよ。……はいっ!」
桃太郎は侍と腕相撲を始める。
侍は顔を赤らめて桃太郎の手を押し倒そうとするが、ぴくりとも動かない。
侍「ふんぎぎぎぎぎ……!」
桃太郎「……?」
桃太郎が軽く腕に力を入れると、侍の手が大きく傾く。
侍「(さらに顔を赤らめ)むぐぐ……!」
それを見て顔色を変えた店主は、桃太郎の後頭部を思い切り叩く。
桃太郎「いたっ!」
気が抜けた拍子に、侍が桃太郎の手を床に押し倒す。
桃太郎「おかしら、なにするんですか?」
店主「いやーさすがお侍様、腕っ節がお強いことで」
にこにこしながら揉み手の店主。
侍「うむ……。そちらのほうもなかなかであった」
侍、立ち上がる。
侍「用事を思い出した。わたしはそろそろ退散させてもらう」
店主、手ぬぐいで顔の汗をしきりに拭く。
店主「へい。また御入り用のさいにはぜひうちへ……」
◯同・裏手(夕)
後頭部をさすりながら店の裏を掃除をしている桃太郎。
桃太郎「おかしら、いきなりぶつなんてひどいよなぁ、シロ?」
白い犬(シロ)が店のほうを向くと、店主がやってくる。
店主「おい新入り! 仕事だ! お侍さんが忘れ物だ」
店主に刀を渡される桃太郎。
店主「お侍さんが困っているだろうから今から追いかけて届けてやんな!」
桃太郎「今からですか? もうあれから随分時間が経って……」
店主「つべこべ言わずさっさと出かけてこい! 届けられずに帰ってきたら承知しねぇぞ!」
店主は怒鳴りつけて、店の中に戻っていく。
桃太郎「シロ、どうしよう……」
シロが刀の匂いをしきりに嗅いでいる。
シロ「ワン!」
桃太郎「シロ、どうしたんだい?」
シロは道を少し進んで、桃太郎のほうを振り返って尻尾を振る。
シロ「ワン!」
桃太郎「シロ……まさか、お侍さんの匂いを追えるのかい?」
シロ「(鼻息)ハッハッハッ」
桃太郎「ありがとう、シロ。案内たのむよ」
シロが走りだして、桃太郎がそれに続く。
◯雑木林(夕)
シロが土の匂いをかいで、下生えをかきわけて進む。
桃太郎は不安そうな表情でシロについていく。
桃太郎「……シロ? 本当にこっちなのかい? お侍さんがこんな林の中に用があるとは思えないけど……」
シロ「わんわん!」
桃太郎「そうだよね。きみの鼻の利きはこの村で一番だもんね。きみを信じるよ」
桃太郎は草をかきわけて進んでいく。
とつぜんシロが騒々しく吠え始める。
シロの足下に侍が倒れている。血相を変えて駆け寄る桃太郎。
桃太郎「お侍さん! 大丈夫ですか!?」
桃太郎は侍の肩を抱き上げるが、事切れている。
桃太郎「死んでる。そんな……一体だれが?」
桃太郎の顔に緊張がはしる。
桃姫の声「きゃーっ! 誰か助けて!」
桃太郎、反射的に林の奥のほうを向く。
桃太郎「――女の人の悲鳴だ! 助けに行かなくちゃ!」
駆け出す桃太郎。
◯同・奥(夕)
桃太郎がやってくると、鬼(20)が桃姫(18)を樹木に押しつけている。
鬼「もう逃がさないぜ」
桃姫「ああっ!」
桃太郎「そこの暴漢、婦人になにをするつも りだ!」
桃太郎の声に、振り向く鬼。
鬼「誰だ、てめぇは?」
桃太郎「私は桃太郎。村団子屋で働いている。お侍さんに忘れ物の刀を届けにきたのだが、偶然ここを通りかかった」
鬼「侍? ああ、少し前にオレに喧嘩を売ってきたやつか……」
桃太郎「では、お侍さんを殺したのはおまえか! なんてことだ! 私が刀を届けるのがもう少し早ければ……」
刀の鞘をぎゅっと握りしめる桃太郎。
鬼「刀があろうとなかろうと同じことだ。おまえにも同じ目に遭ってもらう!」
鬼が桃姫を突き飛ばし、猛然と桃太郎へ向かってくる。
鬼が桃太郎を突き飛ばすと桃太郎の足は地面を離れ、勢いよく樹木に激突する。
桃太郎「なんて力だ……!」
鬼「聞いたことはないか? 鬼ヶ島の鬼は怪 力だってな」
桃太郎「おまえがその鬼だと言うのか?」
答えず鬼はニヤリと笑い突進してくる。
桃太郎「……だが、力なら私も負けぬ!」
桃太郎は鬼を受け止める。
鬼「バカな! ただの村人がなぜ我らの怪力を受け止められる?」
桃太郎「――お侍さんの仇だ!」
桃太郎は刀を抜いて、鬼を頭から真っ二つに唐竹割りにする。
桃姫、口を手で押さえてアッと驚く。
桃姫「なんてお強い方!」
桃太郎「……刀など握ったこともなかったが なんとかなったみたいだな」
桃姫、桃太郎の腰にすがりつく。
桃太郎「わわっ! 一体なんです!?」
桃姫「お強い方! どなたかは存じませんが、鬼ヶ島に捕らえられたわたくしの両親を救っていただきたいのです!」
桃太郎、キョトンとした顔で桃姫の目を見つめる。
/了
桃太郎の脚色です。2時間くらい。
無駄なシーンがないので気に入ってます。
2017/10/5 indo
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